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エルフの旦那と双子の子供達  作者: さつき けい


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種族と血族

 王宮の一室で、エルフの商人であるギードは、彼、いや彼女が現れるのを待っている。

この国の王太子の護衛として働いていた女性のダークエルフ。実は彼女の実体は、エルフの青年であった。

何故、性別や姿形まで隠していたのか。それは出生の秘密にあった。

「お待たせ致しました」

ギード達がいる部屋の奥の扉から、従者を連れた王太子が入って来る。

まだ完全に酒が抜けないのか、やや赤い顔をしている王太子を支えるようにダークエルフの女性・スレヴィが隣を歩く。

お茶の用意が終わると、王太子はスレヴィ以外の従者をすべて下げ、人払いをする。

「結界が必要ですか?」「ああ、頼む」

ギードの守護精霊であるコンが部屋全体に結界を張る。これで外部には音どころか気配さえ漏れることは無い。

「ギード、ちょっといいか?」

ダークエルフの傭兵隊の長であり、この国を裏から仕切ると言われているイヴォンは、王族の護衛が主な仕事である。

「何でしょうか?」

イヴォンは王太子の後ろに立つスレヴィを見る。今の彼女はいつもの黒装束ではなく、従者の女性用の服を来ている。へらへらとした不遜さも、好戦的だった態度も消え、ただの大人しい女性に見える。

「どうしてスレヴィの素性が分かったのか、ちゃんと説明してくれるんだろうな?」

「えー、そこはそちらから事情説明があってもいいと思うんですがー」

当事者であるイヴォン達ダークエルフ族と、その中で育ったエルフのスレヴィ。

彼らを前にギードは邪魔くさそうな顔をしながら、王宮のお茶はやっぱり美味しいなと思うのであった。




 この部屋には今、王太子、そしてギードと妻のタミリア、その双子の子供達。ダークエルフのイヴォンとスレヴィ。王の外戚の子であるシャルネと護衛騎士ヨメイア。

特別にギードの恩人として、勇者の血を引く人族の男性がひとり同席している。彼はスレヴィに頼まれ、色々と手を貸していたようだ。

「本当にさー、こうして本体を知ってても女性にしか見えないけどなあ」

「それはきっとそれだけ長い間変装し続けていたという事でしょうね」

まさに本人が思い込んでしまうほどに。

 ギードは立ち上がる。

ちらりと自分達の後ろの場所に、精霊に守られ、大きな籠の中で眠る愛すべき双子を見る。

この子達は幸せだ。自分やスレヴィとは違う。この平穏は守らなければならない。この世界すべて、など無理に決まっている。ギードは自分の手が届く者しか守ることが出来ないし、それ以上はしたいとも思わない。

「それではー」

しかし、そこで話は止まってしまう。乱入者が現れたせいである。

ギードの結界に衝撃が走る。この絶対防御に傷を付けられる者など限られている。イラだつギードにタミリアが慰めるように体に触れ、微笑みかける。諦めろ、そう言っているのだろう。

