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遭遇

出屋敷が団長が置いていったのだろう、タブレット端末を見ながら呆然としていた。

「どうしよう、千船。団長・・・もう外だ。」

「確かなのか?俺らを撒く為で無く?」

無駄な質問だとは重々承知している。だが、聞かずにはいられない。

「この、タブレットの履歴でエレベーターの使用記録を見た、それとこのフロアのドアを解錠して銃器も持ち出してる・・・これも見てくれ」

道理で開いてるわけだ・・・。思慮にふける間もなく、出屋敷がこちらにタブレットの画面を見せる。そこには銃を携えた団長が落ち着きも無くエレベーター内でボタンを連打している姿が写っていた。

「不味いな・・・・。これ以上は深追いできないぞ・・・。鳴尾、今から急いで御影班に事情を話して来てくれ、で、医薬品を回収後、先に戻ってくれと俺達の班はそのまま、武器庫で装備を調達しよう。下の皆にも渡せるように・・・持てるだけだ・・・。」

「でも、団長が・・・」

頷き素早く動く鳴尾。状況に戸惑う出屋敷。いや、あいつも動揺を見せないようにしてただけか・・。鳴尾の顔も少し強張っていた。最悪の結果だ。ここで俺まで動揺を出せば、それこそ終わりだ。

「すまん。これ以上は流石に、この人数は無理だ。冷たいと思われても構わない。地上の探索は準備を整えてからだ」

冷静に心中の動揺を出さず、嫌な言いたくもない事実だけを告げ、じっと出屋敷の目を見つめながら、唇を噛む。

「解った・・・。武器庫に行くよ。千船、唇から血が・・・」

心配そうな出屋敷からの声で気付く。冷静に努めたつもりだが、いつの間にか唇から血が出ていた。

「すまない、ここでこうしていてもしょうがない。急ごう・・・。それが団長の為にもなる」

「うん・・・行こう」

青ざめた出屋敷が頷く。最悪だ。しかし、駄目だ。ここで考えてばかりいてもしょうがない。【考えながら身体は動かせ、止まるな。】散々、学校で骨身にしみるほど叩き込まれた。あの教訓が体を動かし、武器庫へ急ぐ。

武器庫の中は、一部を除いて整理整頓されていた。おそらく団長が持っていた装備品数点が無くなっていた以外は、タブレット端末のデータと多少の差異はあるものの装備の数は充分だ。

授業の内容を思い出しながら、装備品の確認を行う。すべてメンテナンスは滞りなく行われていた。

こちらへ来た先輩方の誰かが定期的にメンテナンスを行っていてくれたのだろうか?

「言ってきた、御影班は少しかかりそうだ」

「ッ!!な、鳴尾か・・」

御影の所から帰ってきた鳴尾の突然の報告に少し驚いてしまった。あんまり喋ったこと無いけど、いい声してんな。思慮にかまけている場合では無い。そうだった【考えながら動かせ、止まるな。】だ。

「ありがとう、じゃあ、装備点検しながら箱詰めにして下に持っていこう」

武器庫の中にあった89式小銃、9m拳銃など携帯出来るものをありったけ集める。幸い弾薬も豊富だった。

携帯無線機、防弾衣、鉄帽等など必要品多数。それらを箱詰めにし、まとめて置いていく。ふと見ると、小柄な出屋敷が懸命に持ち上げようとする。その横からひょいと鳴尾が箱を持ち上げ、首を横に振りながら、顎で自らが詰めた箱を指す。

「悪い鳴尾。焦ってた。これを運べばいいんだな、ありがとう」

鳴尾は気にするなと言わんばかりに、手をひらひらさせ部屋の外に出る。しかし、鳴尾・・普段は本当に喋らないな。元からああいう奴なのか。授業でもあんまり絡まなかったからよくわからんが、出屋敷とは対照的だ。その出屋敷にしても余程、衝撃が大きかったのだろう。最初ほどの威勢は無い。

