8.プロノク=レイマー
プロノク=レイマーは3つの名を持つ。
機動城塞、侵略要塞、そして魔王の城。
闇の精霊王たるネガ・クライマーの居室は闇に包まれている。
だが、そこに燐光が灯った。
「アルフィスか?」
ネガ・クライマーの声。椅子に腰掛けているのか、声を発した位置は低い。
淡い光に包まれた光の精霊王、アルフィス。長い光の髪。白く発光する肌。長い睫に飾られた目は閉じられたまま。
無言だ。
「アルフィス……光の力が弱まってないか?」
そういうネガ・クライマーの部屋も以前と違っている。以前は「真の」闇に包まれていた。今はどうか?
何所にでも有るただの闇だ。
「……ネガ・クライマー」
初めて。アルフィスが、閉じられたはずの口を初めて開いた。
「闇が力を増せば、光も力を増す……」
「ふん! それがこの体たらくか?」
「光が力を増せば、闇も力を増す……ネガ・クライマー……そなたは闇か?」
「アルフィス……」
「……それとも影か?」
その単語を耳にするなり、ネガ・クライマーは片手を振った。
無音の攻撃は、アルフィスから光を奪う。
そして――、アルフィスの表面に歪な走査線を映し出して姿を消した。
『……最初から……無理だったのだよ……それは……ネガ・クライマー……』
音か波動か? 声としての認識をネガ・クライマーへ押しつけ、アルフィスの気配がようやく消えた。
「痴れ者であったか。……ルッセーナ親衛隊長。ここへ」
闇の波動がプロノク=レイマー城中に行き渡る。
間もなく――
「ルッセーナ、ここに参りました」
分厚いカーテンの向こうで、サタノダークとナグールの兄、ルッセーナが膝を付いて頭を垂れる。
「なにか言うことがあろう?」
「はっ、ははー!」
ルッセーナの額に浮かんだ汗が頬を伝って顎に溜まる。
「ご報告に上がろうと、王の間へ向かっていた最中にございました! 報告が遅れて申し訳ございません!」
「言い訳はもうよい。報告が先だ」
「はっ!」
瞬殺されずにすんだ! 奇跡だ!
「第4世界にて、ナグールが不覚を取りました! ナグール戦死! ネガティブ=ナヒト撃沈にございます! これ全て私の不徳と致すところ! お叱り、如何様にも受けさせていただきます!」
結局死ぬ。つい先日、第1から第3までの世界侵攻軍が全滅したのだ。ネガ・クライマー様はお怒りどころでは無かろう!
ルッセーナは死を受け入れていた。
残虐非道な死に方を与えられるより、あっさりと殺される方が楽だ。
「ルッセーナに命ず!」
「はっ!」
頼む、一瞬で殺してくれ!
「直ちに、プロノク=レイマーを第4世界へ転移させよ。第4世界へ侵攻する。第4世界を制覇の後、改めて全世界に再侵攻する!」
まだ殺してくれないのか? 頼むよ!
「ルッセーナは陣頭指揮をとれ。以上だ」
「はっ……ははー!」
ルッセーナは、生き延びた。未来が明るく見えた。
なんか、こう……なんか男の子心をくすぐるデカイのが現れたぞ! 昼間の月を背にして現れるなんざ、狙っているとしか思えねぇ!
下半身は岩石塊。上半身はお城。それもとびきりおどろおどろしく。パイプオルガンの演奏が似合いそうだ!
「でかい……」
レッドが馬鹿っぽく口を開いている。
崖の上に立てられた西洋のお城的デザインなんだけど、敷地が広い。広大。
「米国大陸くらい――」
「有るわけないでしょ。広島城ほどかしら?」
中学の修学旅行という反戦非武装中立教育という左巻きの思想教育を受けたときに、なんとか広場へ行っただけだ。めんどくさそうなので、体調不良を装ってバスで寝ていた。再びあの施設へ訪れたのは、バイクで放浪していた旅の途中だったな。
「あ、あれはニュ……あれはニュ……」
UMAが青い顔して震えている。何かを知ってる顔だ。
「吐け!」
指を頭頂骨から侵入させ、大脳皮質の下へ潜り込ませた。
「イイイガガガゲゲゲ……アレハ、まーぞっくノ本拠、ぷろのく=れいまーダト推測サレマス……ガガガガ」
とうとう壊れたようだ。指を抜いてもガクガクした震えが止まらない。涎も流れっぱなしだ。
「何で本拠地がこっちに来るねん!」
「よーしレッド、後ろに隠れさせろ!」
「なんでやねん!」
「怖い、お姉ちゃん!」
「お姉ちゃんの後ろに隠れるんだ!」
「何やってるの」
ブルーの目が洒落にならない光を帯びていた。
もといして――
「あそこに『届け、心の光』を撃ち込めないか? 大至急で。間に合いそうになかったらゼロマイナス撃ち込めるけど?」
射線上。プロノク=レイマーの後ろに昼の月が浮かんでるが。
「大丈夫だ。月なんざ一個や二個消えても、大宇宙の大きさに比べれば大したことねぇし!」
レッド、ブルー、ピンクが顔を見合わせ、大きく頷いた。
「「「ビューティフル・プリンセス・デビュタント」」」
三角形に並んだ妹とその他2人が腕を振るう。妙にシンクロ率が高い。
「「「届け、心の光!」」」
3人揃って腕をマーゾックに突きだす。
ドン、ドドン!
赤と青とピンク、3つの光が射出され、それがマーブル(ドリル)状に混じり合い、螺旋を描く一本の太い光の柱となってマーゾックのケツに直撃! ドリルが直撃! そして貫通!
正面門がゴボリとパステルカラーの泡的な爆発煙を上げて砕け散る。細かいネクライマー的な有象無象が汚く飛び散り、黒い煙を吹き出しながら消えていく。温暖化の原因にならない物質であればいいのだが。
「よし、敵の機先を制した! 突入するなら今だ!」
プロノク=レイマーに向け、ビシリと拳を着き上げる。
「お姉ちゃんの言うとおりよ。……今がマーゾックを倒す最大のチャンス」
好戦的な妹を見るのは初めてだ。これはこれで、ヨシ!
「せやな。ウチら、どう足掻いてもあっちの世界へ行かれへんしな」
「せっかく飛行能力を手に入れたんだし、お持てなししなきゃ失礼に当たるわね」
見つめ合う瞳と瞳。真心を信じ合う3人。
「どりゃー!」
先ずレッドがはしたない声を張り上げへ中の羽を羽ばたかせた
第4章end




