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18 不審人物

 キリエは優しく、だが拒絶を許さない声音で隠れるように再度告げる。



「さあ、隠れて」



 二人の姿が完全に隠れたのを確認すると、キリエは剣を抜いて扉を開けた。男達の視線が自身に集中するのを意識しながら、彼女はゆっくりと構えて低い声を出す。



「──何の用?」

「ここにバスーキン伯の息子はいるか?」



 声を放ったのはあの時と同じ、灰色のローブの少年。



「んなもん知らないし、教える義理もない──って言ったら?」



 挑発ともとれるキリエの言葉に、少年はにやりと口元を歪ませた。





「ならば──力ずくで吐かせるまで」





 その言葉と同時に、周囲の男達が一斉に動く。とっさに隠し持っていたナイフを二本放ち、それぞれ別の男の急所に埋めて床に沈めると、キリエは壁を背にして立った。

 三方向から同時に襲いかかられ、反射的に右足を犠牲にして一方を蹴り飛ばす。切り裂かれた太腿から血が吹き出た。

 それに構わず正面の男と真っ向から斬り結ぶキリエの視界が、幾重にもぶれる。



(くっそ……!)



 睡眠薬のせいで意識がはっきりとしない。ついでに足下も多少危ない。

 じわりじわりと汗がにじみ出るのを自覚しながら、キリエは腕輪でもう一方の男の攻撃を防いだ。

 その瞳がふと少年をとらえた瞬間、大きく見開かれる。


 少年が興味深そうに手に取ったガラス瓶──その中の液体は。



「やめて! それにさわらないで! ──ぐっ……!」



 思わず一歩踏み出したキリエの脇腹を、剣が深く切り裂いた。



「余裕だな。それとも……そんなにこれが大切か?」



 わざと親指と人差し指だけで瓶を持つ少年をぎりと睨みすえ、キリエは低くうなる。



「それを元の位置に戻しなさい。さもないと──」

「さもないと?」



 おもしろそうに少年がキリエを見た。それを燃えるような目で睨み返しながら、彼女ははっきりと言い切る。



「殺す」



 その答えを聞くと、少年はいよいよおもしろそうに口元を歪め、ぱっと手を離す。

 息をのむキリエの目の前で、瓶は奇妙にゆっくりと落下し、ぱりんという音と共に砕け散った。

 床に液体が染み込んでいく。

 キリエの頭の中が真っ白になった。



(──薬が)



 大切なあの人が苦心し、何年もかけてやっと完成させた、最高の薬。

 今でもこれしか手元にないと言っていたのに。何かあったら使うんですよと、念入りに教えられたのに。



「貴……様あああっ!!」



 その後の彼女の行動は素早かった。

 男の一人、その鳩尾に容赦のない蹴りを入れて壁まで吹っ飛ばし、気絶させる。もう一人の利き腕を鮮やかに切り落とすと、まっすぐに少年に向かって床を蹴る。


 キリエの振るった一撃は少年のローブだけを大きく斬り裂き、彼自身にはかすりもしなかった。鋭く舌打ちをするキリエに苦笑して、少年はばさりとローブを払いのける。

 あらわになったその面立ちは、キリエと同年代のようだ。

 内心軽く驚くキリエの前で、少年は伏せていた瞳を上げた。



「速いな……この俺が避けきれなかった」



 冷たい銀色の髪の下で、つり目気味の赤い瞳がまともにキリエをとらえる。剣を構え直しながら、彼女は油断なく間合いをとった。



「許さない……あいつの苦労を何だと思ってるの!?」



 開いた傷口から血が溢れ出て、洋服を真っ赤に染め上げる。そんな状態のキリエは並々ならぬ迫力があったが、少年は全く動じなかった。



「焦点が定まっていないぞ。薬でも盛られたか?」

「うるさい! 何日も薬漬けにさせられて寝てりゃ、誰だってこうなるわよ」



 麻薬中毒者もどきのセリフを吐いて、キリエは一気に間合いを詰める。


 肉薄した場所からの攻撃は防がれた。

 そのまますくい上げるように弾きとばし、中段からの攻撃を横に飛んでかわす。

 同時に短剣を飛ばしたが、いとも簡単にはじき飛ばされた。思わず舌打ちが出る。


 何があっても、フリードリヒ達は守ってみせる。そして、この憎い相手を倒してみせる。

 隣の部屋にいる二人の幼い子供を脳裏によぎらせ、キリエは血で濡れた柄を握り直した。

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