戦いの果てにあるもの
◇ ◇ ◇
>>潜入日時:06/19 13:12より継続中
>>依頼者:調査潜入のためなし
>>依頼:対象者(佐藤奈々)の夢内調査
>>具現化したアイテム:懐中電灯、ナイフ、ライター、ハンマー
>>同期完了 潜入再開しています...
システムが繋がったままの状態で入るのはピナもオレも初めてだったが、なんというかシステム起動時間がない分早いな、ぐらいで特に違いはないんだな。
「ねえ、まだ奈々さん熟睡までいってないみたいだけど潜入していいの?」
「ああ。クサナギさんの話だと夢に潜入しても対象者につまり依頼者と出くわした事がないのは深く眠っているとき、つまりノンレム睡眠中だからだって言ってただろ。なら、眠りの浅いレム睡眠の時なら奈々さんに夢の中で会える。」
「えーと、だから会ってどうするの?実際会っても話してくれなさそうなのに。」
「だから夢の中でまず状況を話す。もし中村さんの放火の件に関わってるなら警察に出頭してもらうように頼む。本人から罪を償う姿勢を見せれば宇賀みたいに殺されることもないだろ。」
「はあ、なるほどね。でも奈々さんが信じてくれるかが問題だね。」
「あとは夢の中での話を今度実際会ってすれば信じてはくれるだろ、多分。」
やるだけやってみるしかない、そう言ってオレはピナと奈々さんが夢に現れるのを待った。
しばらくして、部屋のドアが開き奈々さんが入ってきた。
「ちょっと、どこから入ったの?っていうかあんたたちこの前見学に来てた…なんで私の家を知ってるのよ?」
「あの、奈々さん落ち着いて聞いてください。これは奈々さんの夢の中なんです。って言っても、なかなか理解してもらえないと思いますけど…。とにかく、奈々さんに危害を加えようとしてる人がいるかもしれないんです。」
まずはピナがなだめるように話し始めるが、うーん怪しさ大爆発だろ。
「は?なに言ってんの。」
ほらな…。まあ仕方ないとは思うが。もう核心に迫ってみるしかない。
「中村加奈さんが亡くなった放火の件で何かご存じありませんか?宇賀功って人とは知り合いだったりしないですか?」
宇賀の名前を出したところで明らかに奈々の表情が変わった。
「奈々さんやっぱり宇賀のこと知ってるんですね。」
「私が加奈を殺したわけじゃない。あいつが勝手にやったのよ。」
奈々が、金切り声で叫ぶ。
「あなたが宇賀さんに指示したんですね。」
「違う。あいつがしつこいからいけないのよ。だから、次の公演で主役でもはれたら嬉しくて付き合ってあげちゃうくらいの奇跡が起こるかもねって、飲み会の席で私も投げやりに言ったこと…。多数決で配役決めていくんだから、どうせ加奈がなるから無理。あの子さえいなければ。そう言っただけなのに放火しに行くなんて誰が想像するのよ。」
夢の中だから、その人の心の奥の本心が見えやすいのだろうか驚きの内容だった。
付き合えと迫ってくる男にライバルの事を愚痴ったら、その男が殺してしまった、ということか。
でもきっとこれが奈々さんの真実なんだろう。
「奈々さん、それが本当なら警察にそう証言すればいいじゃないですか。」
ピナの言うとおりだ。そうなると奈々さんは殺人を依頼したわけでもないのだから。
オレが二人に歩み寄ろうとしたときだった。
自分の足元、いやそれだけじゃなく肩や腰のあたりまで背後に黒いもやの様なものがまとわりつくようにあるのがわかった。
思わず後ろをふりかえる。
だが、目の前が黒一面に覆われたと思うとオレは床に倒れこんでいた。
「サキチくん。」
ピナの声がして、続いて奈々さんの悲鳴が聞こえたが自分に何が起きたかさっぱりわからない。
「あなた、宇賀のアカシックレコードに出てきた黒の潜入者ね…。サキチくんから離れてっ。」
見るとピナが具現化したナイフを構えるのがみえる。
そしてオレのすぐ横にはあの黒の潜入者。
ヤツの手には血の付いたナイフが握られている。
そうか、オレは刺されて
>>異常感知
>>一部潜入終了
「うそ、サキチくん。」
倒れこんでいた少年の姿はすでにそこにはない。
自分の夢であれ、他人の夢であれ「死ねば」この世界にはとどまることはできない。
現実と同じように。
恐怖で動けないのか佐藤奈々はへたりこんで、その顔には涙が溢れている。
当然の報いだ。恐怖を感じ、償ってもらうのだから。
「ツミハツグナッテモラウ。」
機械音声に変換された私の声で告げてやる。
私はナイフを手に佐藤奈々の方へ向き直る。
「違うの、奈々さんは宇賀に殺人依頼なんてしてない。」
ピナと呼ばれたもう一人の少女が奈々の前に立ち私とのあいだに割って入ってきた。
