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第1話 OL生活に疲れました。

私の名前は佐倉(さくら) 美月(みづき)。

31歳のOLだ。

バリキャリ営業として、毎日めっちゃくちゃ働いている。


もうツライ。

キツイ。


幸い、仕事の成績はいいのだ。


だけどこの成績は才能のおかげなんかじゃない。


ひたすらに努力。努力の一本槍。


恋もプライベートも無い、こんな生活。


正直、全部投げ出して、会社もこんな人生も辞めて実家に帰りたい。


しかし、不幸なことに、私に帰る家はなかった。


私の両親は5年前事故で亡くなってしまった。


だからこそ…。


亡くなった両親に『立派に生きてるよ!』と胸を張りたくて懸命に生きてきた。



 * * *



今日も1日が始まった。


こんな毎日、もう無くなってもいいのに…


と、思いつつも、会社にはかすかな楽しみもあった。


「おはよう。」


「あっおはようございます!犬飼(いぬかい)部長!」


会社の最寄駅で声をかけられた。


「佐倉さんは今日も元気だね。

私も頑張るよ。

はい、これあげる。」


そう言って部長は、セブンに売ってるチョコラングドシャと、カフェラテ<シュガーレス>をくれた。


「わっ。いつもすみません。ありがとうございます。」


「いつも成績優秀で頑張ってる佐倉さんに返せるものって、これくらいだからね。」


「えっ…いえいえ…

仕事は当たり前のことで…。」


「当たり前が一番むずかしいんだよ。

その努力を続けるのが一番大変なんだよ。

あんまり無理しすぎないでね。

なんか顔色が悪いように思うから…」


「あっはい!

ありがとうございます!

だけど、部長のおかげで今日は元気出ましたので!」


そんなことを話していると会社に着いた。


犬飼部長は、45歳のナイスミドル。

いわゆるイケオジだった。


こんなに素敵なシゴデキイケメンなのに、なぜか独身で、朝早く来て犬の散歩なんかしてる。


…犬の散歩?


そう、今、部長は犬を散歩へ連れて行こうとしている。


今日は…私の仕事にも少し余裕が有る。


私は散歩についていくことにした。


会社で飼われている…厳密にいうと社長の飼い犬、キャバリアの『チャーリー』の散歩へ行った。


チャーリーは社長の出勤と共に出社して、犬飼部長が30分ほど散歩へ連れて行く。


…謎だ。

ブラックだ。

部長をこき使いすぎだ。


とも思う。


だけど、ある日部長に『なんで犬の散歩まで…』みたいなことを言うと


「私は犬が本当に大好きなんだよ。

特にこのチャーリーはとっても可愛くて賢い犬だよ。

怖くなかったら触ってみるといい。」


と、言われて、その茶色い細い毛の頭を撫でると、目を細めてくれた。


あたたかな体温が柔らかな毛を通じて、手から伝わって…


妙に癒された。


「チャーリー。」


呼んでみると、賢そうな瞳で見つめられて、私もすぐにメロメロになった。


犬を飼ったことはなかったが、確かに可愛い。


部長から貰ったおやつを、チャーリーにあげてみると、すごく喜んでくれた。


それから時々、仕事が立て込んでない日には、私も散歩のお供に加えてもらった。 


今日も、その散歩に加えてもらった形だ。


…チャーリーは男の子だ。


公園で地面を嗅ぎまくって、時々片足をあげてマーキングしている。


ウンチも出た。


部長はイヤな顔一つせず

「良いのが出ましたね〜!いい子だよ。」

と、言いながらウンチを回収し、チャーリーの顔を両手で包んでワシワシと撫でた。


…部長の手って…大きいな。


そう思いながら見ていたら、チャーリーは誇らしげに目を細めた。


すると部長はますます、チャーリーを撫で回した。


首の後ろを掻くと、チャーリーは首を部長に押し当てて気持ちよさそうにしている。


……。


いいなぁ…チャーリー…


気持ちよさそう…。


きっと部長に撫でられて気持ちいいんだろうな〜。


…私も部長に撫でられてみたいなぁ…。


大きな手でワシワシされたら気持ちよさそう…


……。


あっ!決してアレな意味じゃなく!


純粋な意味でね?!


部長にあれだけ可愛がられたら、嬉しいだろうなって…


部長の犬になったら、さぞ幸せなんだろうなって…


…決してアレな意味じゃなくて!!!!


……。


そんな事を考えてたら、鼻から液体が出た。


おっといけない。風邪かしら。


嫁入り前の身なのに、鼻水を垂らしたりしてるところを部長に見られでもしたら…


と、ハンカチで押さえて初めて違和感に気づいた。


…血だ。


えっ…これ、鼻水じゃない…?


