リアルフェイス
「どうもーレイヒーです。さあ、今日はですね、××の森という場所に今向かっている所です」
いつも通りの心スポ凸配信。場所は群馬。なかなかの距離だが、スポットとしてはかなり期待出来る場所だ。底なしの怨念を抱えた無数の死人がここには眠っているとされている。
それだけでも激アツなのだが、今日はプラスダメ押しだ。
〈お、レイヒー顔出し!?〉
〈マジか!! 気合入ってんな!〉
〈結構カッコイイ惚れた〉
〈なんだイケメンかよさっさと呪われろ〉
コメントは様々だが、反応は上々だ。別に自分自身の事をイケメンだとは決して思わないが、今まで映像だけで自分の顔を映してこなかった人間が急に顔を晒せばそれだけでコメントは賑わう。短絡的だが一度それぐらいの燃料は投下してもよい頃じゃないかとは思っていた。
今タブレットを車内に固定し、内側カメラで自分の姿が映るようにセッティングしてある状態だ。現地に到着してからはカメラを切り替えながら、現場と自分を映すようにしようと考えていた。
「今日はちょっと本当に覚悟しといた方がいいかもしれない。俺も、見ている皆も」
顔を晒しているというだけで緊張感がいつもとまるで違った。心がふわついている。それは今から向かう森への恐怖と期待が大いに入り混じっているせいもあるだろう。
コメントを見ながらの運転は危険だが、配信者としてもらったコメントはやはり気になる。
「どれどれ」
しかし改めて見ると、そこには思ってもいないコメントが並んでいた。
〈おい、なんだよこれ〉
〈なんかバグってる?〉
〈いや違う、レイヒーがおかしい〉
〈なにこれなにこれどゆこと??〉
〈ちょ、ヤバイじゃねこれ?〉
〈いやいや、そういう演出だろ?〉
〈そういうのっていいってレイヒー〉
「え、何どゆ事?」
〈××の森に顔出しに演技に今日は盛り沢山だな。らしくないね〉
〈演技か? 演技でここまでの事出来るか?〉
〈絶対違う。これそういんじゃないよ。だって〉
〈おーい、もういいぞレイヒー。いつも通りやってくれー〉
--演技? 何言ってんだこいつら。
ますます意味が分からない。俺は何の演技もしていない。ただ運転しながらいつも通り話しているだけだ。
“イケヨ”
「え?」
〈おい! なんだよ今の声!?〉
〈ってか待って……顔が……〉
〈うわあああああああああやべええyばえべええべえべべえええええええええ〉
〈ガチじゃねえか笑えねえよ〉
〈おい、誰か絶対録画しとけよこれ〉
“イケヨイケヨイケヨ”
――なんだよなんだよなんだよこれ。
「おい! 皆も聞こえてるのかこれ!?」
ヤバイ。なんか知らねえけど今回は本当にヤバイ。
“コイヨコイヨコイヨコイヨ”
駄目だ。怖すぎて前しか見れない。今後ろやサイドを見たら、絶対にそこに何かいる。
――帰ろう。
洒落にならない。このままじゃとんでもない事になる。
危険信号がとめどなく頭の中で響き続けている。
このままじゃ、多分死ぬ。
“死ぬんだよ”
「……え」
〈おいやべえぞ!!〉
〈止まれ止まれ止まれ!!〉
〈嘘だろ、なあ嘘だろ?〉
「っつ! いてぇ! なんだ!?」
急に身体中に鋭利な痛みと凄まじい圧迫感が襲った。まるで切り裂かれながら肉をもぎとられるような感覚だった。
ガシャ。
何かにぶつかった。身体が大きく揺さぶられる。そして次に、ジェットコースターが急降下していくような浮遊感に包まれた。
――おい、マジかよ。
グジャ。
意識が一瞬で消し飛んだ。
そのはずなのに。何故か声が聴こえた。
“ヤットイッショ”