3 作戦失敗
正直頭に来たが、久しぶりに私に振り回される優真を見られて少しうれしい。立ち上がってスカートをはたき、再度今日のビジュを確認する。
数分もしないうちにまた扉が開き、優真が出てくる。その視線は完全に私を避けるものだ。無理に避けようとするぎこちない表情を浮かべながら壁しかない私とは真逆の方向を眺め続ける。
「おはようっ!」
優真の前に飛び出し、可愛く上目使いを駆使しながら挨拶をするも優真は一向にこちらを向く気が無い。が、そんな事も関係なしにいつも通りに話しかけ続ける。しかし、肩をどれだけ叩いても返事も無ければ目も合わせない。本当に絶交したつもりなのだろう。無論私は認めていないため絶交などしていない事になっている。
ただ朝だから機嫌が悪いだけ、
冷たく冷めきった優真の瞳には私の姿が映されていない。その瞳を見てから朝から待っていた時の熱は段々と冷めていき振り撒いていた愛嬌が尽きる。
「返事をしたらどうなの? 私が見えていないとでも言うの?」
「……あぁ、見えていない」
私に一瞥もせずに真っ直ぐ前だけを見て歩き続ける。その態度が私の癪に触り優真の腕をギュッと掴み、なけなしの胸をちらつかせる。
だが優真はさらにそっぽを向いてしまうだけだ。歩きながらが悪いと思い、どうにか一人で先を行こうとする歩みを止めたいが、私の力ではどうしようもなかった。
私の胸に抱かれる優真の腕。少し乱暴だが無理やり振りほどこうとはしない暖かい腕。私を引きずって進む力強い足取り。私のロンファーが削れていく音を奏でさせながらどこまでも突き進む。
前だけを見ようとしながらもちょくちょく私を横目で見る顔。この角度から見ることはあまりない。さすがに大変なのだろう。汗が一筋流れ、制服に染み込んでいく。人には人の匂いがある。香水をつけない優真から香るこの匂いは純粋な優真の匂い。
優真と一緒にいるとやっぱり楽しい。優真を見ているだけでも、ゲームとかの遊びをしなくてもこうしているだけで楽しい。
優真は今何を考えているのだろうか。少しは私を許してくれたのだろうか。こんなに可愛い私が抱きついているのだからドキドキで胸がいっぱいだろう。私の鼓動も――
「邪魔なんだけど。離しててくれない」
「もう話さないんじゃないの~? やっぱり私がいなくちゃね」
斜め上を見上げてだるそうに口を半開きにする。優真のクセだ。ダルい時にする表情。とても分かりやすくて可愛い。
私は腕を離してステップを刻みながら優真の前に立ち塞がり、歩みを完全に止める。何も言わずにどこかに行こうともせずに優真はその場で私を見つめる。いつもの眠そうな優真の瞳に薄く陰ったような私が映っている。
「ねぇ、今日は一緒にサボらない? 出てくるの遅かったし、歩くのも遅いからこのまま行っても遅刻しちゃうしさ」
覗き込むような視線。拙くても胸元を見せつけるように少し屈み、髪をなびかせながら優真の心と瞳を揺らす。
揺らせているはず。揺れていてほしい。私をもう一度、私ともう一度、
優真が口を開くまでの短い時間。大きく息を吸い、彼が声を発して私に届くまでの時間。そんな一瞬がとても長く感じて、まるで告白したように胸がいっぱいに膨れる。
前にも誘ったことはあった。一緒にサボった事もある。なぜこんなにドキドキするのか、帰ってくる答えが分からないから? 私の彼氏にするには少し頼りなさそうな彼に、どうしてこんなに私が振り回される側なのか、
ゆっくりと彼の口が開いて、彼の声が私に届く。
「――ウザイ」
ゆっくりでも動いていた世界は完全にその言葉で凍り付いた。その言葉で全身が強張り、大きく心臓が脈を打ち、ドキドキとした心音が途絶える。
あれだけ必死に止めていたのに進みだした優真を止める事はおろか、目で追うことすらできない。
何がいけなかった? どうしてこうなった? こんなことは考えていない。考えたくもない最悪の展開が今目の前で起こった。
頭の中が真っ白になり、焦りが可愛い私を壊していく。汗がにじみ、無駄に瞳孔が揺れ、完璧だった私は崩れた。
「ま、待ってよ……!」
振り返って呼び止める頃には優真の後ろ姿は小さくなっていた。




