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 ――風が吹き抜ける。




 体に力が入らず、地面に着いた途端、俺は膝から崩れた。

 黒い液体はその痕跡を残さず、跡形も無く消えている。




「なん、で……」




 自分は今まで、黒い液体の中にいたはずじゃ――?

 目の前に、光る物が見えた。手に取れば、それは透明な球体の飾り。中には、青い花が浮かんでいる。




「――急ぎ離れます!」




 焦るリヒトさんの声に、思わず疑問の声をもらす。


「まだ気付かないの?――もう、オレたち囲まれてんだよ」


 周りを見れば――木々の間から、影が見え隠れしている。だが、そこには影以外の者も見えた。


「オマケに、王華の重鎮たちまでいるし――アンタ、どーにかできないわけ?」


「あいつら、オレを心底嫌ってるからな。――話し合ってどうにかなるってことはないだろう」


「話し合う気は無いでしょう。これだけの影を連れるなど、戦争を起こす以外考えられませんから」


 じりじりと、影や重鎮たちは距離を詰めていく。どれだけの数がいるか分からないが、三人で何処まで保てるか……。




「――――従え」




 小さく、声が聞こえた。

 発したのはエメさんで、自力で立つなり、強い眼差しで前を見据える。


「お前たちが従うのは……王華じゃない。契約は、古き我血にある!」


 声を張り上げる様に、影の進行が止まる。しかし、中には幾つかだが、変わらず歩みを進めている影もいた。


「知性があるなら従え。我はスウェーテの血筋――」


 おもむろに、左腕の服を破る。露になったのは、肩まで黒く変色した腕。


「影にも、触れることが出来る存在。故に――」


 腕を振り上げたと思えば、大地に大きな爪痕が。

 今まで感染が進行した雑華を見て来たが……ここまで力がある者を見たのは初めてだった。




「私は、貴方たちを殺せる」




 告げれば、歩みを進める影はいなくなった。

 すると――影の後方。そこで、何かが飛ぶような、大きな音が聞こえ始めた。




 ギぃヤぁぁーーーア!




 劈くような声。耳を塞いでも聞こえるそれは、箱に剣を衝き立てた時を思わせた。何処かに箱があるのかと見回すも、それらしい物は見当たらない――…。




「――戻るわよ!」




 そんな中、影をかき分けこちらに走る者がいた。身構えれば相手は女性で、


「な、何故アナタが」


「説明は後! 早く小瓶を割って!!」


 血相を変えた、シエロさんだった。

 懐から小瓶を取り出すなり、リヒトさんは急いで地面に叩きつけた。

 広がる鮮血と花びら。俺たちを包みこんだと思えば――あっと言う間に、別の場所へ移動していた。




「――――早かったな」




 戻った先にいたのは、胸に傷を負い、大木にもたれかかっている蓮華さん。怪我をしたのは少し前らしいが――。


「傷、塞がっているんですか?」


 治りが遅いんじゃないかと、そんな予感がした。


「ほう、見ただけで分るか」


「いいえ。ただ、そんな気がして」


「能力は華鬼より、か。――確かに、いつもよりは遅い。だが、ゆっくりとだが塞がり始めておる。問題は――?」


「レン、やっぱり体が……」


「違う」


 射るような眼差しが、オレに向けられる。思わず後退してしまうほど、蓮華さんの眼差しは鋭かった。


「叶夜――お前、アレに入ったな?」


「本当なの!? どこか、痛くない?」


 酷く心配するシエロさん。大丈夫だと伝えたものの、信じられないというふうな目で見られてしまう。


「自分でも、よくわからないんですが――」


「お前は、あの中で何を見た」


 まるで、蓮華さんには分かっているかのような口ぶり。

 だがこれは――おそらく、俺だけに見えたものだと思う。


「フロルと過ごした――記憶です」


 中で体験したことを、ゆっくり話していった。


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