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 王の出資によりノーススワン領から王都まで引かれた水道は、その先グランコリーナ王国までつながっていた。驚いたことに、王家はグランコリーナ王国から水道の利用料を取っていた。


 王家は私の父母の代になると水道利用料の支払いを「当面保留」することを強要し、国に貢献した名誉として私と王家との婚約を無理矢理結んだと聞かされた。

 今となってはお父様もお母様も亡くなっていて、真実を知ることはできないけれど、お母様がお継母様に宛てた手紙には、娘が不憫でならない、せめて王子がいい人であることを願う、と書かれていた。


 お父様、お母様と、お継母様は学生時代のお友達で、特にお母様とは親友だったそうだ。

 学校に寄付したのも母校だからで、寄付金はもちろんお継母様のポケットマネーで支払われていた。

 お母様が死んでからもずっと私達家族のことを気にかけてくれていて、お父様の体調不良を聞きつけ、余命が短いと知ると、子供達の面倒を見ると約束し、自分も結婚していたのに離婚して無理矢理入籍を迫ったのだそうだ。

 お継母様の名は、シェリル・シガーレ・ヒュッテンブレンナー・レイトン。

 シガーレ公国の元第三公女。

 現公爵である兄を支え、国政にも携わる筋金入りの大貴族だった。

 お父様とは名目上の結婚で、いざという時に我が家に介入するために籍を入れただけで、この一件が落ち着いたらまたお国に戻ってしまう。

 別館であんなに忙しそうにしていたのは、国の仕事以外にもいろいろな事業に出資していて、どうしても休めない仕事をこなしていたのだそうだ。

 今、我が国でも人気のドレスショップ、エルドベーレにも出資していて、それで待つことなくドレスを入手できたらしいのだけど、お兄様へ渡った請求書で買えるような金額じゃないと、友人からも教えてもらった。お兄様はまけてもらったと言っていたけれど、きっとまけてもらえたのではなく、大半をお継母様が出してくださっていたのだろう。


 三代前のレイトン卿、私のひいおじい様は豊かな水量を誇る隣国のリュート湖から水道を引くことができれば、領の水問題は解決し、将来的には国のためにもなると考え、隣国と協力し、シガーレ公国内はもとより自領まで水道を整備した。隣国からの要請で協力したクレア橋、ジョゼフ橋に比べても、グリード橋の工事はひときわ難しく、他から資金の援助もない中自腹を切り、長い年月をかけてようやく完成した。更に時の王の協力を得て王都までの水道が完成。

 今、水に困ることなく暮らせているのが自分のひいおじい様のおかげだなんて、その活躍ぶりにときめいてしまう。

「でしょう? そんな人がこの国でほとんど知名度がなく、子孫は生活に困っているなんて、本当に信じられなかったのよ」

 留学先でレイトン卿の子孫に会うことを楽しみにしていたお継母様にとって、ひいおじい様が母国で名を知られることなく、子孫は財を減らして細々と暮らしていることを知り、親友であるお母様と、尊敬するレイトン家の子息であるお父様、二人の結婚祝いにと父親である前シガーレ公を説得し、あの協定をプレゼントした、らしい。

 ひいおじい様も大したものだけど、お継母様も充分スケールの大きな人だと思う。


 陛下から詫びとして、かつてひいおじい様が橋建設のために売却した領地が返還された。何とそこを所有していたのは王家だった。

 かつての王は機会を設けてレイトン家に領地を戻そうと思っていたようなのだけど、その前にひいおじい様は亡くなり、王も亡くなってしまい、そのままになっていたのだそうだ。私が思っていたよりも王家と我が家はかつては相反するものではなかったみたい。


 やがて我が家に水道料が入るようになると、領の環境整備にもお金をかけることができるようになり、少しづつ領の収益も増えていった。それには優秀な執事から教えを受けたお兄様と、隣国仕込みの執事教育のおかげで一段と優秀になった執事ニコラスの手腕もあった。


 サージェント王家と我が家のやりとりが落ち着くと、お継母様はシガーレ公国に戻ることを決め、元の旦那様と再婚なさった。名前も少し順番が変わり、シェリル・シガーレ・レイトン・ヒュッテンブレンナーになり、

「名前に憧れのレイトンが残って、ちょっと嬉しいわね」

と子供っぽい笑みを見せた。そして、

「離れていても、あなたたちは私の子供ですからね。何かあったらすぐに言うのよ」

と愛に満ちた念押しをしてくださった。

「言いだしたら聞かない人だから、これからもよろしく頼むよ」

 自ら迎えに来た、元にして現旦那様、ヒュッテンブレンナー公も苦笑いしていた。こんなあり得ない無理を通しても許してしまう旦那様もすごい人だと思う。


 その後私はお継母様からすてきな縁談を頂き、シガーレ公国の東の都市の市長様の家に嫁ぐことになった。

 何とそこはノーススワン領の隣で、国境を挟んでいてもフリーパス。お兄様ともすぐ近くに住むことができて嬉しかった。旦那様は少し年上だったけれど優しくて、尊敬できる方。レイトン家にもいい印象をお持ちで、皆さん良くしてくださっている。

 何よりお継母様の援助が半端なく、王家か?と誤解されそうなくらいの嫁入り道具を持たせて頂き、結婚式では涙をボロボロ流し、時々お継母様の自宅や実家である公爵家のお城(!)にも招かれ、恐縮しながらも充実した生活を送っている。


「見て見て、ルーカスが水道を使った水車村を復活させたって!! これで小麦の製粉がはかどるわね。きゃー、うちの子かっこいー!」

 お兄様の活躍を知るたびに、お継母様から飛び出るこの言葉…。


 私達、お継母様に愛されています。





お読みいただき、ありがとうございます。


この話の元ネタは、関西にお住まいの方なら一度は聞いたことがあるであろう

「琵琶湖の水、止めたろか」

です。


私は滋賀県民ではありませんが、滋賀県の皆様に敬意を表し、

シガーレ公国

とつけさせていただきました。

他にもほのめかすものはありますが、気がついた方のお楽しみ、で。

人物、設定等は特にモチーフにしたものはありません。

特にサージェント王国は京都でも大阪でもありませんのでっ!


有名なネタなので、もしかしたら他の方もこのネタで創作しているかも知れませんが、

(今のところ、私が読んだものには当たってないですが…)

オリジナリティが出せてたら嬉しいです。


実は湖設定の方が後発で、本当に書きたかったのは

「うちのこかっこいー!」

でした。

この一言を書くために、妄想を積み重ねたら、琵琶湖に行き当たった次第です。


たくさんの皆様にお読みいただき、誠にありがとうございます。


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