「ハクレイさん、エグザスさん、いらっしゃーい」

ほとんどヤケである。結界を一度壊し、二人を部屋へ招き入れる。

「お前らだけで楽しそうな事やってんじゃねえよ!」

白い魔術師はその容貌とは真逆で、相変わらず口が悪い。まあまあ、と元・聖騎士エグザスが剣を納めながらなだめている。 

「王太子殿下、お騒がせして申し訳ありません。どうしてもハクレイ氏が聞かなくて」

ハクレイはこの国の最強の魔術師である。誰であろうと無傷で抑えられるはずはない。

お元気そうで何よりだ、とギードは二人を座らせる。

「もしかして、剣王様もご一緒でしたか?」

「ああ、老師は国王にご挨拶に行かれた」

エグザスは孤児の出だが、聖騎士団で厳しくしつけられて来たので基本的に忠実で礼儀正しい。

ギードは、老剣士が来たということは、約束を守ってくれるつもりらしいと安堵した。おそらく、タミリアの修業がひと段落した事を意味している。

「揃ったところで、もう一度事情説明から始めます?」

王太子やその他一行が頷くのを見ながら、ギードは深く息をした。


 まずは今朝からの一連の出来事を話し、この席に、所属していた以前のグループのリーダーがいる理由を説明する。 

「危ないヤツなんじゃないのか?」

ハクレイが顔をしかめる。

ええ、まあそうですが、今は大丈夫ですよー。女性がいっぱいいますからねえ。

そしてイヴォンが、彼には特殊な能力があることも伝える。

「不幸をかぎわける??」

女性好きが高じて、女性が悩んでいたり苦しんでいたりすると、それに反応して助けてしまうそうだ。

それは変装した姿であっても、例えその女性が悪人であったとしても。そのせいでイヴォン達は裏の仕事で散々彼に邪魔されてきたそうだ。

正義の真逆は他人の正義というが、全くもって邪悪な正義であった。

「そういう体質なんだそうです」

えへへ、とリーダーが笑う。きっと勇者の血を引く一族だからだと思われる。女性限定っていうのはどうかと思うが。

「ではリーダー。今、誰に心がかれますか?」

「あの赤い髪のお姉さん」とにっこり騎士ヨメイアを指差す。

ぶすっとした不機嫌な顔のヨメイアとは対照的にうれしそうにニコニコしているリーダー。スレヴィは今、女性の姿である。それでも能力は働かないらしい。

「ということですので、彼の事はお許しいただけますでしょうか?」

と王太子を見る。

「ああ、分かった」

彼の剣の腕はイヴォンと変わらない。何故、実力者認定されていないのか不思議なくらいである。

「あの性格じゃあねえ」

勇者の一族からも「一族の名誉のためにも彼を認定しないよう」に国に圧力がかかっているそうだ。納得である。

さて、本題だ。

「では何故スレヴィの不幸が彼に感知されなくなったのでしょう?」

簡単である。

スレヴィはもう隠す過去もなく、正体も知られている。その上で、彼女をかばう者がいるのだ。もう不幸ではない。




「イヴォンさん、貴方は誰かにスレヴィを守るように頼まれましたね?」

「……ああ」

「王族の誰か。おそらくスレヴィの母親でしょう」

父親はエルフの元・妖精王だと思われる。彼の容姿が物語っていた。

ここで妖精王の姿を知る者は、ギードに付いているいにしえの精霊達だけだ。精霊はすでにスレヴィが妖精王に似ていることを証言した。

皆の注目を集めたスレヴィは、少し苦い顔をする。

そんな彼女を、立ち上がった王太子が自分の隣に座らせる。驚きながらもそれに従うスレヴィは、従者というよりもか弱い女性の雰囲気であった。

イヴォンは目を見張っていた。ここまで変わるものなのだろうか。

 大戦の前、妖精王はすべての種族の平和を願い、世界を見て回っていた。

もちろん王宮にも何度か訪れていた。その頃は特に種族による偏見も無い時代で、エルフで妖精王である彼も自由に旅をしており、各地で歓待された。

しかし妖精族と人族の間で争いが起こってしまった。

「愚かしいことです」

王太子は悔しそうな顔でうつむく。

たまたま王城にいた彼を、ずっと慕っていたダークエルフの首領の娘がかくまった。

森で生きるエルフ族とは対照的に、ダークエルフは町中で人族と共に生きてきた。しかし、血族主義でその数が減少傾向にあるため、ある時から王宮内に集められて保護されていたのだ。

「そして仕事として、国の裏の仕事をするようになった」

イヴォンがその辺りを補足説明してくれる。

ギードには、裏の仕事をしていたから集められたのか、仕事をさせるために集めたのか、その当たりは曖昧な気がする。まあそれからダークエルフ族と人族とはお互いに助け合う親密な関係になっていったんだろう。

