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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
幽霊と怪物と卑屈

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径庭

「…………」


 ガキからの返事はない。

 まあ、承認欲を満たすために自殺未遂をしたのかと問われて、饒舌に返事をされても困るが。


 俺はガキの頭に手を乗せ、なんとなく景色を眺める。

 視界内で群れる人々が非常にウザったい。


 結果、自然と視界は天を仰ぐ。

 流れる雲を眺めていると、現実が遠く感じる。


 ……悪くない時間だ。


 ずっと静かにしていたガキが身じろぐ。


「たかしは、お父さんと、お母さん、好き?」


「母は嫌いだし、父はどんな人間か知らないから、たぶん嫌いだ」


「ふーん。私は、どっちも好き」


 ……意外だな。


「でもね、お父さんも、お母さんも、私のこと……興味ないんだ」


「へえ」

 まあ、そうだろうな。

 自殺配信をした子供を、これだけ自由にさせている訳だし。


「死のうとしたら、お父さんと、お母さんも、興味もってもらえるって、思ったの……」


 ガキの目に、涙が溜まり始める。


 …………。


「ダメ、だったけど」


 そう言うと、ガキは俺の腹に抱き着いてくる……勘弁してくれ。



 俺に何も、求めないでくれ。



 くぐもった声で、ガキは更に話しを続ける。


「お父さんも、お母さんも、私のことなんかね…………いらないの」


 その言葉を、俺は否定した方が善いのだろう。

 だが、俺はガキの為に嘘を吐けるほど、優しくはなかった。


 何も言えず、ガキの手を少しだけ撫でる。


「もう、ひとりで寝るの、やだ……」


 ぽつりと零れたその言葉が、結局のところ本音なのだろう。


「怪物も、私に興味なかったら、殺してくれなかったら、かがみじまさんが、私を殺してくれる?」


 ぐじゅぐじゅになった顔で、俺の顔を見上げてくる。


 ああ…………嫌だなあ。

 この重さの言葉相手には、嘘を吐けない。


 俺は、こいつを殺せるか?

 親から見てもらえないと嘆く、そんな現実を抱えたこいつを、こいつの為に、殺せるのか?


 …………。


「なあ、ファントム」


 雨粒のようなファントムの目に、じっと見つめられる。

 ……やっぱり、目は嫌いだ。

 悪いことをしているような気持ちになる。


「俺は、お前を殺せるほど、お前を愛せない」

 

「…………そっか」 


 ガキは目を細め、諦めたように、そう呟いた。


「ごめんね」


 ファントムはそれだけ言い残し、少し泣いたあと、そのまま眠ってしまった。


 俺が普通の性格の奴で、普通の家庭環境に生まれた奴なら、こいつが望むように、愛せると、自信を持って言えたのだろうか…………。


 逃げるように天を仰ぐと、上梨の顔が目に入る。

 全然気が付かなかった。


「……なあ、上梨。このガキを、好きになっちゃあくれないか?」


 上梨は、俺を睨みつけながら問うてくる。


「貴方、分かって言ってるの?」


 …………もちろん。

 あれだけ違和感と情報があれば、流石に分かる。



「上梨が、せんゆう様の落とし子なんだろ?」

 せんゆう様の落とし子。

 好きになった人を、喰らう怪物。



 上梨は、幽かに唇が弧を描くように、歪める。


「私は、両親も、友達も喰った怪物なの。その子も、食べろって?」


 睨まれる。

 まあ、当然だ。


 恐らくせんゆう様の落とし子は、自分の意志に関係なく、好きになった人を喰う。


 だから上梨は、人と関わらないようにする為に、性格が悪い奴を演じた。


 だから上梨は、人を間違っても好きにならないように、意図的に人の名前を覚えなかった。


 だから上梨は、人を嫌いになる為に、嫌なところノートなんて狂った代物を作った。


 本当は、人と話したくて、関わりたくて、しかたがないから、俺みたいなどう足掻いても好きにはなれなさそうな奴と話すことにした。

 

