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第16話 戦後処理

 ミサワ国を攻めていたアレンシア国王のもとに伝令兵が緊急事態を伝える。


「御注進! 一大事です! シューヴァルに展開している輜重(しちょう)部隊が全滅! 補給路が寸断されました!」

「何だと!? バシャールの奴!! おいお前! 今ある兵糧で何日持つか分かるか!?」

「在庫を正確に把握しているわけではありませんが、持って2~3日程度かと思われます」


 兵糧が無い事は軍隊の士気に致命的な悪影響を与える。特にオークは戦力としては使い勝手は良いがエサを食わしておかないと人間や他の魔物を喰ったり、最悪共食いまでしてしまう。


「クソッ。仕方ない。全軍に撤退命令を出せ!」


 王はイラつきながらも指示を飛ばした。




「閣下、アレンシア国軍の来兎(らいと)国王からのメッセージです。『今回だけはお前の勝ちという事にしてやる。次は無いと思え。それと、どかないと今殺す』との事です」

「わかった。素直にどこう。全軍に撤退命令を出せ」


 マコトがシューヴァル周辺に展開していた兵を引かせた後、武装した魔物や獣人たちが大軍を成して行軍してきた。「軍の中に人間と獣人が混じっている」といった程、魔物が主力の軍隊だった。

 その中心にいる王の姿をマコトは望遠鏡ごしに見ていた。


 ゴブリンのように低い背丈。

 オークのように肥え太った身体。

 トロルのように潰れている上に脂でギトギトな顔面。

 「ブサイク」を通り越して「醜い」という風体。

 こういうひねくれた奴が力を持つと一番厄介な事になるとマコトは経験上知っていた。


 残念ながら、世の中の人間は男も女もブサイクに対しては寛容ではない。事実、ネット上では「ブスの笑顔は公害だ」なんて言い切る連中もいる。そんな人種に接してくるのは、良くて「哀れみ」の感情を持つ者たち。


 「ほっとくのはかわいそうだから優しくしてあげよう」決して口に出しては言わないがそんな思いを込めて社会の輪に入れてあげよう(・・・・・・・)とする連中ばかりだ。


 だがこの種の人間にとってその哀れみ、慈悲こそが最大の侮辱である。美醜どちらかと言えばパッとしない方だと言えるマコトもある程度は理解していた。


「豚王か。噂通りの風体だな」


 豚王。アレンシア国王、来兎(らいと)蔑称(べっしょう)として広く知れ渡っている言葉だ。その名が示す通り、一言で言えば「豚」と言える噂通りの体型だった。




 自国への帰路につくマコト、彼はある者がいない事に気づいた。


「あれ? ディオールの奴何してるんだ?」

「ディオール様なら先ほど体調が悪くて先に帰らせてもらうと言って帰ってしまいました」

「なにぃ?」


 急に体調が悪くなったとは何事か。そう思い彼の部屋へ行くと腹心の部下は自室のベッドの中でうずくまっていた。


「うう……」

「どうしたディオール? つらそうだけど大丈夫か?」


 苦痛に顔をゆがめる彼を心配そうにマコトが見つめる。


「あ、閣下。今の姿を見られたくはなかったですな、正直」

「途中で帰ったと聞いてるがどうしたんだ? 食あたりでもしたのか?」

「いえ。身体に痛みや痺れが出てましてな……長年この仕事をしていると戦場で激しく動いただけで節々が痛むんですよ。まったく、歳はとりたくないものですな」


 ディオールは12歳で初陣を飾り、ある時は父親の元で、ある時は傭兵たちと共に、最近ではリシア国の薔薇の騎士団団長として、50を超えてもなお最前線に立ち続けている。その長い戦場での経験と最高レアリティという天性の才もあって、老いたとはいえ今でも雑兵程度に止められるような相手ではない。


 だが加齢に加え、長年酷使され続けてきた肉体はあちこちガタが来ていて、戦場で武勇を振るった後はそれが痛みや痺れとして出てくる。そうなると1~2日は安静にしていないといけなくなるという。


「申し訳ありません。お力になれなくて」

「分かった。構うな。とにかく安静にして身体を癒せ。それが最優先だ」




 翌日




 マコトの国では戦後処理が進んでいた。

 敵味方問わず戦死した兵の死体を埋めて(かつ使えそうな武器防具などは奪って)、シューヴァルから招いたあまり位は高くないが一人前の聖職者を呼んで葬儀を行い、彼らの魂を弔っていた。


「聖職者を呼んだりと結構話がでかくなったな」

「まぁこちら側の人間はもちろんそうですが、出来れば相手側の人間も死ぬ事態は避けたいですね。人が死ぬのは大変な事ですよ。葬式とか賠償金とかいろいろ面倒ですし埋葬しないとゾンビやスケルトンになってしまいますからね」


 薔薇の騎士団副団長のシュネーは自らの君主に死の重さを語っていた。

 人が死ぬというのは世界を問わず大変な事である。後始末に非常に手間がかかるからだ。


 まず戦場周辺は血液で汚れるというのがある。血液による汚れを落とすのは非常に難しい。地球では例えばクリーニング店や特殊清掃員といった専門家が商売のタネにしているほどだ。


 さらに死体もきちんと処理せずに放置すると腐ってしまい悪臭や感染症の元になって極めて不衛生だ。

 おまけにこの世界においては人間の死体はきちんと処理して埋葬しないとゾンビやスケルトン、ゴーストにレイスといったアンデットモンスターとして蘇り、辺りにいる生き物全てを見境なく攻撃しだす始末だ。


 他にも自国民が死んだら当分の間の生活を維持させるために遺族にお金を払う必要も出てくる。世界は違えど、人が死ぬというのはそれはそれは大変な事なのは変わらない。




「バシャール、埋葬の進み具合はどうなってる?」

「は、はい! 閣下! 今日中には全ての死体の処理が完了する見込みであります!」


 アレンシア国の補給部隊長バシャールはマコトの軍勢に取り込まれた……というか、寝返った。

 「アレンシアに帰ったらあの豚王に殺されてしまう」「末端でも良いので雇ってくれ。殺されたくない」とマコトに散々泣きついて来たので「お前には出世の道はまず無いがそれでもいいか?」と伝えたうえで配下になったのだ。


 ちなみにレアリティは(ノーマル)でゴブーよりはマシと言えるパラメータで、戦場では何とか使い物になるといった程度だ。


 それにしても本物の戦争を起こして、しかも総大将として軍の指揮をしたのに現実感というのはかなり薄かった。

 まるでその辺のVR(ヴァーチャリアリティ)ゲームよりもリアルなウォーシミュレーションゲームをやっていたかのように頭は冷静に動いていた。

 軍隊指揮の才能があるのか、ウォーシミュレーションゲームには慣れっこだからなのか、はたまた戦争という非常事態で変な脳内麻薬が出たからなのかは分からない。


 王をやっている以上、戦争もまた日常となっていくのだろうか?

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