「母は、王族の女性でした」

スレヴィが重い口を開く。どういった経緯かは分からないが、妖精王と王族の娘の間にスレヴィが産まれた。

彼女が生まれた時はすでに大戦が終わっていた。ということは、エルフ族とダークエルフ族の確執が強まった時期だろう。

「スレヴィが変装していたのは、エルフではダークエルフの中で生活出来ないからか」

いつの間にか父親は行方不明になり、産後の状態が悪かった人族の母親はしばらくして亡くなったという。

子供がダークエルフではないからと放り出すことも出来ず、当時の首領はスレヴィを育てる事にした。

諜報部隊が使う変装の魔道具を与え、子供の頃からずっとダークエルフとして扱ってきた。

「おそらく、そうしなければ一族の中で育てる事が出来なかったのでしょう」

そして、変装の魔道具は種族と、そして性別を変えてしまう。

「女性として生きなければならなかった、それだけです」

自分の父親は首領の娘の想いを裏切り、さらに姿を消した。それが彼女がエルフを嫌う理由なのかも知れない。

「それでイヴォンさんにも負い目になった」

ギードがそういうと、イヴォンが否定的な顔になる。

「なんでそこで俺が出てくるんだ」

「イヴォンさん、貴方は首領の血筋ですよね?」

そうでなければ、いくら最強でもダークエルフ一族をまとめることは出来ない。何せ、彼らは血族主義者なのだから。

「それに、護衛としてスレヴィさんの一番近くにいたのでしょ?」

スレヴィは自分の父親が裏切った一族を自分が裏切るわけにはいかないと思ったはずだ。

自分を守ってくれるイヴォンに負担をかけないように強くなろうと努力した。

エルフの基礎体力でダークエルフの戦闘技術を会得する。これは並大抵の努力ではなかったと思う。

ギードがスレヴィを妖精王の子息としてではなく、その事に尊敬の念を持つ。

自分が戦闘を苦手としているから尚更だ。

「エルフは精霊の魔法に頼る傾向にありますしね」

それがなければギードなどただの弱者だ。きっとまだ森に引きこもったままだろう。

スレヴィは自分がめられたことに気がつき、顔を赤くして恥ずかしそうにしている。

「じゃあ、俺に固執していたのは惚れてたわけじゃないのか」

イヴォンはほっとした顔になった。




 おそらくこれでスレヴィに関する説明は終わったはずだ。

ギードはタミリアの隣に座り、冷めたお茶で喉を潤す。

「お茶を入れ替えさせよう。もう結界はいいな?」

王太子が皆に一息つくよう促す。ギードは結界を解く。

すると、多くの兵や従者達と共に国王と剣王がなだれ込んで来た。

「ぶ、無事かああああ」

あ、剣王様、子供達が起きてしまいますのでお静かに。

ギードは口に指を当て、視線で子供達の籠を見るように誘導する。

「すまぬ」

「いえ、ご心配をおかけしたようで、こちらこそ申し訳ありません」

ギードは立ち上がり、老剣士に席を譲る。タミリア達も立ち上がり、国王に挨拶している。

慌しく新しいお茶の用意がされ、なごやかに雑談が始まる。

「国王陛下、いえ、父上。お話があります」

突然の王太子の発言に、ギードは嫌な予感がした。

「なんだ?」

「スレヴィと結婚を前提としたお付き合いがしたいのです」

周りが固まる。まあ予想してはいたが、早過ぎないだろうか。すぐに結婚すると言わなかっただけマシなのか。

「いえ、国王陛下、今はまだそんな」

スレヴィも慌てふためいて否定している。

「え?、スレヴィは嫌なのか?」

今度は王太子が慌てる。赤くなったふたりがあーだこーだと痴話げんかを始めると、周りからくすくすと笑いが漏れた。

「慌てるでない。その話は後日また聞こう」

ギードはこの国王は結構好きだ。斜め上な対応もあるが、概ねギード達には好意的な方である。

「ああ、そうだ。タミリア、エグザス。二人の称号変更をするぞ」

おお、剣王様、ちゃんとお仕事してくれましたね。

「タミリアは『鬼才の魔術師』から『鬼才の魔法剣士』に、エグザスは『聖騎士団最強』から『最強の聖剣士』になる」

……なんかすごく安直な気がするがー。ま、いっか。タミリアもこれで堂々魔法剣士と名乗る事が出来る。

そして一枚の紙をギードに見せる。それは王都で新たに始まる『魔王と呼ばれた男の物語』の劇のチラシであった。

「そなたも変更しないか?。『やさしい魔王』なんてどうだ?」

遠慮させてもらいます!!。絶対に!!。




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