えっ…。

すごい勢いで血が出てきてる。


さっき、ややアレな事を考えたからーー…


「佐倉さん!!

佐倉さん動かないで…!!」


気づいたら部長が叫んでいたし、私は横になっている。


「あ、部長…私倒れましたか…?

ご迷惑をおかけしてー」


「そんな事どうだっていいんだよ!

お願いだから動かないで…!」


「……。」


それ以上は言葉が口から出てこなかった。


が。

ものすごくマズイ予感だけはする。


急速に身体が冷えてきて、震え始めた。


「チ、チャーリーは…

部長…」


「チャーリーはここに居るし、救急車を呼んだから!

今はじっとしてて!

喋らなくて良いから!」


…あ。


私、部長に抱えられてる。


重くないかな。


申し訳ないな。


部長は見たこと無い形相で何かを叫んでる。


なのに、なぜか私の耳にはその言葉が入ってこない…


そして…


私の頭もワシワシと撫でてくれませんか?


心に最後に浮かんだその言葉も…


もう言う事は叶わず…。


私は、開けていられなくなった目を閉じた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


……。


目を開けた。


眩しい。


そして、暖かい。


最後の記憶では寒かったのに、今はもう暖かかった。


夏……。


……いや、春?


周りは新緑と言える青々とした草木が勢いよく伸びており、色とりどりの花が咲き乱れていた。


ん…んんん?


ココ、どこ?


部長は…??


そう思いながら、私は立ち上がり……


あ…あれ??


あれれ?


これ、立ってるって、言う?


どう考えても四つん這いなんだけど…。


ええぇ…


え、どうしよう。


ちょっとリスクもあるけど、大声を出してみようか…


せーのっ…


「ワオォォォーーーーーーーン!!」


オワッタァァァァァーーーー!!!!!


はいはいはいはい!!


終わり終わり終わり!!!


察した!全部!


とにかく、今、私、人間じゃ無い!!!


高確率で、犬!!


あれか!?


最後の瞬間、部長の犬になりたいとか思ったからか!!


死んだんか!?


っていうか周りの様子…これ、日本じゃ無くない?


なんか建物…らしきモノは見えるけど、石造りだ。


わぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!


詰んでるわぁ…。


どうしたらいいのよう…。


…そう思いながらも私は歩き出した。


…。


わっ。


身体が軽い…というか、動く動く。


すっごいスムーズに身体が動く!


わっ!ワワワ!


めっちゃ速く走れる!!


っていうか、なんか視界が広いし、匂いを鮮明に感じ取れる!


わ〜〜〜!!


なんか楽しい!!


思えば、大人になってからこんなに走ったことが無かったなぁ!


しかも、両親が死んでからこんなに清々しい気分で外を見回すこともなかった気がする!


わーーーーー!


速い速い!


アップダウンも気にならない!


岩を飛び越えたり、小川を飛び越えたりも簡単!!


楽しい!


たーのしーーい!!


おっ!あそこ、門らしきものがある!


ふふっ人間が立ってるけど、間通っちゃおっと!


「あっ!そこの犬!

止まれ!!

あっコラ!」


アッハッハッハ!!!


見たあの人間の顔!


無駄無駄!

一人でこの私の脚を止めようだなんて無駄よ〜〜〜〜!!!


っていうか、西洋風の人間だったなぁ…


…と調子に乗って走っていると、若い男がお肉を持って待ち構えていた。


あっ…お肉の匂い…。


そういえば…お腹すいたなぁ…


そう思いながら急停止するとーーー。


「つーかまえた!!」


若い男…男の子?に首の周りをギュッと抱きしめられた。


わわわっ!


よく見たら美少年!


ヤダヤダヤダどうしたら…


「ニコ。

何を騒いでるんだい。」


「父上!

犬がいましたよ!

白くて大きな犬です!」


「あっ本当だ。

…綺麗な子だね。」


「ワオワオワオワオーーーーン!!」


ワーーーーーーーー!!!


ワーワーワー!!


キャーーーーーーーーー!!!!!!


その声その目、そしてこの匂いっ!!


部長だーーーーーーーーーーーーーー!!!


西洋風だし若返ってるけど、絶対部長ーーーーーーーーーー!!!!!


キャーーーーーーーーー!!!


かっっこいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーー!!!!


…と、部長に飛びついたところで


「あっ!

この犬怪我してる!


血が出てるよ!」


と、ニコと呼ばれた男の子が言った。


「鼻血だ…。」


部長も言った。


…えっ。


私、また部長の前で鼻血を…??


…そこで、私の意識は途切れた。


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