ep2「新文明の進化と発展魅せるジオード」-2-
ぱっかりと切り裂かれた軽トラ。そこに乗車していた俺は現在、物理法則を無視した勢いで空中に投げ出されていた。軌道的に向こうの大門への激突に余儀なし。
「このままだと怪我じゃ済まないっ、せめて受け身を——」
しかし投げ出された勢いとは裏腹に、俺の身体はその勢いを礼儀正しく物理法則に合わせており、簡単には体勢が変わらない。
が——パシュ……そんな軽い音とともに、突然浮遊感がなくなる。俺は咄嗟に目を強く瞑っていて、戸惑いつつ瞼をそっと開けていく。
「あ、あれ……地面に、着いて……」
「——俺が助けてやったんよ。上手く威力を殺してな」
地面に尻もちをつけていた俺。返答された声の在処はすぐ真横で、なんとも驚くべきことに、その容姿は——
「クノイチ……?」
とても助けられた第一声の言葉でないと理解しつつも、その女の子?の見た目から不意に漏らした一声。その子は不服そうに受け取り、一瞬硬直する。
「グヌッ……違うわい、俺は男だぞっ。大体にしてこれはクノイチの服装じゃないじゃないかぁ! 忍びだよ忍びッ!」
と言われても、少年ぽさは口調だけ。変声期にも突入していないその声、さらには女の子かと見間違う可愛らしい顔立ち、少年にしたって小柄な体格が相まって、忍者にわかの俺がパッと見で勘違いしても仕方がないと思う。
髪型だって金髪に近いクリーム色の頭髪を後ろに小さく束ねていて、下界へ降りて忍者コスプレした天使みたいな風貌だ。
「は、はあ……? とにかくありがとう。助かったよ。えーと……名前は——」
言うと、その子はピクッと眉を上げ、進んで話し出す。
「——! フッフッフー、聞いたからにゃあ耳の穴かっぽじって聞け! 俺は最強を目指す忍び。神出鬼没、しかしして敵を仕留める時には音すら追い抜き轟く閃光……名を影雷! この名、記憶の奥底刻んどけ!」
ドドンッ、と効果音でも響かせん自己紹介。俺はポカンと反応に困る。
そうこうしている内に、向こうから二人の騎士がやって来て、その後ろには俺が今朝助けた女性と、軽トラでここまで送ってくれたお爺ちゃんが。なぜか二人とも冴えない様子。
「——ちょ〜いとそこの青年、事情聴取、させてもらえるっスか〜?」
二人組の騎士のうち一人、閉じ目の騎士がそう、口調とは裏腹に眉間にしわを寄せてこちらに。
「は、はい……」
無論、こちらに有無の選択権などあるようでない……のだった。
………
「なるほど。要は孫を助けてもらったお礼に選抜に遅れそうな君を爆走軽トラックで送っていたところブレーキが効かなくなり、防衛都市に突っ込みかけたと。まあ怪我人もいないようだし、今回はお咎め無しでいいっスよね?」
事情聴取は終わり、閉じ目の騎士の問いかけはその上司と思われる人に向く。その人は今の話を噛み締めるように聞いていて、かと思うとこちらに顔を向けてくる。
「うむ、そうだな。何より青年っ、偉い! 騎士団でないにも関わらず自分のことよりも他を優先するなんて……うんうん、合格だ。君は合格だよ」
「それはツクシ先輩が決めることじゃないっス……ハァ、時間も遅いし、アタシはこの人たちを家に送り届けるついでに、機能してなかったっていう獣避けメンテするんで、受験者の方はツクシ先輩、今度こそ任せたっスよ〜」
少し義務的な様子で閉じ目の騎士は言い、老人と女性を連れる、と、
「——っ、だったらちょっと待って!」
、、、突然、そう言い放ったのは俺が今朝助けた女性。何か、こちらに言いたげな様子で口をつぐんでいる。
「……っ、えっと、その……きょ、今日は……り、がと……」
そうしてやっと口を開いたかと思えば、赤面した様子でとても小さく呟いて、俺には内容のほとんどが聞こえない。
「えっとー、ごめん。全然聞こえなかった」
「っ……だ、だからっ、今日はありがとっ! ——私、これからは自分に出来ることを精一杯にやるつもり。だからアンタも選抜試験、絶対、合格しなさいよ。言いたいことはそれだけっ。それじゃっ……」
「……ははっ。はいっ、合格します。絶対に」
「————ふっ、ふふっ……それとアンタ——」
「……?」
首を傾げる俺。何やら女性は、イタズラっ子な笑みを浮かべて話し出す。
「自信満々に、立ち止まっていてください! ってカッコつけるなら、あれくらいの敵、守ってる人は動かさないでも倒せるようになりなさい?」
うげっ。確かに、俺はスイートリーパーとの戦いでそう言った……なのに危機晒してサポートしてもらったのだった。思い返してみるとなんかすごい情けない。
「痛いとこ突きますね……はい、絶対、強くもなります……」
「ぷふふっ——でも大丈夫。アンタならずっと先のとこ行けるって、そんな感じする! だから、頑張れっ!」
「——ふっ……はいっ!」
——こうして、別れは互いに笑い合って、進む道を別にする。
………
ツクシさんという方の案内で大門へ入場すると、そこはまだ薄暗く冷たい通路。壁と天井は深い闇で隠れ、進むべき道の頼りは沈む日の光が入射して、向こう側の景色を蓋する、前方の出口のみ。
「おいお前……」
淡白にこちらへ話しかけてきたのは影雷。彼も俺と同じく、選抜試験を受けるべく来た受験者らしい。
「ん……どうかした?」
「どうしたものこうしたも、こっちにゃ名乗らせといて、お前は名乗んねぇのか? いやもしかして、まだないのか? 第二の——うみゅっ、突然なにぃ!?」
本当に突然、何故かツクシさんは影雷の口を手で塞ぎ、割り込んで話し出す。
「そうか、まだなかったのだな。なら受験者登録の前にあれが必要だろう! じゃなきゃこの子にも——自己紹介、が出来ないからね!」
張り切って言う彼女に手を引かれ、俺は大門の出口へと急かされる。
「じ、自己紹介? ——っ、眩し……——!」
問い掛け間に合わず、出口の先の景色塞ぐ光のカーテンに目が眩み、薄目でそこを通り抜ける、とそこは、
「ようこそっ、贖罪騎士団主要基地……防衛都市へ!」
、、、近未来の都市……圧巻の景色が、視界に湧き立つ。それを一層引き立てるのは彼方で燦然と輝く、黄昏の陽。
——六年前、人類の築き上げてきた文明は崩れて消えた。復興は絶望的で、文明はまた一から始めなくてはいけない。——それは違った。人類の文明は、この転生世界に適応していた。今、俺の目の前にあるのは、六年前を遥かに超えた——
——人類新文明の進化と発展魅せるジオード。他に、この景色と感動を伝える術はないだろう。
「そして——」
景色に釘付けの俺を横切り、目の前に立つツクシさん。大きく両腕を広げた彼女は俺に告げる……始まる予感。物語の1ページ目がめくられていく音がする。
「——名付けに行こう。君の新たな人生に! 第二の名『オルタネーム』をっ!」
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