 そんな上梨の努力を、人を食べたくないという感情を、只の他人の癖に、無に帰させようとしている訳だから、睨まれるどころか殴られたって文句は言えない。


「なあ、頼むよ……およそ好きにはなれそうも無い、最悪の奴でいるからさ」


「……っ」

 上梨が、目を見開き、苦しそうに、悩むように、目を閉じる。


 無言の時間が、とても、遅い。


「…………要らない。性格最悪の友達なんて、要らない」


「……そうか」

 上梨は、凄い奴だな。


 結局、俺達の関係性は他人のままで変わることはなかった。

 ……まあ、そんなもんだ。


 俺はぐたーっと体の力を抜き、また、天を仰ぐ。

 嫌な晴れ空だな。


 そのまま上梨と一緒に空を眺めていると、いつの間にかガキも目を覚ましていた。


 三人で空を眺めている。

 傍から見たら、実に滑稽な事だろう。 


 どうすればガキも、上梨も、遊園地ではしゃぐ有象無象のように、幸せそうに呆けて生きられるのだろうか?


 分からん……トイレ行こ。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「いってらっしゃい」


「おう」


 ガキが膝から降りる……膝が軽い。

 ガキの涙と鼻水でべちゃべちゃのシャツを身に纏い、俺はその場をあとにした。



+++++



 トイレどこだ?


 くっそ、屋上の遊園地なのに無駄に広い。

 ダラダラ人込みを歩く気分じゃないってのに。


 結局そのあと、十分程さまよって、ようやくトイレを発見する。


 シャツ洗い終わった後、どうしよう?

 もうなんか、お化け屋敷行こうかな?

 あいつらの所にしばらく戻りたくないし。


 洗い終わって濡れたままのシャツをそのまま着る。

 気持ち悪い。


 気が重い、服が重い、過去が重い、イエァ……疲れてるな、俺。


 とぼとぼと、お化け屋敷を目指す。

 炎天下だと、濡れたシャツの冷たさが、存外心地良かった。

 



 おどろおどろしい入り口だ、実にお化け屋敷らしくて非常によろしい。


 受付のお姉さんに、懐中電灯を渡される。

 これ一本で、暗い通路を進むらしい。

 少々不安だ。


 ここが心霊スポットだと上梨は言っていたが、どういう心霊現象が起きるのだろうか?


 俺は、恐る恐るお化け屋敷に足を踏み入れる。

 本当に真っすぐな通路だな。

 暗いせいか、延々と続いているように見えて、違和感が半端じゃない。

 怖い……怯えていても埒が明かないし、進むか。



 戦々恐々としながらも、一歩づつ、しっかりと歩を進める。



 五分ほど進んだにも関わらず、一向にびっくりポイントが現れない。

 こういう場所って、普通は何かしら驚かすものが有るんじゃないのか? 


 ……何も、無さそうだ。

 ふっ余裕だな!

 暗いだけの道なんかじゃ、俺は止められないぜ? 


 俺は、先ほどとは打って変わって、ずんずんと奥へ進む。


 心霊スポットだなんて言っていたが、所詮噂か! 


 まだ真っすぐ進める。


 しかし、上梨とガキの関係なんとかならんかな? 

 

 まだ真っすぐ進める。


 上梨がせんゆう様の落とし子だって分かった以上、叔父さんにもこの事を教えた方が良いのだろうか? 


 まだ真っすぐ進める。


 うーん、でも叔父さんがせんゆう様の落とし子に娘を喰われているなら、教えるのは危険か? 


 まだ真っすぐ進める。


 叔父さんにも恩があるし、死者蘇生を邪魔する気は無いが、わざわざ手伝う事もないだろう。


 ……まだ、真っすぐ進めるのか?


 おかしい。

 外から見た時は、そこまで横に長い建物では無かったはずだ。

 暗くて距離感が掴み辛いだけなんて言い訳が通らない程度には、長々と歩いてしまった。


 心霊現象かな? 嫌だな、帰りたい。



 入り口に戻ろうと、後ろを振り返る…………人がいた。


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