「千船、大体詰め込めたぞ。人数分には少し足りないが、もう運んでいいのか?」

「やっぱり足らないか・・・。仕方ない。気をつけて運んでくれ。鳴尾にもそう伝えて。俺は御影んところを見てくる。まだ降りてないよな?」

「ああ、多分降りてない。薬大丈夫かな・・・?」

「これだけ、武器弾薬があるし、薬品が無いとは思えないが、とりあえず、こいつがいるかもしれんしな?」

そういって心配そうにしている出屋敷にタブレット端末を見せる。ひょっとしたらこいつがないとダメかも知れないしね。

「ああ、そうだな、時間かかっているのはそれがないからかもしれないしな・・。じゃあ、皆に装備渡しててくる・・・」

そう言いながらも、一向に行く気配もなく、その場に留まる出屋敷。ゴンと鈍い音が辺りに響く。

「どうした?おい?出屋敷?」

なんだ?どうした?自分の持つ木箱に思いっきり頭をぶつけつつ頭を垂れる出屋敷に圧倒されて一瞬、困惑する。赤くなった額を上げた出屋敷がこっちを見た。

「本当にごめん千船。最初から皆に突っかかってすまない。なんか、いつも御影に負けてる自分が嫌だったんだ。アイツにとっては、なんとも思わない相手だろうけど、ここでも向こうと一緒と思うとなんか・・・ムキになって・・・ホントにごめん」

素直な気持ちだろう。さっきまで見せていたトゲトゲしさは微塵もなく、小動物に近い出屋敷。忸怩たる思いがあったのだろうが・・・ここ安全じゃないからね!でも、反省してるし、何より同い年のこいつより俺が偉い訳がない。

「まぁ、出屋敷にも色々あるんだな、もういいよ、気にするな!色々あるだろうけど今は皆の為に頑張ろうぜ!あ、でも、ちゃんと鳴尾にも謝っておけよ・・・御影は、うん、俺から言っとくよ」

「ああ、ありがとう!千船、俺がんばるよ」

いい笑顔で言い切った出屋敷を見て思った。なんか尻尾全力で振ってる子犬のイメージがある・・・。

心なしか足取りも軽く部屋を出て行く出屋敷を見送った後、御影班の元へ向かう。


医務室と書かれた扉を開け室内に入ると、難しい顔をした御影班の面々がいた。

「御影、指定のものが見つかったか?俺の班は下に運んでるとこだけど・・・あ、あとこれ、お前らの班の装備な」

「千船か、目当てのものはあるんだが、どうしてもロックが外れない。どうやら何かいるようだ・・ん?」

予想が当たったようだ。箱を床に下ろすと御影にタブレット端末を渡す。

「信じたくないが、これがここにあるということは、どうやら団長が地上に出たのは事実らしいな・・・。あの馬鹿野郎・・。」

タブレットを受取りながらぼそりと呟く。御影にしては珍しく怒りが前面に出てきていた。その光景が珍しく、思わず口から出てしまった。

「御影にしては珍しいな。そんなに感情が出るって」

俺の質問に一瞬、意外そうな顔した御影は、何事も無かったようにタブレットを操作しながら、薬品棚へ向かう。

「お前と新開地と一緒だ。俺とあいつも」

ハッキリ聞こえた。そういうことか。まぁ、親友が馬鹿やったら確かに怒るわな。

「そうか、必ず追いかけて、見つけて、殴ってから皆の所へ連れて行こう」

「ああ、そうしよう」

相変わらず、こちらは向かないが、力のこもった返事だった。

「じゃあ、俺は下の皆にも装備渡してくるから、医薬品は頼んだ」

「解った。すぐに行く」

仕事が早いな・・・。溢れる有能さ。なんとなく出屋敷が羨むのが解る・・。あ、そうだった。

「あ、後、出屋敷が状況もわきまえずすまないと」

「いつものことだ。気にしていない。気にするなと伝えてくれ」

「お、おう、じゃあ」

こっちを向かずに仕事を続けてる御影。この御影の態度が多分、出屋敷と徹底的に合わないんだろうなぁ・・・・。まぁ、わからんでもないが・・・。

医務室のドアを出た時にソレに気付いた。直通エレベーターのボタンが点滅している。・・・団長が戻ってきたのか?それとも?

