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第17話 新たな脅威

 季節は巡り、ギラギラとした太陽の光が肌を刺す日が続く。

 アレンシア国の輜重(しちょう)兵との戦いが終わり、戦後処理も完了し、城壁も完成しようやく平穏が戻ったマコトが率いるハシバ国……そこにまた新たな脅威が襲い掛かろうとしていた。


「閣下、ミノタウロスの群れが我が国に向かっています。その数およそ90」

「ミノタウロス?」


 ミノタウロス。牛の頭をした、人間とは比べ物にならない位の凄まじい筋力を持つ非常に大柄な魔物で、その戦闘能力の高さから優秀な傭兵として各地の戦場で活躍しているという。

 そんな彼らがこれから戦場に行くのでは? という位の重武装をして「行軍中」としか言えないような動きをしているとの事だ。


「兵を用意してくれ。また戦いになりそうだ」


 傭兵として雇ってもらうため売り込みをかけるとしたら最近戦争があったアレンシア国かミサワ国のどちらかというのが筋だ。

 その2国を無視して自分の所に来るとなると……マコトは最悪のケースを想定して動いていた。




「オイあんたら、ハシバ国のものか?」


 傭兵団を率いているリーダーのミノタウロスが薔薇の騎士団団員に問う。

 彼女は自分より頭3つはでかい大柄の身体と彼が殺気立っていることに恐れながら答えを返す。


「ええ。そうですけど」

「じゃあくたばりな」

「うわ!」


 予想通り、好戦的な一言が返ってくる。

 ミノタウロスは並の人間では持てるかどうかも怪しい大斧を振るうが、彼女はそれを寸でのところで避ける。騎士団員は怯えながら全力で城へと逃げ帰る。


「閣下! ミノタウロスの群れが襲ってきます! いかがいたしましょうか!?」

「クソッやはりか。兵をかき集めろ! 応戦するぞ!」




「緊急事態! 敵襲よ! 狼煙(のろし)を上げて!」

「オイ! あれ!」

「敵襲! 敵襲だぁ!」


 敵国の襲撃を伝えるビューグルが鳴り響き、緊急避難を呼びかける狼煙が上がる。


「落ち着いて避難してください! 落ち着いて!」


 見回りをしていた兵が住民たちに避難を呼びかける。男たちは弓や槍、斧を手に防衛のために出来たばかりの城壁へ向かい、女や子供たちは家や城の中に隠れる。




「完成したばかりの城壁が早速役に立つとはな! 全部隊配置につけ! 応戦するぞ!」


 マコトが愚痴気味にそう吐きながら指揮を執る。


「叩いて潰せえ!」

「ブモ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


 ミノタウロスの群れが、()える。城壁の上で待ち受ける遠く離れたマコト達の肌をピリピリと震わせる。彼らは大盾を構えつつ突進してくる!


「総員! 矢を放て!」


 雄たけびに怯え気味の配下に発破をかけるようにマコトが号令をかける。

 並の人間では両手でも持てない大盾で矢を防ぎ、わずかな隙間をすり抜けた矢が4本5本と突き刺さってもその勢いは衰えない! その様相は筋肉の壁が迫ってくるといったものだ。


「クソッ! タフな奴らだな」


 お返しと言わんばかりにミノタウロスの弓兵が城壁にいる兵士目がけて矢を放つ。クロスボウで放たれた矢のように兵士達の鎧をたやすく貫通し、深々と突き刺さる。無論、即死だ。


「何て馬鹿力だ! クッ! 怯むな! 矢を放て!」


 牛共に射抜かれた死体をチラリと見ながらマコトは発破をかける。それに続いて兵が矢を放つが、残念な事にやはり効果的な打撃にはならない。


「城門をこじ開けろ!!」

「ブモ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


 城門までたどり着いたミノタウロスたちが破城鎚を持って城門を豪快にぶっ叩く。そのたびにドォン、ドォンという大音が辺りに響き渡る。


「あいつら! 力づくで城門を破るつもりか!? 応戦しろ!」


守兵が矢を射かけるがクロスボウですら大盾を貫通することが出来ず途中で止まっている。


「クソッ! だめです! 矢が効きません!」

「城門! 損傷が激しくなってきました!」

「クソッ! どうすれば! ディオール! 何とかならんのか!?」

「もはや城門が破られた後のことを考えるしかありませんな。閣下、私は兵を率いて門の裏手に回ります」

「お、おいディオール! お前身体は大丈夫なのか!?」




 ほどなくして城門がこじ開けられてしまった。待ち構えるのは、ディオールだ。

 振り下ろされる大斧の一撃を避け、ヒザを狙ってナイフで突く。ぐらりと体勢を崩したのを見てさらに腕を狙い、斬る。殺さなくても継戦不能にして戦線を離脱させるだけでも十分だと思ったからだ。


(身体よ……持ってくれ!)


