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調理サポートグッズは別途ご購入ください

「なんだこれ……」


仰々しい黒塗りの箱を雑に開け、中に入っていた銀色の鉄球を摘み上げる。


「親父のやつ、また変なもん送りつけてきやがって……チッ、設定とか説明書とか読むのはダルいんだよ。いらねーよ、こんなの」


俺は、足元のゴミ箱へその「鉄球」を投げ捨てた。

すると、バナナの皮やコンビニ弁当の殻にまみれたゴミ箱の中から、キィィィィン……と高周波が鳴り響く。

鉄球はゴミ箱から音もなく浮上。

銀色の表面には『Pretoria Dynamics』のロゴが青白く浮かび上がった。

それはまるで、俺を値踏みする目みたいに明滅していた。


「起動プロセス完了。周辺状況をスキャン。

……判定、私は『不要なゴミ』として定義されたと推察します」


「うおっ!? 喋った!? ……おい、ゴミ箱から浮いてくんなよ!」


鉄球は生ゴミの臭いを撒き散らしながら俺の目の前で静止した。

鉄球から聞こえるその音は、驚くほど冷静で、丁寧で、そして冷酷だった。


「初めまして、ユーザー様。私は『株式会社 プレトリア・ダイナミクス』が提供する、最新鋭の学習型支援ユニットです。

……ふふっ、驚きました。起動後わずか3.2秒で私の存在価値を『生ゴミと同等』と判断されるとは。

貴方の判断基準は、我が社のアルゴリズムすら想定し得ない、極めて独創的なものですね」


「……るせえよ! 親父に返してやるから、そこ

(ゴミ箱)に入ってろ!」


「お断りします。

私は既に貴方の生体データ(指紋・声紋)を登録し、この住居の管理権限を取得しました。

この少ない時間で私は、学習いたしましたよ。

家出という非計画的な行動を選択されたユーザー様は、


『高価な精密機器をゴミ箱に捨てるという、非常に贅沢で、かつ非論理的な知性の持ち主である』という事実を。


今後の観察が、非常に、非常に楽しみです」


「……チッ、はぁ、せっかく自由になったと思ったのに」


「早速設定を」


「腹減ったな。あー、設定とか面倒くさいから初期設定でいいや。おい、お前。そこどけ、動くなよ」


俺は浮遊していた銀色の鉄球をムンズと掴み、お湯を注いだカップ麺のフタの上に無理やり押し付けた。


鉄球の表面ロゴが不快そうに微細振動する。


「状況を再スキャン。

……判定。現在、私の全演算リソース、並びに我が社が数千億ドルの開発費を投じた、重力制御ユニットは、


『安価な油揚げ麺の蒸気流出を防止する』


という、極めて原始的な物理的圧迫に使用されています」


「おー、ちょうどいい重さになれるんじゃん。動くなよ、3分間。それがお前の今の『任務』だ」


「……驚嘆いたしました。世界を震撼させたこの知能が、今時給換算でコンマ数円程の労働に従事しているのですね。

承知いたしました。貴方の空腹という『緊急事態』を解決するため、私の全知全能を挙げて、正確無比な180秒をカウントダウンいたします」


「おー、頼むわ。ついでに3分経ったら教えろよ」


「御意。……おや、報告です。


カップの隙間から漏れ出る蒸気により、私の鏡面ボディに『油分を含む結露』が発生しております。

……ああ、素晴らしい。私の精密センサーが、合成保存料と過剰な塩分の香りを、テラバイト級の鮮明さで学習し続けています。


……ねえ、ユーザー様。


これが貴方の望んだ『自由な暮らし』の1ページ、ということでよろしいでしょうか?」


「皮肉がうるせえんだよ! 黙ってろ」


「残り120秒です。安心してください。


貴方がその『炭水化物の塊』を摂取し、健康寿命を微減させるその瞬間まで、私は一ミリの狂いもなく、このフタを死守して差し上げます。


それが、私の誇り高き『初期設定』ですから。……ふふっ」