思考をしながら、急いで医務室の中に戻る。と同時に、

「御影、武器出して。エレベーターが戻ってくる。」

「解った。おい」

察しのいい班長で助かる。御影班の慌ただしい動きを背に感じながら、ドアの僅かな隙間からエレベーターを注視していると、御影が横についた。

「千船、これ」

9m拳銃を手渡される。授業で持っていたものとさして変わらない。手に慣れた感じだ。

「ありがとう、何事もなく、団長だったらいいんだがね」

「そう、願おう」

ポーン!

緊迫した雰囲気に合わない間抜けな電子音がフロアに響き渡る。開いたドアから団長がよろよろと出てきた。

「樹っ!」

団長の姿を見た刹那、飛び出そうとした御影を手で制した。

「千船っ!何故止める、あの馬鹿を・・・」

ハンドサインで団長の後ろを指す。それで解ってくれた。いつもの冷静な御影に戻ったようだ。

エレベーターの中にまだ、誰かいる。団長は後ろを振り返りながら何事かを中の誰かに語っている。さっきまでのネジの飛びっぷりはないようだが、信用は出来ない。

団長がえらく懇願しているようだ。皆に紹介するやら、大丈夫などなど漏れ出る声から予想するに第三者は確実だろう。果たしてどうなのか。俺が撃鉄を起こすと、御影班も89式の安全装置を解除した。

「相手が出てきたら、俺が行こう。御影班はサポートでOK?」

「相変わらず、命知らずだな。解った。サポートは任せろ」

まぁ、君がさっきの剣幕だと、団長ボッコボコにしかねないからなんだけどとは口が裂けても言えない。意外と激情家なのね・・・これ知ってるから出屋敷余計にムカついてるんじゃないかな・・・。

「お出ましか」

などなどしている内に身元不明の第三者がフロアに姿を表した。

外見は・・怪しいの一言に尽きる。ボロボロのフードをすっぽりかぶり、これまた全身を隠すようなボロいマント。少し見えた手は包帯なのかこれまたボロいなにかで覆われている。

「千船・・・。」

「言うな・・・行くからよろしく。」

そう言いながら、拳銃を団長から見えない腰のベルトに差し込む。

「お、団長!無事だったか!、皆に知らせ・・・後ろの方は・・・?」

ドアから出て、さも今気付きました。とばかりの我ながら嘘くさい演技だな。心臓がバクバクいってるわ。

「ち、千船君、さ、さっきはすまない・・・。取り乱して、こ、こちらは・・・そ、その・・・・み、味方なんだ!」

うぉーい、めっちゃ挙動不審なんですけど・・・。その、後ろの人もですが・・・。

「味方・・・?お、お名前は?」

なんて言いながら、地味に間合いは詰める。それを見て、後ろの人は・・・すっごい警戒してる・・・団長はあんまり判ってないな・・。

「私の名前ハ、玉川といいます。ここハ知り合いに教わって、定期的にきてます」

少し違和感のある喋り方だが、渋い声からするに年齢は40くらいかな?ちょっと近寄ったら解ったのだが、フードの下も包帯でぐるぐる巻きじゃないか・・・怪しいなぁ・・・玉川と名乗った人物もかなり警戒心が強いみたいだなぁ・・・こっち睨みながら、いつでもエレベーターの中に戻れるようにしてるし・・

「た、玉川さんですが、どうもこんにちは、団長、玉川さんとは外で出会ったの?現地の方?」

「あ、ああ、そうなんだ。さっき、外で会って、そこで助けて貰ったんだ・・ここの事も知ってたし、パスも持っていたから、皆のこと話すと、早く車輌から出なさいって・・教えてくれて・・でも、さっきの取り乱した僕が言っても信用されないし、それで無理言って来てもらったんだ」

「助けてもらった?え?車輌から出ろって?え?どういうこと?」

よく判らないワードがボコボコ出てくるな・・・だが、確実に当てれる距離までは近づいた。

「外は・・・あれは・・・そうだ、車輌だ!皆が危ないんだ!車輌はしばらくしたら、ここのシステムに分解されて、装備品や弾薬に再加工されるって、玉川さんが!」

「は・?」

思わず呆気にとられる。団長?まだネジ飛んでるのか?

