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犯人は夢の中

どうしよう、どうしよう、どうしよう

慌ててはいけない、落ち着かなくては。

そう思っても心がついて行かない。

どうしてこんなことになっているのか。


大学の授業も自分の履修科目は午後からだし、ゆっくりしよう――

そんなことを思いながら三階の自室で寝ていた中村加奈が異常に気づき部屋の外に出ると階段の中腹くらいまで煙が立ち込めていた。




火事だ。

煙とともにぱちぱちと火が弾ける音もしている。

木造の家だから火の回りも早かったりするんだろうか。

彼女はかけていたカレンダーが落ちるのも気にせずドアをしめる。

煙を吸ってはいけない、そう教わった気がする。

ということは階段から下には降りられない。

だとすると、窓から逃げるしかない。

加奈は窓辺に飾っていたミニチュアのシカや羊を払いのけると窓を開け、足をかけた。




                    ◇◇◇


― 睡眠中の人が見ている夢を脳活動パターンから解読することに成功 ―


2013年4月、日本ではこんなニュースが伝えられていた。


なんでも被験者に脳波計を着けて睡眠中の脳波を観察し、夢を見ていると思われる脳波の時に被験者を起こして見ていた夢の内容を報告してもらう。

これを幾度も繰り返してデータを取る。

そして夢に出てくる物体たとえば「車」「本」などをカテゴリー別に分け、物体と対応する脳活動を解読するパターン認識アルゴリズムを…えーっと、要するに「人がどんな物体の出てくる夢をみていたかが分かるようになった。」ということらしいのだ。

この事実を知ったときはすごいと思った。


ただ、実はそれを凌ぐくらい凄いことをやっている会社があることを世間の人はほとんど知らない。

人間科学 思考・夢研究所

長いのでオレは単純に夢研究所と呼んでいるが。

もうちょっとマシな怪しさを感じさせないネーミングはなかったものかと命名者には一言いいたい気もする。

ここ夢研究所では「人の見ている夢の中に潜入し、忘れられた記憶の調査」をしている。


データ入力のバイトと思って来てみてこんなこと言われたらふつう胡散臭さしか感じない。

オレも最初は信じられなかった。

が、実際にやってみせられては信じるしかなかった、いや信じたというか納得した。

本当に他人の夢の中に入ったのだから。


そんなわけで、研究所所長のクサナギさんの持ってくる依頼者の夢潜入案件をこなす。

それがオレのバイトだ。


「サキチくん、そろそろ依頼の夢潜入準備する?」


紺のブレザーの制服に肩までかかる黒髪の女子高生ピナだ。

彼女はアカシックレコード整理をしていたオレのPCモニターを覗き込みながら言った。


「そうだな、何を具現化して持っていくかも決めとかないと。」

「あれ、それなに?」


ピナの指差す先にはアカシックレコード専用のポータブル再生機、先日クサナギさんから渡された物だ。

データ整理用にいちいち専用パソコンを立ち上げなくとも中身が確認できるように渡されたものだ。

とはいえCDプレーヤーにそのままアイポッドが繋がっているようにしか見えない。

これは相当デザインのセンスを疑う。


「夢の記録の中身を確認したいときに使えってさ、いちいち専用PC起動させるのも面倒だろ。」

「なるほどねー。でもさアカシックレコードって、潜入した依頼者の夢と記憶の記録じゃない。そんなすごいデータ入ってるのに見た目まるっきりCDとかDVDだよね。容量ってどんくらい入るんだろうね?」

「オレに聞くなよ。社長兼開発者のクサナギ大先生に聞けよ。まあ。説明されても理解できるとは思えないけど。」

オレは淡々と作業を続ける。潜入の仕事に入る前にデータ処理はなるべく終わらせてしまいたい。

「ねえ、それ私のことバカにしてる?確かに潜入は私の方が経験浅いけど、ひらめきでカバーしてるじゃない。」


不満そうなピナ。

めんどくさいから、そっとしておこう。

しかし、そうなのだ。

バイトで何度も人の夢に入ってはいるものの分からないこと多い。

寝ている依頼者の夢に入り記憶の欠片を探し、取り戻したい記憶を持ち帰る。

それが夢潜入なのだが、欠片を集めるのも容易ではない。

奥深くに隠されていて中々たどり着けないこともあるからだ。

それになぜか「鍵で黒い箱を開けると中に記憶の欠片があるのでそれを集める」というのはどの依頼者の夢も共通している。

そして夢に潜入してから戻るまでの依頼者の夢の内容、そして思い出した記憶を映像記録として残せるアカシックレコード。

どれもこれもノーベル賞ものの気がするが雑居ビルの一室に看板もなく会社は存在している。


「お、二人ともやってるね。」


明るい声と共に入ってきたこの男性。

長身でメガネのちょいワルオヤジというにはさわやか過ぎるが、ビジネスマンというには砕けすぎな絶妙なスーツ姿。

これが開発者兼社長のクサナギさんだ。


「クサナギさん!アカシックレコードって容量どれくらい?」


え、やっぱり聞くのかピナ。


「ピナちゃん気になる?ただそうだな、レコード自体の材質から記録方式の構成、それから再生原理の説明だけで多分一日かかるけどそれでもいい?あ、あと量子論とか分かってくれてると助かるんだけど、どう?」