犯罪者をかばうなんてお人よしもいいとこだ。
「もう…、もういや。」
ぽつりと佐藤奈々はそうこぼすと少女の持っていたナイフをもぎ取る。
やめてください、少女はそう奈々に声をかけ必死にナイフを取り返そうとしているがさらに奈々はそれを払いのけた。
そして自らの首筋に刺したのだ。
「奈々さんっ。」
少女がすぐに駆け寄るが佐藤奈々の体は力なく仰向けに倒れる。
こうなるとこの空間も、もう長く持たないな。
「コレイジョウタスケルナ。ザイニンニハドウトウノツグナイガヒツヨウダ。」
>>対象者覚醒
>>潜入終了
予定とは違うが仕方ない。
これで自分の罪は自覚しただろう。これでもなお変化がなければ宇賀と同じ道をたどってもらうまでだ。
◇ ◇ ◇
私たちが潜入した翌日、奈々さんは警察に私たちに夢の中で語っていた真実を話したらしい。それによって宇賀の事件も、放火の件も再捜査されることになったようだ。
「まさか、潜入してるピナちゃんの夢に潜入して佐藤奈々と接触をはかるとは、ね。通常の方法で入れないから夢を共有している者を狙う。なるほどー。そういう発想はなかったな。」
あの潜入のあとの夢研究所、私もサキチくんも一応無事に戻ってきた。
私たち二人が大変な目に遭ったのにクサナギさんは新しいデータが手に入ったことがうれしいらしい。
奈々さんの潜入時のアカシックレコードを確認してえらくご機嫌だ。
ほんとに、この人は…たまにすごく呆れてしまう。
それじゃ、説明しよう。そう言ってホワイトボードをひっぱり出してきてクサナギさんはきゅっきゅっとペンの音をさせながら大きく丸を書いていく。
「いいかいこの円が佐藤奈々の夢だとする、そこにこの棒人間二人、ピナちゃんとサキチくんが潜入するわけだ。レム睡眠中の浅い眠りだったから佐藤奈々の意識も仮にハートマークにでもしとこうか?彼女も彼女自身の夢の中に現れた。これで君たち二人と佐藤奈々が接触している最中に、ピナちゃんもサキチくんも彼女の夢を共有してるわけだよね。まあ同じ夢を見てる感じかな。だから、黒の潜入者はピナちゃんの夢に入りサキチくんを佐藤奈々の夢の中で殺害。」
赤いペンに持ち替えクサナギさんが棒人間の一人にばってんを付ける。
分かりやすいけどあんまり気分のいいもんじゃないなぁ。
「そして、残ったピナちゃんと佐藤奈々に迫る。サキチくんに潜入しなかった理由は大方の犯罪者と同じ発想で、女の子二人の方が確実に計画を進められると考えたからだろう。サキチくんに抵抗されるほうが相手は厄介だったろうからね。」
なんとなく、怒ってるようなサキチくん。
まあ来るかもしれないと予測できていた相手に夢の中とはいえ殺されたんだもんね。
「ピナちゃんの夢に潜入している以上、黒の潜入者はピナちゃんには手出しできない。ピナちゃんを殺したら自分まで潜入終了しちゃうからね。そのまま計画を進めようとしたが、ここでまさかの佐藤奈々が夢の中で自殺、佐藤奈々は悪夢から覚めてピナちゃんも、もちろん黒の潜入者の方も潜入終了。と、こういう事だね。しかし準備がいいよね。身元がばれないようにボーカロイドまで利用して喋るわ、徹底してるよね。必殺仕事人!みたいな気分なのかねー。」
ぱちん、とペンのキャップを閉めるとクサナギさんはソファにどかっと腰を下ろす。
すごい満足げだなぁ。
「でも危なかったねー。君ら二人は“これは夢だ!”って認識して潜入してるから夢の中で死んでも現実世界では悪夢で飛び起きるって事態になるだけだ。でもこれが夢と認識していない人だったらどうだったのかな。」
「クサナギさんそれどういうことですか?」
「ほら、心理学の実験でも目かくしして“これからアナタの腕に熱した鉄の棒を押し付けます”って言ってただの鉛筆押し付けてもほんとに火傷したって事例もあるわけだし。もしかしたらそんなこともあるかなって。」
そうだとすると、私たちは実はすごい危険なことやらされてるんじゃないか。
そんな気もする中、問いただそうとするとクサナギさんは研究所にかかってきた電話に愛想よく出ている。
サキチくんこのバイト考えたほうがいいかもよ、あとでこっそり提案してみよう。
そう決心した時だった。
「あ、サキチくんに電話だよ。例の黒の潜入者さんから。」
うそ。
クサナギさんは笑顔だ、でも目は笑っていないあたりふざけているわけではないようだ。
サキチくんは電話の子機を受けとるとスピーカーホンのボタン押す。
そうか、それなら会話が私たちにも聞こえるもんね。
「もしもし。」
サキチくんが電話口にでると、返ってきたきたのはあの機械の声。
