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「オレの目……青いだろう?」
「はい。でも、それがどうかしたんですか?」
「さっきまでは、眼鏡で色を変えていたんだ。そうしないと、強すぎるからな」
強すぎるって……光が、とか?
私の疑問を察したのか、叶夜君は懐から眼鏡を差し出した。
「あれ? さっき取られたんじゃあ」
「これは予備だ。だからさっきのより、作りは悪いがな」
手に取ると、付けてみなと勧められ、私は言われたとおり眼鏡をかけた。度は入ってなくて、色も特に変化など無く。どこにでもありそうな、普通な眼鏡にしか思えなかった。
「それ、ただの眼鏡とは違うんだ」
「でも……別に、変わった感じはないですよ?」
「おそらく、君は“魔眼”じゃないんだろう。仮にそうだとしても、オレとは違う部類だから、それだと変化を感じれないんだ」
「魔眼? だから色が違う、とか?」
「そんなとこだ。オレの目は……“支配の眼”なんだ」
「支配って……相手を思うままに出来るんですか?」
「力が強いとな」
「じゃあ、あの時目を見ろって言ったのは……」
その力を使って、私を落ち着かせようと?
途端、あの世界から帰って来た夜のことを思い出した。あの時の叶夜君を思い出すと、辛そうに顔を歪めていた。もしかしたら……力を使うのは痛みが伴うんじゃないかと思ったら、申し訳ない気持ちがわいてきた。
「……ごめんなさい」
その言葉に、叶夜君は不思議そうな顔をする。
「私が声を聞いた夜、力を使ったんですよね? あの時、辛そうにしてたから……無理を、させたんじゃないかと思って」
「気にしなくていい。これの扱いにはもう慣れた。力を使うと痛むとか、そういうことはない」
言い終えた叶夜君の表情が、どこか淋しそうで。とても切なく、次第に、胸が締め付けられていくのを感じた。そして自然と、手が勝手に動いて、
「苦しい、の……?」
私の左手がそっと、叶夜君の胸に触れていた。
もう、そんな姿を見たくない。
私のせいで、“また”誰かが傷付くなんて……。
「苦しい時は、吐き出さなきゃ。――あなたが、壊れてしまう」
言葉を口にした途端、目の前に、こことは違う景色が広がる。
それは覚えのない景色で、あちらの世界とも違う。
『……、シエロ』
『大丈夫。私は、……』
ただ、そこに居る人は見覚えがあった。
数日前、男性に襲われる前に見た人に似ていて――でも、見えたのはほんの一瞬。それから何度か瞬きをしていれば、目に映ったのは、淋しそうな表情を浮かべる叶夜君の姿だった。
「本気で……心配してるのか?」
小さく何か呟くと、叶夜君は口元を緩めながら、
「案外、積極的なんだな」
と、私の左手を握りしめていた。
「他の男にも、こうやって触れるのか?」
「――っ!? ご、ごめんなさい!」
しばらくして、私はようやく、自分がなにをしたのかを理解した。
慌てて手を引っ込めた私は、恥ずかしさのあまり、叶夜君に背を向けていた。
「本当、ごめんなさい! 自分でもどうしてしたのかわからなくて……お、おかしい、ですよね?」
こ、こんなことするつもりじゃなかったのに……。
絶対笑われると深いため息をついていれば、
「――ありがとう」
微かに、そんな言葉が聞こえた。
振り返って見ると、今まで見たことが無い表情をした叶夜君がいた。優しくて……だけどやっぱり、どこか淋しげな。相反する感情が入り混じった、そんな表情をしていて。それがとても、綺麗に思えた。と同時に、胸に、不思議な感覚が広がっていくのを感じた。
なん、だろう……熱でも、あるのかなぁ。
とくん、とくんと、急に脈が早くなり、顔も、なんだかちょっと熱い気がする。でも、それがなんなのか理解できないまま、私はその感覚を無視した。




