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前編

以前こちらで投稿させてもらった、「魔法士レインの物語」の修正作品です。 内容、題名と共に大幅な改良を加えているので、先に投稿した作品は近いうちに削除予定です。

よく晴れたある日のこと



「「炎の精霊よ、我が剣に集え来たれ、そして我と共に敵を貫け! 炎剣矢(ヴァンアロー)!」」



背丈の低い広大な草原の真ん中で、詠唱魔法科の魔法生たちと魔法剣科の魔法生たちによる合同訓練が行われていた。



「「雷よ、一筋の光となり、彼の者を目指せ! 雷火(ライ)!!」」



詠唱魔法士たちが放つ魔法は、ほとんど的に命中していくが、ただ一人だけ全く的に擦りもしない魔法生がいた。



「はぁ、また外れちゃった」



その魔法生(まほうせい)、名はレイン・アルテッサ


最近になって戦闘用の魔法を覚え始めた、詠唱魔法科の二期生



優しさとやる気だけが唯一の取り柄だが何をやっても失敗ばかり


取り分けて頭が良い訳でも、運動神経が良い訳でもない、普通より少し要領の悪い17歳の少年だ。



「よしっ、もう一回!」



レインは気合いを入れ直すと、二キロ先に見える丸い的へ当てるイメージを頭に思い浮かばせる。



この日の訓練内容は、手に小さな雷を作り出し、的に向かって放つだけの簡単なもの



魔法自体もさほど難しいものではない。



「意識を的に集中……雷よ、一筋の……「炎の精霊よ、我が剣に集え来たれ、そして我と共に敵を貫け! 炎剣矢(ヴァンアロー)!」



あともう一節というところで、何とも威勢の良い声がレインの耳に入ってきた。



「赤のローブ……剣士の子か」



声の主は少し離れた場所で、柄に赤いルビーがはめ込まれた剣を手に持った一人の少女。



レインの視線には全く気付かず、少女は不機嫌な顔つきで的を睨んでいた。



「ダメね、まだまだ甘いわ」



この魔法生、名はアリス・マルティナ


魔法剣士科の二期生


かなり気が強く負けず嫌いな性格だが、学園きっての秀才であり、テストなどは必ず決まって上位に入るほど



他にもスポーツ万能、容姿端麗(ようしたんれい)頭脳明晰(ずのうめいせき)、家は代々優秀な魔法士を輩出(はいしゅつ)している名家、全てが完璧過ぎる17歳の少女。



「こんなじゃ遅すぎる……」



アリスの属する剣士科の訓練は、訓練用の剣に炎を(まと)わせ、その状態で太い丸太であしらった的に向かって斬りつける、というもの。



これも簡単な初級魔法ではあるが、剣の振る時の動きが遅ければ遅いほど炎の威力は下がり、早ければ早いほど威力は増していく。



一見簡単そうに見えて、実は難易度が高い魔法なのだ。



「もっと早く、もっと強く剣を振らないと……」


「もう少し、肩の力を抜いたほうがいいんじゃないかな?」



悩むアリスを見て、レインはそっと近寄り声を掛けた。



「えっ?」


「頭を空っぽにして何も考えず、もっと肩の力を抜いて楽に振ってみなよ。 そしたら、今よりもっと良くなるから」


「はっ? あなた何言って……「いいからいいから、一度だけやってみてよ? 僕に騙されたと思ってさ」



レインはアリスの言葉を制して言った。



「……分かった、でも一度だけよ?」


「うん」



アリスは渋々ながらも剣を構え、意識を剣に集中させ魔法を唱える。



「炎の精霊よ、我が剣に集え来たれ」



そしてレインが言った通り、目を瞑って何も考えずに頭を空っぽにしていく。



「そのままゆっくり歩いて、ただ前に」



アリスは一歩、また一歩と前に進む。



「少しずつ速度を速めて、力が剣に集まっていくのを感じたら……思いっきり振るんだ!」


「我と共に敵を貫け! 炎剣矢(ヴァンアロー)!」



最後の一節を唱えた瞬間、剣は激しい炎に包み込まれた。



(す、すごい……初級魔法でこれだけの炎が出るなんて)



