表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/189

.




「――お邪魔してもいいかしら?」




 戸の向こうから、女性の声がする。

 リヒトさんが返事をすると、入って来たのは、紅色の髪をした知らない女性だった。


「初めまして。私はシエロ。あなたが――キョーヤくんね?」


 やわらかな物腰で、その人は言う。

 近くに来ると、まじまじオレを見つめてきた。


「――――」


「あのう……一体何を?」


「あ、ごめんなさいね。力が使えるかと思って、ちょっと、あなたの先を見ていたの」


「先って――俺の未来、ですか?」


「えぇ。でも、まだ調子が出ないみたい」


「当然です。アナタは長い間、あの箱の中にいたのですから――どうか、無理をしないで下さい」


「大丈夫。そこはレンにも釘をさされてますから。――少し、キョーヤくんと二人でお話をしたいのだけど、いいかしら?」


「はい、オレは構いません」


「ありがとう。リヒトは、別の部屋に行ってて」


 頷くと、リヒトさんは部屋を出て行った。




「――――さてと」




 これからが本題だと言わんばかりに、シエロさんは真剣な雰囲気を放つ。


「キョーヤくん」


 静かに、名前が呼ばれる。返事をすると、シエロさんは微笑み、




「あなた――美咲のことが好きなんでしょ?」




 予想もしなかった話題が飛び出した。


「あ、あのう――話したかったことって」


「もちろん、恋のお話よ」


 当然でしょ? と言われ、オレは唖然としてしまった。


「正直に答えて。あなたは――美咲が好き? それとも、ただ赤の命華だということでそばにいるの?」


 瞳を輝かせるシエロさんに、渋々ながらも、答えることにした。


「――初めは。後者、でした」


「そう。なら、今は前者の方なのね?」


 頷けば、シエロさんは嬉しそうに笑った。――だが。




「悪いけど――その思いは告げないで」




 今までのやわらかな雰囲気は消え、緊張した空気が辺りに漂う。


「命華はね――誰か一人を好きになれないの。呪いのせいで、自分でなく周りが傷付いてしまう。特に、赤の命華の呪いは強いわ。

 私の場合、相手から告げられただけで、その相手を傷付けてしまった。反対に、私が思いを告げると、それまで相手と過ごした記憶が消えてしまうの。だから、永遠に先へは進めない。いくら愛しいと思っても、それまで過ごした時間が消えてしまえば、その思いも無かったことになるの。もう、何度繰り返したかわからないけどね」


 永遠に……進めない。

 共に過ごした時間が消えてしまうのは、一度でも辛い。なのにシエロさんは、それを何度も――。


「そして――美咲は、それが特に強いみたいなの。言葉にしなくても、思っただけで呪いが働く可能性が強いわ。そんな彼女に、思いを告げたらどうなるか――」


 予想もつかないと、ため息をつく。


「…………おれ、は」


 思いを――告げてしまった。

 余計なことをするなと言ったのは、このことだったのか?


「…………」


「――どうやら、もう告げてしまったようね。でも安心して? まだ、美咲に呪いが働いた形跡はないから」


「っ! 本当、ですか?」


「えぇ。さっき、様子を見て来たから。でも、まさかあの子の中に、別の子がいるなんて思いもよらなかったけど。もしかしたら、彼がいることによって呪いが働かないのかもしれない。でもこれは、あくまでも仮定の話。だから、本来はそういうことをしてはいけないことだって、覚えておいて」


「――――わかりました」


 ぐっと、両手に力が入る。

 今の段階で、何もできない自分が嫌になる。


「本当に、心からあの子を思うなら――」


 両手にそっと、シエロさんの手が触れる。


「強く、願い続けて。それがどんなに時を必要としても――どうか、その思いを貫いて」


 向けられた瞳は優しく。同時に、儚くも感じられた。


「……ちょっと、疲れたみたいね」


 体が重いのか、前のめりになる。

 支えると、長く話し過ぎたわね、と反省していた。


「部屋に戻るから、このまま、肩をかしてくれるかしら」


「もちろんです。――あのう」


「ん? どうかした?」


「話していただいて――ありがとうございます」


「ふふっ。どういたしまして。

 きっと――手立てはあるはずだから」


 望みを捨ててはダメよ、とシエロさんは笑顔で励ましてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