ピナの質問に一瞬明るくなりながらも少し困った様子で答える社長。


「え、っと。あの、また別の機会にします。」


賢明だな、ピナ。

そして再びクサナギさんの表情は明るくなる。

楽しそうなところを見るとこの人にとっては興味深い案件でも持ってきたのだろうが、潜入する方にとっては困難な物が多い。

つまり、オレやピナにとっては危険な合図だ。


「そうそう、今回はね、なんと初の子どもの夢に潜入だよ。初めてだらけのデータが取れそうだから楽しみだね。」


言いながらクサナギさんはDVDを再生した。

いつもは依頼人の元に「注意書き」と「音楽再生プレーヤー」を届け、それを聞いて依頼人は眠り潜入、という手順なのだが今回は違うらしい。これが今回の潜入内容のようだ。


画面には歳は三十代中頃だろうか、女性と傍らに四、五歳の男の子の姿があった。


「あの、こちらは心理カウンセラーの方とかが在籍していらして夢の研究とかをされてる場所なんですか?あの、カウンセリングルームのような感じなんですよね?」


え?カウンセリングルームだと思って依頼にきたのか。

それにしてはよくこんな研究所みつけたな。

そんなことを思いながらもオレは画面に意識を集中させる。


「ええと、そうですね人の夢や思考について研究しているのでカウンセリングルームとは少し違うかもしれませんが、夢を通じてその人の記憶だったり、思い出を探し出すお手伝いは出来ると思いますよ。」


映像が依頼者しか映していないがこの声はクサナギさんだ。


「そうですか。ええっと、この子の様子が2週間くらい前からちょっと気になるんです。昼間は幼稚園でお友達と元気に遊んでいるようで特に問題はなさそうなんですけど、夜寝たと思ったら夢をみてるのか、寝てるんですけど大泣きしたり叫びだしたり。でも起きると何事もなかったようにしてるんです。それがこのところ毎晩で。」


確かに、それが毎日続いたら親ならきっと心配だろう。


「お子さんの周囲で何か変わったことや、お家でご家族や環境の変化などはありましたか。」

「そうですね、少し前に幼稚園でお友達とケンカをしてしまったらしいんですけど今は仲良くしてますし。ああ、同じころに幼稚園の近くで火事があって迎えにいったことがあります。でも幼稚園自体は無事で園児たちに怪我もなかったですから。ここ最近でこの子に直接何かあったということはないと思います。」

「そうですか、わかりました。まずはお子さんの安眠を妨げている物が何か探してみましょう。」




>>潜入日時:05/22 14:02

>>依頼者:4歳男児(母親付き添いのもと)

>>依頼:対象者(4歳男児)の不安・恐怖の原因調査

>>具現化したアイテム:懐中電灯、ナイフ、ライター、ハンマー


>>同期完了 潜入しています...