アリスはそのまま一気に走るスピードを上げると、地面を蹴って的に斬りかかった。



「はぁぁっ!」



太い丸太であしらった(まと)は、アリスの着地と同時に斜めに切れていった。



「……ふぅ」



アリスは腰に付けた鞘に剣を納めると、倒れた的を一瞥してレインの下に戻っていく。



「キミ、すごいね! 初級の剣魔法であれだけ引き出せる人は初めて見たよ」



驚きと興奮が入り混じった、そんな表情でレインは言う。



「ありがとう、あなたも詠唱科にしてはずいぶんと剣魔法に詳しいのね」


「……僕、キミに詠唱科だって言ったっけ?」


「言ってないわ、でもあなたのローブですぐ分かるわよ」



頭に疑問符が浮かべるレインに、アリスはレインが着ているローブを指差した。



このアニマ魔法学園では属する科によってローブ、つまり制服の色が異なる



詠唱科は緑のローブ、剣士科は赤のローブに色分けされているのだ。



「あっ、それでか!」



愛嬌のある微笑みを満面に湛え、柔らかな声で笑うレイン。



「……ふふっ」



釣られてアリスも小さく控えめに笑った。



「そうだ、僕は詠唱科のレイン、レイン・アルテッサ。 キミの名前は?」


「剣士科のアリスよ、アリス・マルティア」


「アリスって、あの……「はいはーい! みんなちょーっと集まってくれるかなー?」



レインが何か言い掛けた途端、力強くも凛としたハリのある声がこの辺り一帯に響き渡った。



「とーっても大事な話があんの、休憩所に集まってねー」



声の主、名はエリーゼ・マグノリア


詠唱科と剣士科を兼任する学園随一の美人教師、通称エリー



普段は明るく穏やかな性格だが、本気で怒ると鬼のようだ、という噂があったり無かったり……



「大事な話って、何なのかしら?」


「さぁ? とにかく行ってみよう」


「そうね」


レインとアリスは、ひとまずエリーゼの待つ仮設された休憩場へと向かった。






「ねぇ、レイン」


「うん?」



頭上に天高く登る太陽が照りつける中、アリスはおもむろに口を開いた。



「レインはどうして詠唱科に入ったの?」


「さぁ、何でだろう」



唐突過ぎる質問に戸惑いつつ、レインは曖昧な返事を返した。



「ちょっと、それじゃあ答えになってないじゃない」


「あはは……そういうキミはどうして剣士科に?」



少し機嫌を損ねたのか、頬を膨らませるアリスに、今度はレインが問い掛けた。



「理由は二つ、一つはあの人が剣士科の担任だったから」


「……あの人?」



コクンと頷いたアリスの視線の先に、腰に手を当てた仁王立ちになって立つエリーゼの姿があった。



「私が剣士科に入った二つ目の理由は、あの人のような強くて優しい立派な剣魔法士になる為よ」


「そう……なんだ」



誇らしげに話すアリスだが、レインの表情は少し曇って見えたような気がした。



「そこの男女二人! 何してるの、さっさと来なさーい!」



華やかに澄んだエリーゼの声が辺りに響く。



「あ、すみません!」


「すぐ行きます!」



我に返ったレインとアリスは、大急ぎで休憩場に行った。






「うん、これで全員揃ったわね」



各科の魔法生全員が集まったところで、エリーゼは木製の空箱に上がると、ひどく神妙な面持ちで各科の魔法生たちを見つめた。



「それじゃあ……今から抜き打ちの実力テストを行いまーす!」


「「えぇっ?!」」



魔法生たちの間から一斉にどよめきの声が巻き起こった。



「いきなり実力テストだなんて、そんなの聞いてないよ」


「あら、事前に知っていたら抜き打ちの意味がないじゃない」



げんなりとした表情で呟くレインに対して、何故かアリスの声は弾んでいて嬉しそうだ。



「はいはーい、みんな静かに!」



エリーゼはパンパンと手を叩き、どよめきを収めるかのように声を掛ける。



「今回の実力テスト、強制ではないけどなんと合格者には特別に、学園からものすっごい賞品が貰えるそうよー」


「賞品?」


「どんな?」


「やるやる!」



賞品と聞いて、魔法生たちはキラキラと瞳を輝かせ、エリーゼの言葉を待つ。



「どんな賞品なのかは……合格してからのお楽しみ、さぁ参加する人は手を挙げて!」



この言葉にほとんどの魔法生たちが手を挙げ、レインとアリスも参加の意を見せた。



「よしっ、それじゃあ実力テストの内容を説明しまーす」



魔法生全員が固唾を飲んで見つめる中、エリーゼは深く息を吐くと、未だかつて見たことがない真剣な表情でこう言った。



「これからとても凶暴な生き物がこの訓練場に飛んで来ます。 下手をすればみんなの生死に関わるけど、それを時間内に足止め、もしくは倒す事が出来れば合格よ」



それまで楽しげだった雰囲気が一転して重苦しいものに変わった。



「……エリー先生、その凶暴な生き物って何ですか?」



恐る恐るレインが聞いた。



「もうそろそろ来るはずよ、南の方向を見ててごらん」



エリーゼが指差す方向には、魔法生たちが多くを学び、生活する学舎が見える。



普段と何ら変わらない風景だったが、しばらくすると黒い豆粒ような物体が、こちらに向かって飛んでいるのが分かった。



「お、おい……アレって」


「……嘘だろ、何であんなのが?!」



魔法生たちの間からは驚きと恐怖が入り混じった、そんな声が上がってくる。



「ありゃー、やっぱ学園の報告よりもおっきいねー」



先ほどの真剣な表情はどこへ行ったのか、なんとも悠長な声でエリーゼは言う。



「まさか、あれを倒すんですか?」



今度はアリスがエリーに問うた。



「うん、あれは主に火山地帯で生息している野生のドラゴンでね、どーしてか学園に迷い込んで暴れちゃったのよ。 で、救援が来るまで足止めするようにって校長直々に言われたわけ」



