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『ただ死ぬだけなら、わざわざこんな手間を取る必要は無い』
「それは……痕跡を残さない為に」
『違う。あなたの魂は――壊れてる。だから半分しか無い』
半分だけ――?
『フィオーレであるあなたは願った。でも、それには代償が伴う。それが魂の損傷だった。傷を負った魂では、まともに生きることが出来ない。だから半分はずっと遠く――死のそばで、修復を待っていた。生きている半分が死ぬこと。それが、あなたを起こすきっかけ』
「半分しかないなら、今ある魂を使い切っても……」
もしかしたら、足りないんじゃないかと過った。傷により半分しかないなら、力だって半分ということになる。
『だから――ワタシが在る』
「?――それは、どういう」
ドクッ、と心臓が大きく高鳴る。
嫌な感覚じゃない。
例えるならそう。これから楽しいことでも起こるような、高揚感溢れる気分。
『ワタシが有れば――自然と、理解出来る』
光が、体にまとわりつく。
思わず強張れば、何もしないからと、耳元で声がした。
『ここには――あなたに無いモノが在る』
「自分には、無いもの」
『ここには――【体】が在る』
胸が、じわじわと温かくなっていく。
こんな気分は……初めてかもしれない。
まだ、体中が高揚する感覚はあるのに、それでいて落ち着く。静と動。相反する感覚が、体の中を巡っている。
『ここには――フィオーレが残した、体の記憶が在る。それがあれば、あなたはあなたを理解出来る』
途端、一際大きく心臓が跳ね上がった。
思わず地面に膝を付けば、左手は石碑から離れ、今まであった光も消えてしまっていた。
「あぅ―――あぁ…」
思い……出した。
これは、自分が招いた結果だ。
「好きに……ならなければ」
あの時の自分は、一人の男性に好意を抱いていた。少しでも共にいたいと願ったことが、間違いの始まりだったんだ。
箱から溢れる黒い液体。あれに叶夜が囚われたのも納得がいく。
これ以上……間違いを放置してないけない。
立ち上がると、数回深呼吸をした。
近くに箱の気配がする。体はもう無いものの、ここの土壌と残留する力を得れば、厄介になることは確実。そうなる前に――。
気配の方を向き、真っすぐ見据える。
箱が辿り着く前に、自分の方から迎えに行こう。
力強く、大地を蹴り走る。箱とは違う気配。それが叶夜だと直感し、急いでその大元へと向かう。
「――リヒトさん、アレッ!」
大きな声。おそらく、雅が自分を見つけたんだろう。自分に向かって来る気配がする。
「引き返しなさい!!」
先程よりも大きな叫び声。どうやら、先生も近くにいるらしい。
どんなに叫ばれても、止まることはしない。自分はこれから――護る為に逝くのだから。
首飾りを外し、足に、より一層の力を込める。
黒い液体に足を踏み入れれば、小さく、女性の声が聞こえた。
「ワタシ、の――…」
ゆっくり、体の周りを覆われ始める。
もう……繋がなくていい。
中に居るであろう彼に言えば、すとん、と胸の中心から抜けていく感覚がした。




