任意連行?
雅哉が件の通りに戻ってきたときには、様相はずいぶんと変化していた。
「すまんが通してくれ」
「ああ? 何だお前」
「ちょ、おさないでよ」
集まっていたただ見ているだけの不毛な人々(野次馬)を押しのけ、輪の中心に無理やり入り込む。
中心近くでは何人もの警察が黄色い立ち入り禁止のテープの外と中で真剣な表情をしていた。
「おい、何だお前は」
ここでも野次馬と同じ言葉を吐かれ、やや嘆息気味に、意図して無視しながら状況を探る。
テープの内側にはすでに一般人は誰もいない。倒れた少女も救急車で運ばれたのだろうし、その友人たちもいつまでも留めておくはずもないだろう。
「おい……っ」
自分を無視する雅哉の存在に、正義の警察官が苛立たしげに眉と語気をあげる。
だが、それに反応したのは雅哉本人よりも、むしろテープのそばで警察と話をしていた少女のほうだった。
「お、まさや! 帰ってきたんだ!」
「おう、さとり。状況はどうだ?」
「んー。わからないわね。なにがどうしてあの子が倒れたのか、さっぱりよ。……ところで、なにしてるの?」
なにとはずいぶんな物言いだなと思いつつ、雅哉は先ほどまで自分に敵意を向けていた警察官を、ようやく意識を入れた。
「すまないな。俺もこの件の関係者なんだが、言っても聞き入れてくれるか分からなかったから、先に知り合いの関係者を探してたんだ」
「あー、なるほどねー。ほんと、警察って権力に弱いくせに頭固いからね」
そっちのほうが楽だからかな? と、歯に衣着せぬ物言いをするさとりに、むしろ雅哉のほうが面食らう。
雅哉も相当、警察に敬意を払わない態度だったが、さとりはそれ以上だ。露骨にけなしてさえいる。
「は……あなたの学友でしたか」
「そそ。それで、今回1番の功労者よ、彼は」
「…………」
警察官はもう何も言わずに、非礼を詫びるとばかりに雅哉に向き直り、直立のまま頭を下げた。その様子は、どこかおびえているようにさえ見える。
「…………」
「鳩が豆鉄砲浴びたような顔しているところ悪いけど、まさやもこっちに来て。今から警察に行くから」
「お、おう……?」
よく分からないまま流されるように、さとりに引っ張られる。
「私のことについては、道中で話すわ。ま、大したことはないんだけどね」
なにがなんだか、という精神状態だったが、「ま、さとりの言うことならいいか」と友人への信頼を無条件で発揮して、なすがままに流された。
連れられた先にはパトカーがあり、中には智一が飄々とした様子に緊張をにじませながら座って待っていた。
「お、雅哉。ようやくきたか……」
「パトカーに乗るなんざ初めてだ」
思わず、といった体で零れた雅哉の言葉に、「俺もだ」と苦笑気味に智一も同意する。
そんな2人を後部座席に押し込んで、まるで緊張をにじませない慣れた様子で、さとりが最後に乗り込んだ。
「それじゃあ行こうか」
上機嫌にも思えるさとりの様子と、それ以上にその言葉に疑問を持って、雅哉が尋ねる。
「行くって、どこに?」
「サイレン鳴らさないパトカーが行くところといったら決まっているでしょ?」
するとさとりは、人の悪い表情を浮かべ、同時にはじめて友人を我が家に招待するような高揚感を感じさせながら、意外とやわらかいパトカーの座席から小さく腰を上げ、戸惑う雅哉と智一の2人を見た。
「もちろん、警察署よ」
「「…………」」
雅哉と智一が『予想はしていたけど……』という納得を浮かべながら、飲み込めない状況にますます困惑した。




