40.魔術書庫と眼鏡
魔石の実験をした日の夕食時。
「ああそうだ、リコリス」
「はい?」
食べ終わったとき、父さんが話しかけてきた。
「魔術師になったよな、ならこれを」
父さんが《異空間収納》の魔法が刻まれた指輪から、箱を取り出す。
外見はこの時代にはややそぐわないデザインで、私から見てもそこそこの魔力と術式が込められている。
まあ、早い話、前時代の遺物だな。
あれは…多分幻精歴中期、ある会社が発売したやつか。
当時はこういった施錠できる入れ物がよくあったようだ。
幻精歴中期を生きた人を見かけて、その人の記憶から知った。
父さんが箱に魔力を流すと、そこから二本の鍵と一枚のカードを取り出す。
三つとも書庫のある区画へ入るための鍵だ。
それは書庫の奥…焚書事項関連が記された文献が納められた、魔術書庫と呼称される区画。
「おお…ありがとうございます」
これはありがたい、明日にでも頼もうと思ってたし。
魔術デバイスの為の魔力の漂白手段は決定した。
残りは思考の読み取り手段だけだ。
前世で研究があった脳波の読み取りでは、脳を持たない妖精種が魔術デバイスを使えなくなってしまう。
故に、魔術で想像を読み取る予定となった。
だが私は精神魔術という希少な魔術に関するデータを持っていない…が、幸いここは精神魔術の大家、精神魔術に関するデータはあるだろう。
が、それがあるのは魔術書庫、そこへ立ち入るためにはあの三つの鍵が必要なのだ。
焚書事項の文献はかなり厳重に保管される。
それは記録媒体が焚書事項の規制によって破損してしまうためだ。
紙は燃え、石板は粉塵と化す。
ただ、これは直接読み取る場合に限るようで、パソコンの場合はダウンロードしたファイルでも、ネット上で見ても、画面にノイズが走るぐらいでストレージが破裂したりはしない。
まあ、そうじゃないと人から聞いた瞬間、その人の頭が破裂するからな…
脳を直接見て焚書事項を読み取るんなら脳が破損するが、体を通しての伝達だからノイズで済んでるのだ。
パソコンで言えば、ストレージから焚書事項を直接読み取るんならストレージが破損するけど、ディスプレイ越しならノイズで済む。
「うむ、今は何を作ってるんだ?」
「魔術デバイスですね」
そういうと父さんが驚いたように目を瞬いた。
「…出来そうなのか?」
「ええ、基礎部分の設計はもう完了しています」
思考の読み取りが必要なのは魔術デバイスの利便性を高めるため。
設定された魔術を行使する魔道具はもう作れる。
「でも、今のままだと不便なので、そのことで魔術関係の資料が欲しかったんです」
「そうだったのか」
よしよし、これで明日は最速で魔術書庫に入れるな。
翌日。
早速魔術書庫に入る。
魔術書庫は銀行の金庫の様な厳重な扉に守られている。
無数のロックが掛かった円形の分厚い金属製の扉、その横には二つの鍵穴とカードを翳す場所がある。
鍵を二つ挿し、カードを翳す。
すると扉のロックが解除されていき…開くことが出来るようになる。
見るからに重そうな扉を手で開けることはせず、オドを支配して開けて、中に入る。
「おー」
中は…まあ、書斎よりは小さいな。
だが、ここには私も知らないような知識が詰まっている。
開けた扉を閉じて、さっそく部屋の隅の本から読んでいく。
私と縁深い魔術は…我が家が得意とする《精神魔術》、私が自力で再現出来る《霊魂魔術》、《空間魔術》、《時間魔術》、よく使う予定の前提魔術の《因果魔術》、《未来魔術》、《概念魔術》か。
興味あるのは目的の《精神魔術》、後は《従魔魔術》、《付与魔術》、《結界魔術》、《鑑定魔術》、前提魔術三種…そのぐらいか。
異世界物でよくある《錬金術》は異能で再現可能、《召喚魔術》は調整した魔物で十分。
まあ一応ちゃんと読むけど。
・・・
「よし」
読破。
扉を開けて魔術書庫から出る。
オートロックだから鍵をかける必要はなし。
鍵二本とカードを返しに行ったら…ちょっと魔術デバイス後回しにして、魔道具作るか。
朝食ついでに鍵二本とカードを父さんに返して、自室に戻ってきた。
さて…じゃあ、作るか。
これから作るのは…名前を付けるなら、魔力光除外眼鏡だ。
この世界は風化の魔素によって、遠くが白い光に覆われ見えない。
これは眠りを妨げない程度に暗く、夜の暗闇を見通す程度には明るい。
だが、同時に星明りと月明り、青空を覆い隠す程度には眩しい。
それは10メートル先も見えないほどだ。
故に…どこまでも見通せた世界から来た私としては息苦しいことこの上ない。
そこで、魔力光を除外し、遠くを見通せるようにする眼鏡を作成する。
魔法では小型化が出来なかったが…今なら出来るはずだ。
早速眼鏡を創造し、術式を付与する。
効果はレンズを通る光から魔力光を波長から特定、それを減算することで魔力光のない視界を再現する。
それをかけると…ふむ、駄目か。
眼鏡内の視野角が闇に覆われている。
魔力光指定の範囲を広げ過ぎたらしい。
術式を支配し、調整する。
魔力光を指定する範囲を徐々に狭めていく。
数分間そうして…
「よし!」
視界が開けた。
窓の外から空を見上げると…
「おおぉ…」
青空が見える…
視点を下げると、領地の街が見える。
「これが…この世界、か」
感動だな…ずっと息苦しかったのもあって。
んにしても…
「太陽が、二つ…それも…」
空に輝く太陽が二つある。
しかも、片方は前世であるような白く見える太陽なのだが…もう一つの太陽が、黒い。
この世界魔力光の影響もあって、天体に関する情報が、ほっとんど無いんだよなぁ…かといって調べる手段もないし…気になるけど、放置する他ないか。
さて…それじゃ、魔術デバイスの完成に向けて、作業再開しますか。




