2 決戦準備
夜、暗い部屋で暖かい布団を頭まで被る。熱いと感じながらも冷めきってしまった心の中では絶望感と焦燥感がいつまでもぐちゃぐちゃと周り続けて中々寝付けない。
布団から顔を出し時計を確認するとベッドに入って一時間以上が経過し、深夜の時間帯に突入していた。それでも気持ちは一向に落ち着く気配が無い。私はベッドでバタバタと暴れて気持ちやり場を誤魔化そうとした。
こうなってしまったのも全部優真のせい。そう自分に言い聞かせなければ自分が持たない。自分の言動のせいだとは思いたくない。完全に嫌われたと思いたくない。いつまでも脳内に居続ける優真に苛立ちを覚え始める。
「何でこんなに優真の事で悩まないといけないのよ」
先の事をいくら考えても不安は取り除けない。これからの事を考えるのを止め、確かにある過去の思い出に浸る。他愛もない時間を振り返り、心が温かくなると同時にこれ以上の関係性が無くなってしまう現実をどうして割り切れない。一つを強く決心し、私は目を瞑った。
そして日の出頃、普段ならば涎を垂らし寝ている時間帯。一回目のアラームの鳴り始めるだいぶ前の時間帯に私は目を覚ました。ダラダラとした一日の始まり方ではない。私の中に明らかな変化がある。
そしてそのまま風呂場に向かい、布団で温くなった服を脱いで、朝の少し冷たい空気を肌で感じる。蛇口を捻り一晩ですっかり冷めきった水がお湯になるまで窓から差す普段は見ない光の色と寝起きには向かない冷たい水の跳ね返りを眺める。
脚裏を温まった水が浸し、ゆっくりと水を全身に浴びる。朝にお風呂に入る不思議な感覚とスッキリとする体に朝風呂の有用性を感じながら頭の中で今日の流れをもう一度考える。
優真と喧嘩をしてから通学の時間帯に出会わなくなってしまった。どちらも意地を張り、お互いに距離を取っていた。謝りやすいように少し近づいたりもしたが呼び止められる事なく無視を続け合った結果、私が痺れを切らして昨日連絡をした。が、絶交されてしまう事になってしまった。
そこで今日は早起きをし、優真の通る通学路で待ち伏せをする根端だ。身なりも整え『こんなに可愛い子と縁を切るのはやっぱり無理だ~』と言わせれば良い。
自分に自惚れ半分、願望半分で身体を洗い終えると、私は扉を開けた。寝起きより慣れた冷たい空気があっという間に濡れた身体を乾かしに襲いに来る。タオルで水滴を拭き取り、服を着ようとするも制服に再度着替えるのは面倒なため下着だけを身に着ける。
まだ十分湿気た髪にくしを通し、ドライヤーの暖かい風で髪をなびかせる。さらさらと指の間を抜けた髪に首元をくすぐられ、それが自意識と重なり笑みがこぼれる。
「よし!」
普段よりも入念に準備した風貌が自分を景気づけ、謎の自信が沸いてくる。
じっと鏡に映る自分を見つめて最終チェックを行う。段々と視線が胸に降りていき、何秒間か考え込む。コンプレックスまでとは言えないが、この大きさで魅惑のボディーとは言えないだろう。そこだけこが今回の作戦で足りないところだ。
少しだけ寄せてどうにか盛ろう努力するも良いようにはならずに自分でもその姿に半笑いを隠せない。ともあれここで出来る準備は終わり。自室に戻ってベッドの端っこに集められた制服を引っ張り出し、腕を通す。寝ていたベッドに埋もれていたからかまだ温かみが残っている。
着替え終わるころには家を出る予定の時刻が目前まで迫っており急いで冷蔵庫からヨーグルトを取り出し、十秒ほどで朝ご飯を済ます。バタバタともう一度洗面所に戻り歯磨きをしながら曲がったリボンを直し、数本の跳ねた髪の毛を整える。
「行ってきます」
普段より数十分早く家を出る事に親も驚きを隠せていない。夏に差し掛かるこの季節は十分に暖かく、ブレザーを着て走るには少し熱いと感じられる気温だ。学校とは逆方向にある優真の家までの道は何千回と通った道だ。高校に入ってからは通る回数が少し減ってしまったがそれでも慣れ親しんだ道だ。
木製の電柱を通り過ぎ、ピンク色の変わった家の所で曲がりあとはまっすぐ行くだけ。今の所優真とすれ違う事は無かった。まだ家を出ていないのか、道を変えられてしまったのか……
優真の家の前についてから数十分経つが気配は感じられない。まだ時間に余裕がある事をスマホの時計を確認する。この時間に家を出ていたらチャイムの四十分前には学校に着くことになってしまう。朝からの待ち時間という暇な時間を過ごし、流石に早すぎたかと少し後悔する。
だが、それから十分、二十分と時刻は変わっていくも出てくる気配はない。そろそろ学校に遅刻してしまう時間帯になった時ようやく家の扉が開き、優真の姿が見え、道の端でしゃがみこんでいる私と目が合うや否や扉を閉められた。




