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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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王宮の中の森と町

 その国の王が住む城は、都の隅の小高い丘に位置し、背後には湖がある。都の中心は各地からの移転魔法陣が集まる広場だ。

城壁に囲まれた城は、門を抜けるとさらにいくつもの区域に分かれ、王族が住む王宮が一番深い位置にある。

田舎町の商人であり、絶対防御の結界を持つ守護精霊に守られたエルフのギードは、今まで自分達が入れた場所はごく浅い位置だった事を知った。

「こちらです」

朝食後、城の兵士に案内されながら、普段よりさらに奥へ続く廊下を歩く。

ギードの家族4人と王の娘でありながら外戚の身であるシャルネ、警護の騎士ヨメイアと裏を仕切るダークエルフのイヴォン。そして今回は特別に、ギードが最初に世話になった人族の恩人である勇者の一族のひとりが一緒にいる。

「あそこの森がそうです」

外観は質素に見えるがおそらくぜいを凝らしたであろう王宮の建物を囲むように左右に庭が見える。

その片方はうっそうとした森で、反対側は低木が並び、垣根が迷路のようになっており、どこへ続いているのか分からない。

途中で廊下から外に出ると、森の方角へ向かう。

「師匠、もしかしたらダークエルフの住居はあの迷路のような庭の先ですか?」

イヴォンが少し眉をしかめた。

「ああ、そうだ。何故分かった?」

「何となくです」

かすかに気配を感じた、と正直に言ったらきっと怒られる。自分ではなく、未熟なダークエルフ達が。ギードはそう思って答えを誤魔化した。

(でも、こんなに近くに住んでたのか)

王宮を挟んで右と左。思ったより近い位置にあった。

 エルフ族とダークエルフ族は、大戦を境に険悪な状態だと聞いていた。

事実、「始まりの町」では店に来る高齢のエルフは、館の警護をしているダークエルフを毛嫌いする傾向にある。

(助け合うのは別にかまわないと思うけどなー)

ギードはエルフだが、人族だろうが妖精族だろうが、種族で差別してはいない。

子供の頃の、森のエルフ達に対しては苦手意識はあるもの、知らない者達まで嫌うつもりはないのだ。

「いい殺気だなー。あとで手合わせしなーい?」

何故かリーダーが騎士ヨメイアにちょっかいをかけている。

殺気に魅かれるとは物好きなーとは思ったが、あの人はそういう人だった。不幸の匂いをかぎつけるのだ。

「断る!」

殺気駄々漏れ騎士ヨメイアが嫌そうな顔をしている。

(あー、たぶんそれくらいじゃメゲないな)

ギードはタミリアと顔を見合わせ、この組み合わせは面白そうだとにやりとした。




 森の木々からエルフの兵士が数名降りてくる。

城の兵士と交代し、ここからは彼らが案内してくれるようだ。

「ようこそいらっしゃいました。ギード様」

身分がありそうな高齢のエルフの兵士が現れ、膝を折り、頭を下げる。

おいおい、姫に先に挨拶しろよ。ギードは内心あせる。

「失礼します。こちらに王太子様がいらっしゃっていると聞いて伺いました」

エルフの弓兵隊の隊長だという男性エルフに案内され、森の中ほどにある兵舎というより、貴族の別荘のような建物に着く。

周りにかなりの数のエルフが集まっており、ギードの姿に次々と膝を折る。

タミリアは、何か面白いものでも見たかのようにくすくす笑っている。

ギードは面白くも何ともないのだが、ここで不機嫌な顔をすると双子が気にするので、わざと横柄な挨拶をしながら通る。

しかし、何かがおかしい。

ギードは王太子の気配が無いことに気が付いた。(これ、もしかして意図的に誘導された?)

