エピローグ2 待てコラ話が違う!
ちょっと待てとツッコミを入れたいキリエの目の前で、エリシアが軽く肩をすくめた。
「私はお兄ちゃんから、お姉ちゃんを雇ったって手紙をもらっていたの。あの時はもう、怒りでどうにかなっちゃうんじゃないかって思ったわよ」
「いやいやいや、ヒルト! あんたそのルートって、絶対裏の方でしょ!」
「当たり前です。でなければ、エムスのことだって知っているはずがないでしょう」
姉さんを探すためなら何だってしますと言い切るフリードリヒに、キリエの頭が痛みを訴えてくる。
馬鹿だこいつ。
ある意味、究極の馬鹿だ。
それ以上触れない方がお互いのためだと判断し、気分一転ディラックの横に並ぶ。
「さて、これで依頼は完了! 自由!」
「その前に本部に行かなきゃならねえけどな」
「そうそう、それが面倒ー」
「……馬鹿馬鹿しい……」
ぼそりと呟いたのは、ローブを纏っていないシュレイド。その左手首には、しっかりと金の腕輪がはまっている。
「馬鹿ですって? あたしにとっては重要な問題なのよ!」
がうと吼えたキリエに肩をすくめ、シュレイドはさっさと馬にまたがった。
「行くぞ」
「だから何であんたに指示されなきゃなんないのよ」
不機嫌そうに眉をしかめながら、それでもキリエは踏を返した。
と。
「待って。お兄様が雇っていた傭兵達から、お姉ちゃんに手紙を預かってたわ」
エリシアに呼び止められ、キリエは首を傾げる。顔も知らない傭兵達が、自分に何の用だろうか。
ずしりと重たく幅もある封書を開け、キリエは絶句した。
「何で……? 何よ……これ」
白金の腕輪。
以前の模様そのままに、あのギブロス達と同じ材質になったそれを凝視しながら、キリエはやっとの思いで口を開いた。
隣でディラックが同封されていた手紙を読み、こちらも目を見開く。
「キリエ、ランクアップだ。手練って呼ばれる段階に進む奴もいるらしい」
「何それ?」
「読め。その方が早い」
手紙に目を通したキリエは、見覚えのある字に驚きながらも読み進める。
そして。
「あいつら……」
低くうめいた。
一般的にはレベルA、金のままでデスクワークに移ることを出世と言うが、ごく稀に手練と呼ばれる段階に進む者もいる。
さらに、ランクアップするには手練の誰かからの推薦が必要になるらしい。手練の存在自体が知られていないのだから、推薦を受けられる者はごく稀になる。悪循環だ。
「手練になると、今までのようなエムスによる規制はほとんどなくなる。移動の度に支部へ連絡して居場所さえはっきりさせておけば、好きな時に好きな場所に行って、好きなことができる。エムスを通さずに直接仕事を引き受けても構わない」
思う存分喧嘩できると聞いて、キリエの目が輝いた。しかし、
「何ではじめっからそう言っといてくれないのよ!?」
一変して鬼のような形相になって怒鳴った。見えない手紙の主に対して、怒り心頭だ。
「おかげであたし、泣くほど不安になったじゃない! 師匠の馬鹿!!」
ぐしゃりと手紙を握りつぶし、それを力の限り地面に叩きつける。小石がぶつかった時のように、勢いよく跳ね返ってきたそこだけが、ピンポイントにえぐれていた。
その後も一通り怒りを発散すると、彼女はディラックの背中を叩きつつ踏を返す。
「行こ、ディラック」
「ああ。本部に行って溶接してもらわなきゃな。シュレイドのもまだだし」
そう、シュレイド。
ふと思い出したキリエが、首だけくるりとディラックの方に向ける。
「何でこいつだけ金なの?」
「手練の条件の中に、レベルAとしてある程度の経験を積むことってあるんだとよ」
経験さえ積めば、シュレイドもすぐに手練になるだろう。
「ふうん、そっか」
納得してうなずいたキリエは、鐙に足をかけてヘイルにまたがった。
「じゃあね、みんな元気で」
「お姉ちゃん、手紙書くから!」
「うん、待ってる」
エリシアに手を振って馬首をめぐらせ、三人は本部がある街へと歩を進める。
「なあキリエ、とりあえずこれからどうする?」
「うーん……とりあえず本部に行って、そこでシュレイドともおさらばできるわけだから。ここはひとつ、ぱーっと暴れますか!」
ディラックの問いに、キリエは嬉々として拳を空に突きあげた。
****
数日後、シュレイドと仲間にさせられることを知ったキリエが、本部のお偉方の部屋で暴れることになるのだが……それはまあ、別のお話。




