逃しませんわよ?
「今……なんとおっしゃいまして?」
「ひっ」
オズボーン伯爵令嬢が怯えた声を出す。前にいる3人似たようなものだ。
まあ、そうだろう。けれど、言ったことに対しては責任を取ってもらわなくては。
「ねぇ。もう一度言ってくださる? オズボーン伯爵令嬢?」
「あ、あのヘンリエッタ様……」
「貴女に名前で呼ぶことを許した覚えはありませんけど」
そう言うと、もう今にも倒れそうに顔色が真っ白になる。
「貴女はよほど我がスタンホープ侯爵家を敵に回したいようですわね? 我が弟、トミー・スタンホープの出生は隠しておりませんもの。当然ご存じですよね?」
「っ」
息を呑む音がこちらまで聞こえてくる。今更気がついたのかしら?
「我が弟も養子となっておりますもの。貴女はつまりトミーのことも認めないと言うことかしら?」
「い、いえっそんなつもりは――」
「そんなつもりでなければどう言うつもりなのかしら? 先ほどから要領を得ておりませんけれど、わたくしに分かるようにキチンと説明してくださる?」
「わっわたくしは、平民を貴族に迎えると言うことに反対なのです! トミー様は生まれは貴族ですもの!」
「貴女ごときがトミーの名を呼ばないでくれるかしら? そもそも貴族の証拠でもある魔力は、王家の血筋がわずかでも流れているかと言うことですわ。それ即ち、魔力があればどんな理由があろうとも貴族になる資格は有していることにほかありませんわ。陛下がなんの為に改革しているとお思いですの?」
限界が訪れたのか、泣き始めている。いや、泣いたところで止めないけどね?
「あらあら、泣いていらっしゃるの? なぜ? 貴女はキャンベル男爵令嬢にもっと酷い言種をしていたでしょう? 自分は酷いこと言えるけれど、言われるのはダメなの? 見てみなさい。キャンベル男爵令嬢は泣いておりませんわよ。何を言われようと毅然と学園に来ているわ。貴女よりもずっと貴族令嬢としての心構えはできているわね。貴族令嬢たるもの、人前で泣くなんて無様な真似、普通はできませんもの」
「ヘンリエッタ様、そのくらいにしておきなさい」
パトリシア様に肩を掴まれる。もう目の前にいる3人は戦意喪失状態だ。
「それから、魔力が溢れているわ。少しは抑えなさいな」
そこで気がつく。わたくしの周りに細い水流が舞っている。なんだこれ。
「貴女、感情が昂りすぎて一種の暴発状態になっていますわ。これ以上広げると教員あたりが飛んできますわよ」
これが暴発状態なのか。トミーの時とは違って緩かなのね。きっと魔力量の差かしら。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。魔力も抑えると、周りの水流は霧散して消えた。
「全く、わたくしの言いたいことが全部言われてしまいましたわ。でもそうね。あなた方確か普通クラスの生徒よね。今の時点であなた方がキャンベル男爵令嬢の何に優ってるのかしらね。それすらもわからない愚か者でないことを祈るわ。さあ、さっさと立ち去りなさい」
「っスタンホープ侯爵令嬢申し訳――」
「あなた方が謝るのはヘンリエッタ様ではありませんわ。2度目はありません。また魔力に当てられたくなければさっさと立ち去りなさい」
怒気を含ませたパトリシア様の言葉に、へっぴり腰になりながら3人は逃げて行った。
「……パトリシア様、最後はわたくしが言いたかったですわ」
「ダメですわ。貴女また魔力を暴発させる恐れがありましたもの。それにわたくしが言いたいことも全部言われてしまったのですから、このくらいは多めに見てほしいですわ」
「あ、あの……ありがとうございます」
先ほどまで一言も喋らなかったキャンベル男爵令嬢がおずおずと話しかけてくる。どこか怖がっているようだ。
「ほら、見なさい。キャンベル男爵令嬢まで怖がっているではありませんか」
「えっ……。ごめんなさい。キャンベル男爵令嬢。貴女に対して威圧感を放つつもりは」
「い、いえ。大丈夫です。驚いているだけなので」
「驚く?」
「まさか私のような下々のものを助けてくださるとは思いもよらず……」
そう言う彼女は、どこか探るような瞳をしていた。