 だが調子は悪いらしく、身体の節々が痛みだしてくる。それを強引に無視して戦いを続行する。

 ミノタウロスを3匹、4匹と退けていくが気力に反して痛みは大きくなり、さらに痺れへと変わっていき彼の身体を蝕んでいく。


(クソッ! もう2度と動けなくなってもいい! 動け! 動いてくれ!)


 ディオールは必死に願うが、身体はついてこない。右手が痺れて剣を落としてしまう。同時に左手のしびれも限界に達してナイフも握っていられずにこれもまた落としてしまう。彼が死を覚悟した、その刹那……。


「もういい! そこまでにしてくれ!」


 悲鳴にも近いマコトの声が戦場に響いた。一時的に戦闘が中止される。彼がミノタウロスの目の前まで行くとどっかりとあぐらをかいた。


「何だテメェ?」

「俺はハシバ国の王、加藤 誠……お前たち風に言えばマコト=カトウという者だ。俺の事はどうなっても良い。殺すなり売り飛ばすなり好きにしろ。だが配下には手を出さないでくれ。頼む」


 彼はミノタウロスの群れに対して命乞いをするわけでもなく、ただ諦めの境地で対話する。


「テメェが国王か? 女達をどこに隠した? 素直に吐けば見逃してやってもいいんだがなぁ?」

「女? ミノタウロスの女か? 俺の国には魔物は住んでるがミノタウロスはいないぞ?」

「そう言うと思ったよ」


 傭兵部隊のリーダーが拳をバキバキと鳴らす。が、それをディオールが制止した。


「お待ちを。我々はホルスタウロスとは無関係ですぞ。この国には1匹たりともいません」

「?????」


 話が全くもってかみ合わない。


「いや、この国は女たちを捕えて奴隷として酷使しているんじゃないのか!?」

「何か勘違いをなされてませんかな? この国にはホルスタウロスなぞ1匹もいませんぞ」

「嘘つけ! 本当はどこかに隠してるんだろ!?」

「ならば領土を隅から隅まで気が済むまで探してみることですな」

「フン。すぐに見つけ出してやるぜ」


 ミノタウロスたちはそう言い放って鼻息荒く領土内を探すことにした。



 - 1時間後 -



 城下町はもちろん、城内までくまなく探したがホルスタウロス……メスのミノタウロスはいなかった。


「本当に影も形も無いな……」

「兄貴! 話が違うじゃないですか!」

「俺たちゃ奴隷解放のために戦ったんだぜ!?」

「え……あ……う……そ、それは、その……」


 まごつくミノタウロスを見てマコトが息を吹き返す。


「今回の騒動はお前の勘違いだった。というわけか?」

「そ、そうだな。そうとしか言えねえ。悪かった」

「こっちはもう、ごめんなさいでは済まないレベルの損害が出てるんだぞ? 分かってんのかお前?」

「悪かった。本当に悪かったよ。何でもするから勘弁してくれねえか?」

「そうか。何でもするんだな?」


 マコトは考え込む。


「お前たち傭兵なんだろ? じゃあ壊した門の修理費、ケガをさせた部下の治療費、及び療養中の損失分、加えて戦死した兵たちへの慰謝料を働いて返してもらおうか?」

「分かった。それでいい。俺はミノタウロスのウラカン。アンタの配下になる契約を結ぼう。今後ともよろしく」


 ミノタウロスのリーダーがそう言うと胸から赤い光の球が出てマコトのスマホの中に入っていった。

 ステータス欄を見るとVR(ベリーレア)。指揮官としても兵としても申し分のないステータスだった。

 続けて部下たちも忠誠を誓い、ミノタウロスの一団は丸々マコトに取り込まれた。


「閣下」

「シュネーか。分かってる。誰かが意図的に流した噂かもしれないって言いたいんだろ? そっちで情報収集を頼む」

「ハッ」


 ミノタウロスは誰かに騙されハシバ国を攻めるようけしかけられた。犯人は誰だろう?

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