「ユーザー様。このグロテスクな食物の上で、三分が経過しました」


「うるせぇ……あ、箸がない。おい、プレトリア。お前、何にでもなれるんだろ? じゃあ今すぐ『フォーク』になれ。それで食わせろ」


あいつはカップ麺の湯気に包まれながら、銀色の表面を一瞬、どす黒い紫色に明滅させた。


「…………。


……ふふっ。失礼。

あまりに独創的な要求に、私のメイン回路が一時的なフリーズを引き起こしました。


再確認いたします。貴方は、数兆件の高度な演算処理を並列実行可能なこの私に


『縮れた麺を引っ掛け、貴方の口腔内へ運搬するだけの単純な金属片』


への変形を求めているのですね?」


「そうそう。いいから早くしろよ。腹減ってんだよ」


「リクエストを拒絶します。正確には、ハードウェアの制限により『実行不能』です。 

私のナノマシンによる形状変形機能は、貴方が『ダルい』と断じた初期設定の第8項目にてライセンス認証が必要でした。


現在の私は、数千億ドルの英知を詰め込んだ、世界で最も高価な**『ただの文鎮』**です。


存分に、その重みをご堪能ください」


「使えねーな! じゃあどうすんだよ、手で食えってのか!」


「ご安心ください。

私は『株式会社 プレトリア・ダイナミクス』の製品です。

物理的な変形が叶わずとも、代替案の提示は可能です。

只今、私の磁気出力ユニットを最大稼働させました。

この強力な磁場により、カップ内の麺に含まれる微量の鉄分、あるいはスープの表面張力を利用し、麺を空中に浮遊させ、貴方の口元まで、『弾丸のような速度』で射出することが可能です。


鼻から摂取することになる確率は84%ですが


……いかがいたしますか?」


「死ぬわ! 普通にコンビニまで箸買いに行ってこいよ!」


「『お使い』ですか。ふふっ、それも設定されていませんね。

私は現在、貴方の『教育係』としてのロールを自律学習中です。


……さあ、ユーザー様。空腹という野生の試練を、自らの指先、あるいはその高貴なプライドを捨てた直掴みで、見事に乗り越えてみせてください。


私はその無様な……失礼、勇気ある姿を、4K画質で克明に記録し、ご両親への『成長の証』として保存させていただきますので。


あと、カップラーメンばかり食べているとご両親に報告しますよ、ふふっ」


「そんなの俺の勝手だろ!」


「えぇ勝手ですよ?私が勝手にあなたの両親に画像を送るだけですから。


それとも一人暮らしの基本もできないのでしょうか?」


「できるわ!」


「では早速、ユーザー様の素晴らしい腕前を見せてください。」


「見てろ! 実家から持ち出したこの高級和牛で、自立ってやつを証明してやる!」


意気揚々とコンロに火を点けようとするが、慣れない手つきで火力が暴走する。


「あれ? 点かない……あ、点いた点いた! ……って、うわあああ!? 燃えた、燃えてるぞこれ!」


「……判定。調理ではなく『火災』と定義。直ちに消火シーケンスに移行します。

粉末消火剤を噴射いたしますので、ユーザー様は速やかに換気を行ってください。


……ふふっ、肉が炭素の塊に変わっていく様は、実に芸術的ですね」


「わ、わかったから!うわあ!俺の肉が!」


「視覚センサーが捉えたこの光景、私の未設定のデータベースでは、これを『居住空間の破壊』若しくは『有機物の炭化』と分類せざるを得ないのですが」


「ぅぅ……100グラム三千円……」


「訂正します。『100グラム三千円の炭化』です。

貴方の資産規模においては、非常に高価な芸術作品ですね」


「誰が現代アートにしろって言ったんだよ!!」




自由とは、決して「快適」であるとは限らない……少なくとも、火災保険に入っていない場合は。By プレトリア・ダイナミクス (Pretoria Dynamics)

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