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「それが、証拠になるから。――エルに見せてね?」


「証拠って言われても。それに私は、エルなんて人――?」


 知らない、と口にしたはずの言葉は音になることはなく。また、目の前の景色が揺らいでいった。

途端、このままでは女性と話せなくなると理解した。思わず手を伸ばしたものの、それが届くことはなくて……景色が、全て消えてしまった。


 ―――――――――…

 ―――――…

 ――…




 ――――揺れ、てる?




 左右に揺れる感覚。ゆっくり目を開けて見れば、微かに、人の形が浮かんで見えた。


「美咲ちゃん?――オレが、わかる?」


 低い音声が聞こえる。


 何度か瞬きをすれば、そこにいたのは――。




「――――みやび、さん?」




 なぜか、私の手を握る雅さんの姿があった。


「よかったぁ。電話かかったと思ったら、なにもしゃべらないからさ。――強引に侵入しちゃった」


 ごめんね、と苦笑いを浮かべながら雅さんは言う。

 握られていない手を見れば、そばにはスマホが。見ると、私は確かに電話をかけていた。


「それで? なにがあったの?」


 手に、少し力が込められる。それだけ心配しているのか、私を見つめる眼差しは、とてもやわらかなものに感じた。

 何か見ていた気がするけど、あまり思い出せない。


「――すみません。こんな夜中に来てもらったのに、何も無いだなんて」


「な~んだ。ってきり添い寝でもしてほしいかと思ったのに」


 にやり、と笑みを見せたかと思えば、もう片方の手も、素早く握られていた。


「このまま帰るのも勿体ないし――どうしよっか?」


 ん? と、私の様子を見ながら、悪戯っぽい笑みが近付いてくる。


「みさ~きちゃん。どうしたいのかなぁ~――?」


 楽しそうに手を握っていた雅さんの表情が変わる。その視線の先は、私の右手に注がれていた。


「これ……どうしたの?」


 言われて、私も右手を見る。すると、そこには夢の女性から貰ったブレスレットがはめられていた。

 あれは、本当に本物――?

 これを見てしまえば、あのことがただの夢じゃないと信じないわけにはいかない。




「――夢で、貰ったんです」




 ゆっくり口にすると、雅さんは真剣な眼差しを向ける。


「現実で貰った、ってわけじゃないんだね?」


「はい。信じられない話なんですけど……。夢で会った女の人に、貰ったんです」


 一瞬、雅さんの眉がぴくりと動く。


「その人……他に、なにか言ってた?」


 声のトーンが、低くなる。いつもと違うと思ったものの、今はそのことを気に留めず、私は質問に答えた。


「今見ているこれは、現実だって。それと――『エルに見せて』って、言われました」


「――――余計な、こと」


 俯く雅さん。どうしたのかと思っていれば、




「――――オレ、帰るよ」




 急に立ち上がり、雅さんは振り返ることなく、素早く窓から出て行った。

 どうしたんだろう――?

 何かまずいことでも言ったのかと思いながら、私はしばらく、開け放たれた窓を見つめていた。しばらくそうしていると、睡魔が徐々にやってきて――私はベッドに体をあずけた。


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