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「――お邪魔してもいいかしら?」
戸の向こうから、女性の声がする。
リヒトさんが返事をすると、入って来たのは、紅色の髪をした知らない女性だった。
「初めまして。私はシエロ。あなたが――キョーヤくんね?」
やわらかな物腰で、その人は言う。
近くに来ると、まじまじオレを見つめてきた。
「――――」
「あのう……一体何を?」
「あ、ごめんなさいね。力が使えるかと思って、ちょっと、あなたの先を見ていたの」
「先って――俺の未来、ですか?」
「えぇ。でも、まだ調子が出ないみたい」
「当然です。アナタは長い間、あの箱の中にいたのですから――どうか、無理をしないで下さい」
「大丈夫。そこはレンにも釘をさされてますから。――少し、キョーヤくんと二人でお話をしたいのだけど、いいかしら?」
「はい、オレは構いません」
「ありがとう。リヒトは、別の部屋に行ってて」
頷くと、リヒトさんは部屋を出て行った。
「――――さてと」
これからが本題だと言わんばかりに、シエロさんは真剣な雰囲気を放つ。
「キョーヤくん」
静かに、名前が呼ばれる。返事をすると、シエロさんは微笑み、
「あなた――美咲のことが好きなんでしょ?」
予想もしなかった話題が飛び出した。
「あ、あのう――話したかったことって」
「もちろん、恋のお話よ」
当然でしょ? と言われ、オレは唖然としてしまった。
「正直に答えて。あなたは――美咲が好き? それとも、ただ赤の命華だということでそばにいるの?」
瞳を輝かせるシエロさんに、渋々ながらも、答えることにした。
「――初めは。後者、でした」
「そう。なら、今は前者の方なのね?」
頷けば、シエロさんは嬉しそうに笑った。――だが。
「悪いけど――その思いは告げないで」
今までのやわらかな雰囲気は消え、緊張した空気が辺りに漂う。
「命華はね――誰か一人を好きになれないの。呪いのせいで、自分でなく周りが傷付いてしまう。特に、赤の命華の呪いは強いわ。
私の場合、相手から告げられただけで、その相手を傷付けてしまった。反対に、私が思いを告げると、それまで相手と過ごした記憶が消えてしまうの。だから、永遠に先へは進めない。いくら愛しいと思っても、それまで過ごした時間が消えてしまえば、その思いも無かったことになるの。もう、何度繰り返したかわからないけどね」
永遠に……進めない。
共に過ごした時間が消えてしまうのは、一度でも辛い。なのにシエロさんは、それを何度も――。
「そして――美咲は、それが特に強いみたいなの。言葉にしなくても、思っただけで呪いが働く可能性が強いわ。そんな彼女に、思いを告げたらどうなるか――」
予想もつかないと、ため息をつく。
「…………おれ、は」
思いを――告げてしまった。
余計なことをするなと言ったのは、このことだったのか?
「…………」
「――どうやら、もう告げてしまったようね。でも安心して? まだ、美咲に呪いが働いた形跡はないから」
「っ! 本当、ですか?」
「えぇ。さっき、様子を見て来たから。でも、まさかあの子の中に、別の子がいるなんて思いもよらなかったけど。もしかしたら、彼がいることによって呪いが働かないのかもしれない。でもこれは、あくまでも仮定の話。だから、本来はそういうことをしてはいけないことだって、覚えておいて」
「――――わかりました」
ぐっと、両手に力が入る。
今の段階で、何もできない自分が嫌になる。
「本当に、心からあの子を思うなら――」
両手にそっと、シエロさんの手が触れる。
「強く、願い続けて。それがどんなに時を必要としても――どうか、その思いを貫いて」
向けられた瞳は優しく。同時に、儚くも感じられた。
「……ちょっと、疲れたみたいね」
体が重いのか、前のめりになる。
支えると、長く話し過ぎたわね、と反省していた。
「部屋に戻るから、このまま、肩をかしてくれるかしら」
「もちろんです。――あのう」
「ん? どうかした?」
「話していただいて――ありがとうございます」
「ふふっ。どういたしまして。
きっと――手立てはあるはずだから」
望みを捨ててはダメよ、とシエロさんは笑顔で励ましてくれた。