そう、謎の物体の正体は全身が深紅の鱗に覆われたドラゴン。



日光に反射するその表面は、まるで鋭い金属のような輝きを持ち、口からは本物の刃が何本も揃えられているかのように、牙が覗いている。



「そんな! 私たちはまだドラゴンと戦えるような魔法も道具も持っていません、これで足止めなんて無理です!」


「道具なら訓練用に渡した剣があるでしょ? 魔法も初級だけど十分戦闘で通用するし、いざとなったらあたしが助けに入るから……それに」



エリーゼは箱の上からピョンと飛び降ると、何やら不敵な笑みを浮かべた。



「それに?」


「ふふっ、ちゃーんと秘密兵器も用意してあるからさ」



何故かエリーゼはレインに眼差しを向け、アリスの質問に答えた。


その謎の視線に、レインは何やら嫌な予感を覚えた。



「さぁ、質問はここまで! 各自、戦闘体制に入って! 何人かでパーティーを作って戦うも良し、フリーで作戦を考え戦うも良し、戦いに参加しない者は私の傍に集まって!」



魔法生たちは動揺しつつも、皆それぞれに動き始めた。



「はぁ、とんでもない事になったね」


「そう? 私には願っても無い事だわ」



声だけでなく表情まで嬉しそうなアリスを見て、怪訝な表情をするレイン。



「さっきから気になってたんだけど、これからドラゴンと戦うのに、何でそんなに嬉しそうなんだ?」


「だってこんな経験滅多にないもの! 初の戦闘がドラゴン退治だなんて、相手にとって不足はないわ!」



意気揚々と話すアリスに、レインはやれやれと肩を落とした。



「来るぞー!!」



不意に周りの空気を緊張させる荒々しい声が聞こえてきた。



「いよいよね」


「……うん」



この場にいる全員が表情を強張らせ、ある者は剣を、ある者は己の手を、またある者は傍にいる者の服を強く握り、戦いの時を待つ。



そして……



「グォァァァッ!」



まるで突風が吹いたかのように草木が揺れ、咆哮の凄まじい音量に思わず耳を覆う。



宙を舞っていた巨体が地を踏みしめて、その衝撃で地面がグラリと大きく揺れた。



「で、デカイ……」


「こんなの……倒せるわけない」



ドラゴンはまるで大トカゲと肉食恐竜を合成したような外見をしていた。



頭の先から尻尾までの大きさは二十メートルを悠々と越え、深紅の鱗で覆われた全身は強烈な威圧感を放っている。



重量感がある胴体を支え四肢(しし)はガッシリしていて力強い



胴だけでレインやアリスの身長を超えるくらいに大きく、その先には凶悪な爪が生えたおり、口は人間を丸呑みに出来そうなほど大きい。



内側に生え揃っている牙は鉄をも食い千切りそうな程に鋭く、もしもこんな凶器に襲われでもしたらどんな強力な魔法具(まほうぐ)

を手にした魔法士であっても、無事では済まないはずだ。



「先に行くわよ、レイン!」


「ちょっ……はぁ、しょうがないなぁ」



腰の(さや)から剣を引き抜き、両手で構えると勇敢に立ち向かうアリスにレインも続く。



「凍てつく氷よ、其れを凍らせよ! 氷結(フリーズ)!」



アリスはドラゴンが最も苦手とする氷系の剣魔法で凍らせようと試みたが、大きな翼で巻き起こされた風が邪魔して近付けない。



「それなら……雷よ、一筋の光となり、彼の者を目指せ! 雷火(ライ)!」



続けてレインは今日習い始めたばかりの魔法でドラゴンの頭を狙った。



しかし、放たれた小さな雷はドラゴンとは全く別の方向へと向かっていく。



「ちょっと! どこ狙ってるのよ?!」


「ごめんごめん、まだこの魔法上手く使えなくて」


「だったら他の魔法を使えばいいじゃない!」



ヘラヘラと呑気に笑うレインに怒気を含んだ声でアリスは言った。



「うん、それもそうだね」


「まったくもう……次からはちゃんとやってよ?」


「うん、ごめんごめん」



アリスはもう一度剣を構え、レインは軽く深呼吸をして次の攻撃の身構えに移る。






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