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上条先生自身も、多少言葉による力を備えていると言うが、本来は詠唱を必要とする。命華のように単語、短文で【何かを起こす】となると、予め道具を準備しなければならないようだ。
「私の場合、一つのモノに特化した言葉を持っています。視界に入った特定のモノを消すこと。段取りを省いて出来るよう、私はこのような飾りを」
首から下げられていたのは、透明な球体。その中には、文字が書かれた、記号のようなものが入っていた。
「これを持てば、自分も同じことが?」
「出来ますが、これは私ように創っているので。――しかし、これをすることはお勧め出来ません。覚醒前というのは、非常に不安定な時期です。体もですが、心も刺激を受けやすいですからね」
心――だが、今の自分には。
「エメさんが言っていました。〝感情が乏しい今なら、負担をかけずに終わらせることが出来るかもしれない〟と。今のうちに、やれることはありますか?」
「では、そのことも相談してきましょう。しばらく、ここで待っていて下さい。――キョーヤ、もういいですよ」
廊下に出ていた叶夜を招き入れると、先生は部屋を出て行った。
そばに来るなり、叶夜は体の心配をしてきた。問題が無かったと伝えれば、安堵の表情を浮かべていた。
「何故そんなに――心配を?」
自分はただの代わり。
危険が去れば、今ある自己は存在しなくなるというのに。
「そんなこと――大事だからに、決まってる」
強く発せられた言葉。
射るように鋭い瞳が、自分を見据える。
「お前は、俺を俺として扱ってくれた。最初はその礼にと思ったが、今は違う。お前と過ごすことが楽しいんだ。知らない感情がわいて――ずっと、ずっとそばにいたいと思うようになった」
「だから――そんなに心配を?」
「そうだ。とても大事で、とても――」
叶夜の両手が、そっと頬に触れる。
言おうとした言葉を飲み込んだまま、それ以上語ろうとはしない。
――あの日と同じ。
初めて叶夜と出会った夜にも、同じようなことがあった。こうして見つめ合い、ただ、時が流れていくのを感じていた。
「とても――愛しいから」
振り絞るように、言葉が紡がれた。
徐々に、叶夜との距離が縮まる。
おそらく、叶夜は自分になにかするのだろう。
だが、それは自分が受けてはいけない。資格が無いと、瞬時に理解した。
「美咲は――存在しない」
だから、本当のことを告げなければならない。
目の前にいるのは、もう以前の者とは違う、模倣の存在なのだと。




