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*****


 空が暗く染まる頃――。

 街は、強い光に包まれていた。隅済みまで照らすようなそれは、看板に付けられている電飾。目が痛くなるほどたくさんの光が輝くそこは、都会の闇の部分と言える場所。

 ここでは、何が起きようと気にしない。

 ここでは、互いを気にしない。

 そんな希薄な空間の中でも更に奥――とある路地裏で、物音がしていた。月灯りも届かぬほどの闇。壊れかけの裸電球が、辛うじてその状況を照らし出す。

 ぐちゃ。ぶずっ。

 ぎぎっ、ぎ、、、……。

 聞きなれない音が木霊する。

 風に揺らされた電球が、徐々にその正体を照らし出していく。

 壁にほとばしるのは、一筋の赤い線。その近くには、一人の男性がうつ伏せになって倒れている。生きているのか。それとも死んでいるのか。男性の体は、小刻みに痙攣けいれんしていた。




「――――これで八つ目、か」




 倒れた男性の足元に、別の足が見える。靴の大きさと声からして、おそらくは男性だろう。その人物は目の前の光景を見ても、顔色一つ変えない。更に奥へ進む男性の目の前に、地面や壁にほとばしる赤黒い線が増えていく。突き当りの路地。そこを曲がりしばらく歩いていれば――むせ返るほどの臭いが鼻を衝く。




「――――地獄、だな」




 思わず呟く。

 獣に食い散らかされたような、大小様々な肉の塊。よく見れば、それは人間の死体。

 いや。もはやそれを人間と呼ぶには難しい。人としてのカタチ。原形が判らないほど破壊されたそれは、ただの肉片としか呼べない代物になっていた。




「結構な人数ねぇ~」




 頭上から、軽やかな声が聞こえる。見上げれば、その者は男性の元に静かに舞い降りた。


「首謀者は? まさか逃がしちゃったとか言うんじゃ……」


 今の季節には似つかわしくない、暗めのロングコートを羽織った少女。この場の光景を見ても、男性同様顔色一つ変えず、状況の説明を求めた。


「で、どうなの?」


「自分も先程来たばかりだ。他の場所で死にかけてる者がいたから、そちらを優先していた」


「お、さすがは随一の使い魔。私が望む優先順位をわかってらっしゃる」


「……別に、貴女の為ではない」


 不満そうな男性。対して少女は、素直じゃないなぁ~と言いながら笑っていた。


「仮とはいえ、今は私が主よ? そんな風に言わなくてもいいのに」


「確かにそうだが、完全に貴女に従うわけじゃない。――あくまでも、限定的な主従関係だということを忘れずに」


「お互いの利害が一致している間。もしくはあなたの主が見つかるまでの間、でしょ?」


 頷く男性。それに少女は、さてと、と背伸びをする。


「とりあえず、ここの消毒から始めましょうか。――あ、結界忘れずにね?」


 服の中から小瓶を取り出し、中身を辺りに撒き散らす。蝶のように舞うそれは、甘美な香りを漂わせながら、肉片のみを焼きつくしていった。


 ◇◆◇◆◇


 夢を見ていた。

 肩まである茶髪に、紫色の瞳をした男性。その目からは、静かに、涙が流れていた。




 ――――続き、かなぁ?




 見覚えのある光景。それに私は、今朝見た夢を思い出した。


『全く。少し休んでいれば……何をバカな真似をしておる』


 手の平に刺さった剣を抜くなり、女性は男性の頬を叩く。

 やっぱり、この二人は今朝見た人だ。


『っ!――――どう、して。アナタが』


『聞きたいのはこちらだ。後を託されたくせに……なんだその有様は』


 情けないとか、男らしくないとか。呆れた口調で、女性は叱り続けた。

 よく見れば、女性の衣服はぼろぼろ。血や泥で汚れていて、ここに来るまでどんなに大変だったのかがうかがえる。

 でも、それとは対照的に、顔には傷一つ無かった。

 白い肌に、腰まである髪。まっすぐ伸びた髪は黒々と輝き、澄んだ青い瞳を宿した女性には、洗練された〝美〟を感じた。


『言っておくが、それを使っても死ねぬぞ?――もう、刺され済みだ』


 胸に手を当てながら、女性はどこか悲しげな表情を浮かべる。


『お前はお前の役目を果たせ。箱の処理は、私が任されている』


『ですが――』


『お前の言い分は聞かない。これはシエロの意志だ。それを邪魔するなら――』


 場の空気が、ひんやりする。それは徐々に冷たさを増し、痛いほどの寒い空気に変わっていく。




『――私は、お前を殺す』




 感情の無い言葉が、言い放たれた。

 男性の喉元に、短剣が向けられる。

 女性の目は本気そのもの。少しでも異議を唱えようものなら、問答無用で喉をかき切る勢いだ。


『――――全く。アナタという人は』


 観念したのか、男性は渋々ながらも女性の言葉に頷いた。


『どうせ、それでは死ねないのでしょう?脅しになっていませんが、アナタに従いますよ』


『では、これらは私が持って行く。――お前も、早く立ち去れ』


 男性の目の前にある箱と短剣を手にすると、女性はあっと言う間に姿を消した。

 残された男性は、名残惜しそうに両手を握りしめながら、また、涙を流していた。


 ―――――――――…

 ―――――…

 ――…


 また――夢を、見ていた。でもやっぱり、目覚めと共にその内容は、あやふやなものとなってしまった。起きたら忘れる、なんてことはよくあるけど、こうも気になる夢を見てるのに忘れてしまうのは、気分がすっきりしない。

 夢を見るのは、その日の出来事、記憶の整理をするからだと聞いたことがある。子どもの頃によく夢を見るのは、起きてる間に処理が追い付かないから、寝ている時に整理をする為。大人になるにつれ夢を見ることがなくなるのは、その処理が間に合うからだと。

 すると、私がこうも夢を見るのは――うまく整理ができない、とか?

 疲れてるのか。それとも脳自体になにか異常があるからなのか。

 今度、上条先生に相談してみよう。


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