第27話 判明
玄奘は金山寺に戻ってからも眠れぬ日々を過ごしていた。
長官夫人の不可解な行動、あれは何を意味していたのか。
法明和尚が玄奘の肩をたたく。
「玄奘や、お前に客じゃよ」
「どなたです」
「江州長官のご夫人だ。僧侶の履くための靴を奉納したいと申されての、お前にはこの間失礼をしたから直接履かせたいんじゃと」
不可解極まる話だ。
現れた長官夫人はげっそりとやつれていた。
「玄奘さまと申したかね。どれ、お靴を」
夫人は震える手で玄奘の足を触ると靴を脱がせた。
そして、足の小指の先が欠けているのを見とめると、ワッと泣き出した。
「ああ、坊や!私の坊や、よくぞ無事で!ああ!」
「やはり、あなたが、私の母なのですね」
二人はしばし、抱き合った。
しかし、玄奘には再会の喜びよりも気になることがある。
それは口をついて出てしまう。
「どうして、私を捨てたのです」
「それは……」
母から語られた、自身の出生にまつわる数奇な出来事は玄奘を打ちのめした。
そして深い悲しみとともに強い怒りが玄奘の心を支配した。
「事情はあっても、私はしょせんあなたを捨てた者。母の資格のない者です。これからは和尚さんを父として、立派なお坊さんになるんですよ」
「母上はそれで本当によいのですか!父の仇は!」
詰め寄る玄奘を法明和尚が制する。
「御母堂はお前の身に危険が及ぶことを恐れてこう言ってくださっておるのだ。落ち着かんか」
長官夫人は寺を去る時に深々と頭を下げると、こう言った。
「では達者で。母のことは何も心配いりません。自分の不始末は自分でなんとかできますからね」
法明和尚は夫人の言葉に不穏なものを感じ取ったが、横にいる玄奘はといえば顔を真っ赤にして怒りに打ち震えている様子だった。
「仇討ちは仏の教えにも反するぞ?わかっているのか、玄奘」
「ええ、わかっていますとも」
だが、その夜のうちに玄奘は姿を消すのだった。