「モクテキノタメトハイエ、ジケントカンケイナイキミヲキズツケタコトヲシャザイシタイ。モウシワケナカッタ。」
「!?」
一瞬研究所のみんなの動きが止まる。
奈々さんの夢に潜入した時と同じ、感情のないあの機械の声だが、でも驚きだった。
あやまるために電話してきたの。
「宇賀を殺したのはあんたなんだな。」
そうだ、夢の中で宇賀を追い詰めるような細工をして死に追いやったのはおそらくこの人。
「カレハ、ショウライアルニンゲンノミライヲウバッタ。ツグナイハシテモラワネバナラナイ。」
「じゃあ、あんたは勝手に、犯罪者とはいえ人を殺していいって言うのか。佐藤奈々だって、きっかけを作ってしまったとはいえ罪は犯していなかった。あんたのやり方だとそのうち冤罪者まで殺しかねないぞ。」
サキチくんはぎゅっと子機を握りしめている。
「スコシマエニ、シニガミガオトシタノートニナマエヲカクト、カカレタニンゲンハシヌ。ソンナスジノエイガガアッタナ。」
「何の話だ。質問に答えてないぜ。」
サキチくんの言葉を無視して相手は続ける。
「ソレヲテニイレタシュジンコウハ、ホウノメヲ、カイクグッテイルハンザイシャノナマエヲカキハジメ、サバキハジメタ。」
「なんだよ、まさかあんたも“新世界の神になる”とか言い出すんじゃないだろうな。」
「アノストーリーガウケイレラレタカラ、アノエイガガハヤッタノダロ。ダトスレバ、コノクニノオオクノヒトハ、アノシュジンコウニ、スクナカラズドウチョウシタトイウコトダ。」
「何が言いたいんだ。」
「コノクニノホウリツハ、ハンザイシャヲサバキキレテイナイ。ホウノメヲクグッテ、ユウガニイキテイルモノサエイル。ヒガイシャヲダシテオキナガラ…。ダカラ、ホウノメヲクグッテイルアクニハ、ホウノメヲクグッテサバクモノガヒツヨウダ。ソレガワタシノシメイダ。」
「えらくよく喋るんだな、黒の潜入者くん。キミの意見も興味深いけど、人の研究を勝手に人殺しの道具にされるのは不愉快なんだけどねー。」
クサナギさんは電話機本体につながるパソコンの前でモニター見ながらはなしかける。
もしかして逆探知、してるの?
「アナタニハカンシャシテイル。コノシステムノ、オカゲデワタシモアクヲクチクスルコトガデキルノダカラ。」
「じゃあ、まだこんなこと続ける気なのね。」
「アア、ソウダ。ダカラキミタチニチュウコクシタイ、ジャマダテスルナ。」
「今度は脅しかよ。あんたの方がよっぽど犯罪者っぽいけどな。」
これには一瞬相手がとまる。
「…。ナントデモイエバイイ。ソレナラバツギハ、テゴコロヲクワエルヒツヨウモナイトイウコトダナ。」
「こっちだって、これ以上あんたの好きに
ぷつっ
つー
つー
がんっ、と音を立てて子機が元の位置に戻される。
「サキチくーん、壊れるから静かにお願いね。」
相変わらずクサナギさんはモニターを見たままだ。
「それで、オレが話してる間にどうせ逆探知とかしてたんでしょ。場所の特定はできたんですか。」
「まあ、やっぱりというか。海外経由して転送して転送しての繰り返しで東京都内からってことまでは分かったよ。」
◆◆ ◆
ふう。とりあえず謝罪と警告、伝えるべきことは伝えた。
手元のコーヒーはもう冷めていたが気にせずそのまま口に運ぶ。
温い、を通り越して冷えている。
やはり淹れなおそうか。
正確な発信元まではたどり着けなかったはずだ。
今後の潜入で鉢合わせることはまずないとは思うが、あの二人の感じだと追ってくる可能性はある。
向こうの動きも注意しておく必要があるだろう。
_エリさん、一時間後潜入準備お願いしますね。
メッセージ、小山先生からだ。
_かしこまりました。
それだけ送ると私はカーテンを開けた。
良く晴れた気持ちのいい天気だ。どこかであの二人もこの空を見てたりするんだろうか。
◇ ◇ ◇
>>潜入日時:06/28 20:29
>>依頼者:会社員
>>依頼:結婚指輪のありかの記憶
>>具現化したアイテム:懐中電灯、ナイフ、ライター、ハンマー
「しかし、結婚指輪なくすなんて信じられない。そりゃ奥さん怒るでしょ。」
潜入準備をしながらピナが怒る。いや、ピナが怒ることじゃないだろ。
「大事な物でもなくすときはなくしちゃうんじゃないか。」
「そこ同意しちゃダメじゃん。」
まだ何か言いたそうなピナ。
もうめんどくさいからそっとしておこう。
「ほら、この依頼終わらせないと黒の潜入者の調査に行けないんだから。さっさと片付けよう。」
「りょーかい。」
>>同期完了 潜入しています...