オレとピナがその子の夢に潜入するとその子の家のリビングなのだろう、テレビに本棚、観葉植物、そして倒れて中の物がいくつか飛び出しているおもちゃ箱がある。

そして中央には記憶の欠片の入った黒い箱。


「なんか、病んでる子とかで危ない感じだったりするのかなーってちょっと不安だったけど案外フツーだよね。」

「そう見えるな。」

「じゃ、とりあえずいつものように黒い箱開ける鍵探そっか。」


そう言うとピナは散らばったおもちゃ箱のあたりを探し出した。

オレはそうだな。

本棚からすべての本を出し、ぱらぱらとめくっていったが鍵はない。

もしやと思い棚の裏や下も覗いてみるが見当たらない。

ピナの方もおもちゃ箱を空にして合体ロボット系のおもちゃのパーツを取り外したりしておもちゃの隙間まで探している。

つまりは、


「サキチくん、鍵ないよー。」

「こっちも見当たらない。最初からこの調子だと時間がかかりそうだな。」

「なんか具現化したもの使ってみる?」

「とはいっても明るいから照らす必要もなさそうだし、かと言ってナイフで切り裂いてみるような物もないし。」

「もう、いいよ。この黒い箱こじ開けよう。」


決意した表情でピナが立ち上がる。


「おいおいさすがにそれは、」


オレの制止も無視してピナは黒い箱に手をかけた。

がしっ、と力強く箱の上部を掴むと勢いよく揺らし始める。


「ピナ、鍵がなきゃ開かないんだ。慎重にもう一度部屋を探そう。」


がちゃ。

鈍い音ともに黒い箱の扉が開いた。

が、しかし。


「へ。」


ピナの間抜けな声の先には扉の開いた黒い箱。

ただその中にはまだ扉があり鍵穴があった。


「二重扉なのか。しかも最初の鍵穴はフェイクだったってことか?」

「でもまだ、鍵穴があるよ。」


開いたは開いたが振り出しに戻った感が満載だ。

やはり他に鍵が隠されているということか、それとも。


「もしかして…。ピナその箱さっきみたいに揺さぶるんだ。」

「うん。」


がたがたと箱を揺らし、開いたと思うとまた鍵穴の付いた扉が現れる。

その繰り返しを五回くらいやっただろうか。ついに最後の扉が開き、鍵が現れた。


「やっとみつけたー。」


大喜びで鍵を取り出したピナだが、まだ問題は残っている。

鍵をみつけて黒い箱を開けるはずなのに、黒い箱の中に鍵があったのだから。


「それじゃ、鍵穴ってどこだ…。」

「それは多分こうだよ。」


自信ありげにピナは今まで開けた扉を閉めていく。

そして元の状態に黒い箱を戻すと、最初の鍵穴へ鍵を入れ回す。

がちゃん、という音とともに中には記憶の欠片が入っていた。


「ほらね!ひらめきでカバーしてるでしょ。」

「そうだな、じゃ次に行きますか。」



次の部屋は、真っ暗だ。


「おーここで具現化アイテムの力発揮だね。」

「懐中電灯だな。しかし部屋の照明のスイッチ押して電気がついてくれたほうが探しやすいんだけどな。」


オレが懐中電灯を点け部屋を照らすと同時にピナの小さい悲鳴がこぼれた。

無理もない。

部屋は先ほどと同じリビングのようだが足元には蛇やカエル、蜘蛛がぎっしりいたのだ。

オレ急いで照明のスイッチを探し出し、試しに押してみる。

ぱっと明るくなった部屋でよく見るとそれが爬虫類や虫のおもちゃだということがわかった。


「もう、勘弁してよ。子どもの夢ならもうちょっと可愛らしい感じ希望!!」

「それはオレも激しく同意する。」


今回は最初こそ驚いたものの鍵はおもちゃに紛れていただけですぐにみつかった。


次の部屋も鍵のありかとしては同様だったが、腰の高さまで大量のぬいぐるみで埋め尽くされ、潜るように探すはめになった。


その次の部屋も絵本で埋め尽くされた中を探した。


そして最後の部屋。


「次は仮面ライダーのフィギュア攻めとかに遭うのかと思ったよ。」

「全くだ。最後はまともな部屋で安心したよ。」


同じリビングを探し続けているが今度は台所もつながっていけるようになっているようだ。


「リビングには鍵なさそうだね。台所の食器棚とかもみてみる?」

「そうだな、最後にここが探せる場所として増えたあたり怪しいからな。」


洗い場下の引き出し、コンロ周りも見てみるが見当たらない。

あとは冷蔵庫か。

ピナも気づいたらしく野菜室や冷凍庫を順番にあけていく。


「ないねー。あ、ねえねえ、まさか生卵割ったら出てくるとかないよね?」

「…。もう子どもの感覚は分からないからな。気になるなら割ってみろよ。」

「あ、卵なかったよ。」


ないのかよ。

しかしその発想が正しいとすると片っ端から調べないといけないのだろうか。

じゃがいもとか玉ねぎの中とか。

うーん、と考えながらオレはなんとなしに製氷皿から氷を出してみる。


「あ、鍵!サキチくん氷の中に鍵の形してるのがあるよ。」


喜ぶピナをよそにオレはそっと氷の鍵を中から取り出す。

まったく、子どもの発想は無限大だな。

氷の鍵を手にしたのとほぼ同時にオレたちのうしろで、じゅー、と音が鳴る。

反射的に振り返るとフライパンの上で卵が丸焦げになっていた。

なんだか嫌な感じだ。


「うそ、なんで…。今まで卵なんてなかったのに。」

「知るかよ。とにかくこれが最後の鍵なんだ、急ごう。」


鍵を手に黒い箱に向かおうとすると、コンロの火が一気に強まる。天井にまで達っする勢いだ。