第二王子かネイミ辺りが懲りずにギードを誘っているのかも知れない。ますますギードの機嫌が悪くなっていく。

タミリアが子供達を連れ、さっさと館の中へ入って行く。シャルネやヨメイア達護衛が怪訝けげんな顔をしながらも後に続く。

イヴォンとリーダーだけがギードの側に残った。

「イヴォン師匠、あそこがダークエルフの居住区ですか?」

ギードは森から見える城と湖、そしてその向こうに見える低木の茂みを指差す。

「ああ、そうだ。ここからだと城まで一回戻って迂回してー」

ギードはそのまま歩き出す。

湖畔まで出て、そのまま湖の上に足を出す。守護精霊のコンがその足元に結界を発生させ、ギードはその上を歩いて湖を渡る。

他の者達は唖然と見ているだけだった。

(やっぱりこっちに気配があるな)

湖に面している部分は低木で隠されてはいたが、その中に入るとダークエルフの居住区はまるで王都の中にあるとは思えないほど質素な建物が並んでいた。

「誰だっ」

「王太子殿下にお会いしたくお訪ねしました」

バラバラと住民が出てくるが、ギードの圧倒的な魔力に押され、手を出そうとする者はいない。

やはり森のエルフに比べると明らかに数が少ない。いくら兵としてある程度は外に出ているといっても、ここにいる兵以外の者で数十しかいないのでは先細りしかないだろう。

ギードは心の中でため息を付く。

(王宮に保護されていても増える事はないんだな)


