9話 素敵な先生
食べ終わってもたまに優しい笑顔で見てくる結美先生を見て、ふと気になったことを聞いた。
「結美先生は彼氏作らないの?」
こんなに綺麗な人なのに居ないのはおかしいと思った。こういうことは失礼かもしれないが気になりどうしても知りたくなってしまった。
「あら、急ね」
「嫌なら答えなくて大丈夫です」
少しでも嫌ならばこの話はやめようとしていたが、結美先生は嫌な顔ひとつせず答えてくれた。
「全然大丈夫よ、私騙されやすい人だから彼氏とか作らないようにしてるの」
「え?」
確かに騙されやすそうに見えるが、それを理由に作らないことに少し驚く。もしかしたら過去にトラウマがあるのだろうか。
「1度ね騙されてた時があってね、安定した収入と見た目で付き合ってるって言われて」
少し悲しそうに呆れたように笑いながら話す結美先生。やっぱりトラウマだったみたいだ。
「最低過ぎません?」
こんな生徒までにも優しい人を騙すなんて最低だ。
「そうね、でも私はその人の優しさに騙されててそれを言われた時すっごくショックだった」
「勿論すぐ別れましたよね?」
「ううん、これからはお前の中身をしっかり見ていきたいって言われて信じちゃったの」
彼女をお前と言ってる時点で最低だ。それに思っていたよりも騙されやすい人だと驚いた。
「まぁ、それから少し経った後それも嘘と気付いて別れたわ」
もう何とも思ってなさそうに言う結美先生。
「クズ野郎ですね」
「汚い言葉は使わないの」
つい汚い言葉が出てしまい結美先生に軽く注意された。絶対いいお母さんになるだろう。叱る時は叱り、褒める時は褒め、話を聞いてくれる。素敵すぎる人だ。
「はい…」
こんな良い人を騙していた人とまだ付き合っていなくて良かったと心からそう思った。
「けど、そんな人のせいで結美先生が幸せにならないとか嫌です」
「雨野さんにとって幸せは何?」
急にそんなことを聞いてきた結美先生だが、何かこの話に繋がるのだろうかと少し考えた。答えはすぐに出たがそれを言うか迷ったが別にいいだろうと言うと決めた。
「…親友とずっと一緒に居る事ですかね…」
自分で言って悲しくなる。うちにとっての幸せは佳奈と毎日お出かけしたり、たまには家でのんびりしたりすることだ。
けど、もうその幸せは無い。
叶うはずが無い。
少し悲しそうに言ううちに結美先生は触れず話す。
「私にとっても幸せは結婚って訳じゃないのよ。私はこうやって雨野さんと話しているみたいに、生徒と話すのが好きよ」
「結美先生〜」
あまりにもいい人すぎて泣きそうになる。結美先生に出会えて本当に良かった。この世界に来て唯一の安心して居れる場所だ。
「そういえば、親友は佐々木さん?」
あまり聞かれたくない内容だったため言うか悩んだが、結美先生だった為少し嘘を混ぜながら言うことにした。
「違います」
「あら、なら他校の子かしら」
「うちの親友は6年前に他界しました」
泣きそうになるのを堪え言う。他界したのはうちだが会えないということは変わらない。
佳奈に会いたいという感情が大きくなる。佳奈の話題を出したり思い出したりするとどうしても会いたくなってしまう。
会ってあの時のことを叱って欲しい、そして一緒に何事も無かったように出かける。
何回もそんな幸せを望んだ。けどそれは無意味だった。
「ごめんなさい、辛いこと言わせちゃったわね」
結美先生はもの凄く申し訳なさそうに謝る。それにこっちも悪いことをした気分になる。こっちこそ彼氏のことを聞いてしまったし気にしないで欲しかった。
「そんな謝らないでください。謝られると気分は良くないので」
「わかったわ」
そう言ったもののまだ申し訳なさそうにしている結美先生。うちも何を話せばいいか分からなくなり少し沈黙が続く。
「雨野さん、少し気になったこと聞いてもいいかしら?」
それを破ったのは少し迷っている顔をした結美先生だ。聞くのか迷っているみたいだ。
聞きづらいことなのか。
「良いですよ」
「雨野さんの一人称は私よね?」
「え、そうですが」
一人称のどこが聞きづらいのかと思っていたが次の瞬間理解した。
「じゃあ、さっきうちと言ったのはたまたまかしら?雨野さんの性格上うちなんて言いそうじゃなかったから気になってしまったの」
「っ…」
つい素が出てしまった。結美先生の傍にいるとつい気が緩んでしまう。
「雨野さん、もし悩み事があるなら先生に話して欲しい」
この世界に来て初めて言われた言葉だった。
相談してと親にも陽夏にも言われたことは無い
何故なら悩み事がありそうな雰囲気を出してないからだ。
もし、出してしまい相談しろと問い詰められ、転生したことがポロッと話してしまったらどうなるか分からない。それが怖くいつも気付かれないよう頑張っていたがつい気を緩めてしまった。
「雨野さんが親友さんのこと話してたとき、本当の雨野さんを見た感じだった。もしよければ本当の雨野さんを見せて欲しい。親友さんのことだけでも良いから雨野さんが良ければ教えてくれる?」
普通は生徒に他界した親友のことを話して欲しいなど言わないだろう。
けど、結美先生はうちの事を知ろうとしてくれてるのだろう。保健室の先生としてではなく1人の女性として聞こうとしてくれている。
「うちの親友は…」