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「ほ、本当にすみません」


「大丈夫。気にしなくていいから」


 やわらかな声がしたと同時。頭にそっと、重みが増した。


「?……あ、あのう」


 チラッと視線を上げて見れば、叶夜君はふっと、口元を緩めた。


「君は真面目過ぎる。――もう、この話は終わりだ」


 返事は? と催促され、私は少し間を置いてから、頷くだけで返事を返した。


「じゃあ、そろそろ行こう。大丈夫か?」


「あ、はい。もちろん」


 それを聞くなり、叶夜君は素早く私を抱え、窓の外へと身を乗り出す。


「急いで行くから、目は閉じた方がいい」


「は、はい」


 返事を返すなり、私はぎゅっと目をつぶった。

 途端、頬や体に、風を感じた。強く感じるそれに、すごい速さで駆けているというのが体感できる。




「――着いたぞ」




 目を開けて見れば、そこは普通のマンション。周りはとても静かで、ちらほら自然がある住みやすそうな場所だった。


「ここに、私を呼んでる人が?」


「あぁ、ここの七階だ」


 そう言って私を下すなり、叶夜君は手を差し出し、


「……触れても、問題無いか?」


 と、少し弱い声で問いかけてきた。

 今まで密着してたのに、今更って気がするけど。


「はい、問題ないですよ」


 もう、叶夜君を怖いだなんて気はない。だから私は、笑顔でその手を取っていた。


「案内、お願いしますね」


 そう言われるのが意外だったのか。

 自分から手を差し出したにも関わらず、叶夜君は少し驚いた表情をしていた。


「叶夜君? 行かないんですか?」


 しばらくして、ようやく反応を示した叶夜君。それがなんだかおかしくて、私は笑みをこぼしていた。


「――――?」


 エレベーターに入った途端、不意に、違和感を覚えた。

どこかで感じたことのあるような……不思議な感覚。嫌なものじゃないけど、なんだか妙に胸が騒ぐような、そんな気がした。




「――美咲さん?」




 肩に触れられ、ようやく私は、エレベーターがもう止まっていることに気が付いた。


「す、すみません。なんだか、緊張してるみたいで」


「それならいいが……体が悪いなら、無理はするな」


「はい、大丈夫ですから」


 手を引かれながら進んで行くと、一番奥の部屋で止まり、叶夜君はインターホンを鳴らす。しばらくすると、中から男の人の声が聞こえてきた。それに叶夜君が答えると、ドアがゆっくりと開いた。


「無事に到着したようで、何よりです」


 出てきた人物を見て、私は驚いた。それは、私がよく見知った人物で、




「先生……ですよね?」




 病院で私の担当をしてくれている、上条先生だった。

 どうして先生が? と考えていると、中に入るよう促された。ソファーに座ると、先生はいつものように、やわらかい口調で話を始めた。


「病院ではお目にかかっていますが、こういうのは初めてですね」


「は、はい。まさか、そのう……先生まで」


「〝吸血鬼なのか〟ですか?」


 私の心を見透かすように、先生は聞く。


「説明するには少し難しいですが……彼らと私とでは、根本が違うのですよ。もちろん私は、血など吸いませんので、安心して下さい」


 それを聞いて、ほっとする自分がいた。先生まで血を吸うなんて言われたら、周りにいる人全部、妖しく思えてしまいそう。


「ところで……ミヤビはどうしたのですか? 三人で来るようにと伝えたはずですよ」


「何も聞いてません。俺の方に連絡なんてしないと思いますが」


「まぁ、彼にも彼の事情があるのでしょう。――では、始めましょうか」


 そう言うと、先生は奥の部屋に行ってしまった。


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