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「だれ、か……。誰かっ、……いませんか!?」




 私の声だけが、辺り一面に響く。それに答える声も無いまま……ただ空しく、声は消えていった。


「なんで……こんな目に合うの?」


 口にした途端、頬に、暖かいものが伝う。手で拭って見れば、それが涙だということを理解した。


「ははっ……。なんか、情けない」


 もう、歩くのも疲れた。その場に座り込み、私はまだ溢れ出る涙を拭った。

 ……夢なら、早く覚めてよ。心が、淋しさで押し潰される。




 ――暗い。

 ――冷たい。



 

 心細い気持ちが、どんどん大きくなっていく。


「――!? ――――!」


 どこからか、音が聞こえる。立ち上がり辺りを見回していれば――それが次第に、人の声だというのがわかった。


「――美咲! 美咲!」


 声の主が、私の名前を呼んでる。何度も呼びかける声に、幻聴なんじゃないかと耳を疑っていれば、


「!?――美咲っ!」


 大きく名前を呼ばれたと同時。背後から突然、腕を掴まれた。振り向くと――そこには、叶夜君の姿があった。


「ケガはないか!?」


「っ、……」


 うまく言葉が出てくれなくて、代わりに私は、何度も頷いてそれに答えた。

 誰かに会えたという思いで、一度は止まりかけた涙が、とめどなく溢れてくる。


「無事で……よかった」


 呟くと、叶夜君はあっと言う間に私を抱き寄せた。いつもなら逃げようと思うけど、今だけは、この温かさを感じたい。だから自然と、私も抱きつくような体勢になっていた。


「悪い……気付くのが遅れた」


「だ、だいじょうぶっ。――こうして、気づいてくれました、から」


「ケガがなくて何よりだが……なんで君はここにいる?」


「それは……」


 私はゆっくり、これまでのことを話した。変な影のことや、私のことを「メイカ」と呼んでいた声のことを。


「……やはり君は」


 そう口にすると、叶夜君は黙ったまま私を見つめる。まじまじと見られるのは恥ずかしいのに、あまりにも真剣に見つめられているせいか、目をそらせずにいた。

 青い瞳がとても綺麗で……それと同じくらい整った顔に、少しずつ魅了されてしまったのかもしれない。


「あ、のう……叶夜、君?」


「……悪い。とにかく、今はここから去ろう」


 そう言うと、叶夜君は当たり前のように私を抱えた。


「?! お、下ろし、て……」


「この方が早い。それに――」


 目と鼻の先。月神君の顔が、徐々に近付く。そして、悪戯っぽく微笑んだと思えば――額に、温かな感触を覚えた。それがなんなのかを理解した途端、体中が一気に、熱を帯びていく。


「こうやって、すぐ充電出来る」


 悪びれる様子もなく、叶夜君はさらっと、そんなことを言ってのけた。


「な、なんでこんな……!」


「だから充電だ。口にしないだけいいと思ってくれ」


「!? そ、そんなことしたら……叩きます!」


「安心しろ。それはしないと約束する。――しっかり掴まれよ?」


 急に真剣な口調で言う叶夜君に、私は少し間を置いてから、その言葉に頷いた。


「怖かったら、目は閉じておけ」


 しっかり掴まったのを確認すると、叶夜君は、空を目指し飛び上がった。あまりの高さに、一度は目を閉じたものの……気になり始めた私は、少しだけ、目を開けて見ることにした。


「…………綺麗」


 目に映ったのは、どこまでも続く緑。木々自体が光っているんじゃないかって思えるくらい、とても色鮮やかに見えた。

 そして、下にいる時よりも近い星空。手を伸ばせば届きそうと言うのは、今のような状態を言うんじゃないかと思う。


「――慣れてきたのか?」


「は、はい。……まだ、ちょっと怖いですけど」


「じっくり見せたいが、機会があればな」


 そう言って、叶夜君は微笑んだ。

 ここまで高いのは慣れないけど、またこうやって眺めることができるのは、ちょっと楽しみだった。


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