何してるんですか?
昔、トミーとの追いかけっこで走っていたのと、最近は筋トレしていることもあってわたくしはそこまでキツくは無いけれど、普段運動の習慣なんてあまりないであろうパトリシア様は息が上がってしまっている。
それを気にする様子もなく、必死に走っているパトリシア様。
先ほど廊下から見えていた場所に辿り着くと、令嬢達がキャンベル男爵令嬢を噴水の側まで追いやっていた。
「元平民ごときが、少し調子に乗りすぎではなくて?」
「座学の成績が優秀なのも、本当は教師に色目を使っているのでしょう?」
「わたくし達が身の程と言うものを教えて差し上げますわ」
ヤバい! 絶対に噴水に突き落とす気でしょ!
間に合え!
「何をしているのですか!」
「「「⁉︎」」」
わたくしの大声に、令嬢達が驚いた様子で振り返った。
キャンベル男爵令嬢は、ゆっくり顔を上げている。
乱れた呼吸を相手に悟られない様にしながら睨みつける。
「あ、あら。パトリシア様とヘンリエッタ様ではないですか。何をしているかなんて優秀なお2人には、もうお分かりでしょう? 卑しい平民の娘に身の程を教えて差し上げているだけですわ」
リーダー格であろう令嬢が答える。
確かオズボーン伯爵令嬢だったはず。そのほかの取り巻きはコンプトン子爵令嬢とハーヴィー子爵令嬢か。2人も同意するように頷いている。
なんか偉そうだな。
「まあ、彼女は平民ではないでしょう? キャンベル男爵令嬢よ? その背景にどんな事情があろうと彼女はもう貴族の1人ですわ」
わたくしが味方になると思っていたのだろう。余裕な表情をしていたが、顔が強張った。
「し、しかし彼女には貴族らしさなんてかけらもありません。教育が必要ですわ」
「あなた方の考える貴族らしさとは何かしら? このわたくしにもわかるように説明してちょうだい」
息をなんとか整えたパトリシア様が、威圧感たっぷりと命令する。そうもはや命令だ。
「それはもちろん、高貴な生まれであること、そして血筋ですわ」
「どういうことかしら?」
「彼女はもとは下々の身で、その辺りにある雑草を食べて生活していたそうですわね。そして卑しく労働に従事していたとも聞きますわ。そんな方が貴族の名を騙るなんて烏滸がましいにも程があります。きっと、男爵にも色目を使ったに違いありませんわ」
何言ってんだコイツ。今言ってるのって半分以上妄想入ってるよね? それをあたかも事実のように言うなんて控えめに言って気持ち悪いんですけれど。
わたくしたちから発せられる冷気には気がついていないらしい。そうでなくては、最初の時点で誤魔化すなりなんなりするもんね。
「そうですか。ねぇ、パトリシア様? ‘’色目を使う‘’って具体的にどんなことがご存じでしょうか?」
「いいえ、知らないわね。そもそもそういう想像力が豊かな時点で、貞淑にかけるのではなくて?」
「なっ」
「ふふ、パトリシア様もご存じないのですね。貴女オズボーン伯爵令嬢ですわね? わたくしたちが知らないことを知ってるなんて博識ですわね。ぜひわたくしたちに教えてくださらない?」
見下すように言うと、オズボーン伯爵令嬢は顔を真っ赤にした。嫌味は嫌味として受け取ってもらえたようで何よりだ。
プルプル震える伯爵令嬢に、コンプトン子爵令嬢とハーヴィー子爵令嬢が援護に回る。
こいつら身の程知らずだな。
「パトリシア様もヘンリエッタ様も何をおっしゃるのですか! あんまりです」
「そうですわ!」
「あら、この程度で根を上げるなんて。あなた方の言葉より100倍は優しくしているのにちょっと軟弱が過ぎるのではなくて?」
「「っ」」
2人とも黙り込んでしまう。全く、貴族貴族いうならこの程度の応酬もっと面白くしてほしいわ。
オズボーン伯爵令嬢が叫ぶように言った。
「っなぜ理解してくださらないのです! そもそも誇りたかき貴族たるもの、血筋を最も尊ぶべきですわ! 養子制度なんてものがあるから卑しい血が混ざるのです!」
その言葉を聞いた瞬間、わたくしの目の前が真っ赤になった。