 ダークエルフの住民に守られるように王太子が現れた。

「お久しぶりです、殿下」

ギードは膝を折る。

「……挨拶はいい。何用だ」

こちらも機嫌が悪そうだ。

「立ち話もなんですから、どこかでゆっくりお話を」

ギードがにこやかに提案するが、王太子はそのままでいいと素っ気無い。

「そうですか、では」

仕方ない、とギードはコンに結界で部屋を作らせる。もちろん、王太子とギードの二人だけを囲っている。

小さな部屋、といっても薄く金色に輝く半透明の壁と屋根。中には椅子とテーブルも、半透明の結界を利用して作り出している。

「まあ、朝からそんなにピリピリしなくてもいいでしょう」

ギードはわざとのんびりと懐から持ち歩いている小さな酒の瓶を取り出す。もちろん小さなコップも付いている。

王太子に椅子と酒を勧めてみる。呆気にとられていたが、しぶしぶ座る。

「ぶっちゃけましょうよ、殿下。本当はスレヴィが」

ギードの顔がいやらしい大人の顔になる。

「好きなんでしょう?」

大丈夫。いくらスレヴィでもこの結界の中には入れないし、会話は外には聞えません。

そういうと、やっと王太子は酒を一気に飲み干し、赤い顔をしながらギードを睨んできた。

「どうしてそう思う?」

「スレヴィにシャルネ様が好みだとおっしゃったそうですが、あれは嘘ですね」

まあ妹として好きだという意味だったのかも知れないが、わざと誤解させている気がした。

スレヴィの興味を引きたかったのだろうと思われる。

「シャルネ様はイヴォン師匠が護衛しているので、スレヴィからすれば敵のようなものでしょうし」

つまり、共通の話題が欲しかったのだろう。

王宮で会った時に見た二人は、王族と護衛というより、もっと親しい関係に見えた。

それこそ、第二王子とネイミのように。

少なくともギードには、王太子の目がスレヴィを労わっているのが分かった。

「わ、私は別に、それにスレヴィは、お、オトコだし」

「えー、性別は関係ないんじゃないでしょうかねー?」

「はあ??」

何を言っているんだという顔をする王太子に、ギードは何食わぬ顔で話し続ける。

「見た目がアレですし、本人も自分を女だと思っているのだし。この際、女性だということにしてしまえばいいんです」

「し、しかし!、それでは子供がー」

「優秀な子供でも密かに養子にすればいいんじゃないですか」

王太子がわたわたしている間に、半透明の結界の外からやたらと攻撃をしてくるスレヴィが見える。




「大切なのは、本人の意思ですけどね」

そういって、ギードは結界を解く。スレヴィの暴圧が来るが、今のギードにはそよ風程度にしか感じない。

「やあ、こんにちは」

視線をこちらに向けておくために、にこやかに話かける。そしてそのスレヴィの後ろに、ようやく追いついてきたイヴォンとリーダーの姿が見えた。

「きゃあああああああああ」

イヴォンが牽制し、リーダーが剣技を駆使してスレヴィの服を切り裂く。

二人がここに来るまでにどんな打ち合わせをしたのかは知らないが、思いも寄らぬ息の合った攻撃だった。

スレヴィ自身が王太子の救出にばかり注意が向いていたせいもある。

そして足元に落ちた、おそらく服の中に隠し持っていただろう魔道具をイヴォンが拾い上げる。

壊そうとするイヴォンにギードがすぐに手を出し、それをかすめ取る。 

「おい!」

「だめですよ。今、これを壊したらスレヴィ自身が壊れます」

ギードはコンに頼んで関係者だけを囲んで、他の者には見えないように壁を発生させた。次に魔道具を結界で覆い、停止させるためにスレヴィの魔力を遮断する。

変装が解ける。

金色の髪は長く、腰の辺りまでまっすぐに伸び、濃い茶の瞳をした美貌のエルフの青年が現れる。

「やっぱりかー」

リーダーの残念そうな声が聞えた。

切り裂かれた服から覗く肌、確実に中身が男性であることは分かる。

慌てた王太子が自分の服を脱いでスレヴィに掛ける。


 ギードはスレヴィの前に出ると、すばやく膝を折り、頭を下げる。

「スレヴィ様、無礼をお許しください」

ギードの行動に誰もが驚き、戸惑う。スレヴィ自身も何が何だかわからずポカンとしている。

「この方は、おそらく前・妖精王のご子息です」

つまり、エルフ族の王子というわけだ。

ギードが遺跡の資料の山の中から見つけた前の妖精王の記述。そこには平凡だが心優しいエルフの青年と、城の中で育ったダークエルフの首領の娘の話が出てくる。

「ずっと疑問だったんですよ、何故、あの妖精王は戦いの途中でいなくなったのか」

今でも彼の生死は不明のままなのだ。生きていたとしても高齢であることには変わりない。ならば、家族はどうだろう。

「誰かがかくまったと?」

「ええ、おそらく思いがけない場所に」

ギードはにっこり微笑む。ダークエルフ、魔道具、そして城の中の町。当時はまだ王宮にエルフ用の森は存在しない。

「でもスレヴィは……ダークエルフじゃないぞ」

少しでも首領の娘の血を継承していれば、白髪や赤い瞳、褐色の肌といったダークエルフの特徴をひとつくらい持っているはずだ。

「おそらく母親は人族ー」

「うあわああああああ」

ギードが言いかけた言葉をスレヴィが涙声でさえぎる。

「ここから先は、城の中でゆっくりと話をさせてくれないか」

スレヴィの肩を抱いた王太子が口を開いた。

頷いたギードは壁を消す前にスレヴィに魔道具を返す。




 さっきから赤い石の指輪が光っていたが、わざと無視しておいた。が、そろそろ限界だろう。

「おっそーい」

子供達を預けて来たらしいタミリアが現れ、ギードに文句を言う。

しかしここはすでに城の客間であり、目の前には、お茶と上等なお菓子の用意がされていた。

「し、仕方ないわねえ」

さっそく食べ始めるタミリアにギードは苦笑を浮かべ、列席者に軽く頭を下げる。

その中に約一名、ギードの酒を勢い良く一気飲みした者がいたためしばらく待たされることになった。今頃になって酔いが回って意識が朦朧としてきたのだ。

その間にシャルネとヨメイアが双子を連れて来てくれた。

やはり森への誘導は、第二王子の復権を願うネイミをはじめとするエルフの弓兵達の策だったらしい。

「エルフの兵舎でも大人気でしたよ」

それでも、双子大好きシャルネ様は心置きなく子供達を自慢出来たようで、かなりご機嫌だ。

(また迷宮の希望者が増えるんじゃ?)

ぞくりとした悪寒を感じ、ギードはますます情報の隠蔽を強化しなければならなくなった。




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