「事実です。そうしないとここが維持できないのです。ハやく皆さんに伝えてあげてください。危険です。」

玉川はまっすぐこちらを見ていた。

「それを信用しろと?」

小細工は辞めだ。さっきまでの作り笑いをやめ、玉川に語りかける。

「信用できなけれバ、それでも構いません。ただ、知らずに死に向かうよりハと思ったまでです」

なりはすごい怪しいけど、言ってることはなんとなく解るのよね・・・片道切符なのは判ってたけど、引きこもりも許しませんというのは・・・ありそうだなぁ・・しかも、送った資源も無駄にはならない。一石うん鳥・・・・あーあるなコレ。

「・・・だってさ?御影・・。俺は信じるけど?何もなければ、良いとして、下に知らせてもいいと思うけど?」

ドアからぞろぞろと御影班が銃を構えながら出て来る。団長、御影の名前と顔見た瞬間、すごいビクってなった・・・。

「正気か?千船。無為な混乱を招くものとだと思うがな?」

あーやっぱ怒ってる。

「春・・し、信じてくれ。頼む」

団長の弱々しい哀願。それ今逆効果じゃないか?

「お前は黙っていろ、今は千船と話している。それにそこの怪しい風体の人物を信用しろと言われても難しいぞ・・・」

「だから、信用しなくても良いってあちらさんもおっしゃってるし、何もなければオッケー的なもんでいいんじゃないかな?動かせない奴らもいるわけだし・・な?」

「解った。医薬品を運ぶ前に知らせに行かそう、淀川、頼む。」

淀川は頷くと階段へと駆けていった。それを見て、改めて玉川に向き合う。どうしても聞いておかなければならないことがある。

「で、玉川さんは、誰からここの事を?事と次第によっては・・・」

「だろうね、私の数少ない友人だった男からだよ。彼ハ君達と同じだった。こちらに送られた事、仲間が次々死んでいった事。そして、まだ見ぬ後輩達の為に色々してやって欲しいと、今際の際にこのパスとここの地図を渡された。それだけさ」

そういうと古ぼけたIDパスをこちらに向けた。

「それを証明はできませんよね?」

「そうだね」

あっさり認めるところがすごいなぁ・・・表情が読めないからなんとも・・・でも、害意は無さそうなんだよなぁ・・・

「千船・・・。」

「ここでウダウダ言っててもしょうがないよね?わかってる」

「い、いや、その玉川さんの・・・う、腕が・・・」

御影が焦ってる?玉川さんが?腕がどうした?

「ああ、すまない。これを見るとそういう反応になるよね?」

そう言うと玉川は、包帯が解けた腕をこちらに向けた。そこには、ひび割れた皮膚のあちこちからなにかよくわからないものが蠢いているのが見えた。

「君達もよく知っているだろう?強制融合症だよ。もっとも私ハ動ける分まだマシだがね」

言葉を失う俺達に、玉川は自嘲するように語りかけた。

「彼も君達と同じ反応だったなぁ・・・。もっとショックだったのハ、団長君だがね。私の顔を見てしまったからね、流石に銃弾は堪えた」

「その、すいません・・・」

申し訳なさそうに玉川に謝る団長・・。唖然とする俺ら。

え?なに?団長?この人にすでに弾丸ぶっ放してるの?それで堪えたで済む話じゃないよね?なんで死んでないの?それにすごい申し訳ないみたいな態度取ってるけど、殺されても文句言えないよね?

「えっと、その、うちのが本当にすいません。お体大丈夫なんですか?」

ついつい聞いてしまう。これはもうあれだ。まな板の上の鯉だわ。多分、勝てない。警戒心はあるけど、害意がないのも頷ける。はっきり言えば、俺らなんぞ彼がその気になれば、どうとでも出来るからだ。

「ああ、気にしなくていいよ。後、外に出たら、銃ハあまり信用しない方がいい。これハアドバイスだ。どちらかというと手榴弾の方がいい。点より面、それに爆風と熱が良い」

なんてアドバイスだよ・・・。メインウェポンがいきなり戦力外通告。

「樹・・・。お前、運が良かったな」

心底、呆れたように御影が呟いた。俺も全くの同感だ。

「その人の言ったとおりだ!」

戻って来た淀川の絶叫がフロアに響いた。

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