「うわ、あっつ。あ、鍵溶けちゃうよ、サキチくん早く。」


手の中で水っぽくなった鍵を差し込むと扉は開いた。

速く出た方がいい。そう直感して記憶の欠片を掴むと潜入を終了した。



>>思い出した記憶:火事のあった日の園庭での記憶



潜入から戻り、クサナギさんと共に今回のアカシックレコード、男の子の思い出した記憶の映像を確認してみる。


そこには、昔の映画フィルムのようにところどころ不鮮明だが確かに元気に友達と遊ぶ様子が映しだされていた。

今のところホームビデオ並みに平和に見える。

すると、一瞬画面にノイズが入り男の子の視線にあった風景なのだろう、黒い煙を上げている民家があった。

そして幼稚園の先生たちが急いで園児たちを呼び集めている声。

そして、その煙を上げる民家の茂みから出てくる男の姿、ひどく慌てているように見える。


「クサナギさん、これって…。」


ピナの考えも、オレやクサナギさんの考えもおそらく同じだろう。


「そうだね、この子はおそらく火事の原因を作ったと思われる人間を見ていたんだ。」

「これがもし放火だったとしたら。」

「そう、この子は犯人を知っている事になる。」



クサナギさんによると、夢の中で鍵がこれでもかというくらい隠されていたのは男の子がこの記憶を無意識ながら「怖い記憶」だと認識していたから。

自分でもすぐにはみつからないように、つまり思い出さないように奥底に隠したいという意識の表れではないかということだった。

また、それが探し出されそうになると防衛反応が働き、潜入したオレやピナを追い出そうとしていたのではないかということだった。


そしてこの火事のニュースや記事を探してみると、住宅の1階部分から火が出たであろうということ、放火の可能性が高いということ、そしてこの家に住んでいた大学生の中村加奈さんが亡くなっていたことがわかった。



「私この火事のニュース、テレビで見た気がする。まだ犯人捕まってなかったんだね。」

「クサナギさん、これ依頼者のつまり、あの子のお母さんにも見せるんですか?」

「そうだな、報告はきちんとしなくてはいけないし。ただこれは本当に心理カウンセラーか臨床心理士にかかったほうが良さそうだねぇ。」

「ねえ、クサナギさんこのアカシックレコードを警察に見せて犯人捕まえられないの?」


確かにそうだ。警察が映像を公開し、もしこの男をよく知る人物が見ればどこの誰かわかるかもしれない。


「それは無理だ。」


ピナの提案はあっさり却下された。

へ…?却下されたって、なんでだ。


「クサナギさん、どうしてですか。普通に考えても重要参考人が映ってるんですよ?」

「サキチくん。僕はサキチくんやピナちゃんの本名も現住所も知らない。」

「だって、ピナが最初の面接で来た時もあだ名で呼び合う方がフレンドリーだからいいよねーって言ってたじゃないですか。だから私もサキチくんの本名知らないし。」


確かに不思議だとは思ってた。普段はにこにこしてちゃらんぽらんな感じだから研究バカみたいなタイプなのかと思ってたけどどうやら少し違うらしい。


「それは、お互いがお互いのことを最小限の情報しか知らない方が安全だと考えたからだ。私はこの研究を自分の目的のために続けている。潜入の依頼も人助けにも確かになるがデータを多く集めたいという側面の方が大きい。そして、この研究はまだ不完全だ。この状態で世に出すわけにはいかないし、警察に“夢の中にはいって探してきた記憶の映像です”といっても信じるはずがない。」


「なら、潜入の過程を警察だけに全てみせれば―

「それにねこの研究は、一度国から危険視されて潰されたんだよ。だから君たち二人から何かを嗅ぎ付けて来られたとしてもすぐに対応できるよう準備もしてある。また、もし二人のうちどちらかに捜査の手が伸びてもお互いのことを深く知らなければそこで食い止められる。ちなみにこの周辺の街角やコンビニなんかの監視カメラもすでに手を加えてあるからね。君たちは何か聞かれてもデータ入力のバイトをしていただけだ。で済むようにしてある。依頼者に直接君たちを会わせないのもそのためだ。」


一体この人は何者なんだ…。


「わかりました。それなら犯人は私たちだけで捕まえます。行くよサキチくん。」

「え、オレは、


すごい勢いでピナに右腕を掴まれ後ろ歩きのままその場を後にすることになった。



「ピナ、いい加減腕、離してオレずっと後ろ歩きは辛い。」


ピナがオレの腕を離し、くるりとこちらに向きなおる。


「まずは、被害者の大学生の中村さんの事を調べよう。どこの大学だったかとか、顔が分かればFacebookとかからも交友関係を調べて怪しい人はいなかったとか。」


どうやらピナは本気で犯人を捜す気のようだ。止めても無駄だし仕方ないか。


「そうだな、とりあえず中村加奈さんの名前で検索でもしてみるか。」


おれは試しに持っていたアイフォンで検索をかけてみる、と。

同姓同名の芸能人関連のサイトや、姓名判断サイトがずらりと出てくる。名前だけじゃだめだな。

だとすると、


中村加奈 火事


いくつかのニュースサイト、そしてそれに関するブログなどがヒットした。


「ピナ、この中村さんは多分、日本芸術文化大学 演技研究科の中村加奈さんだ。」

「サキチくんどうして?」


ピナに見つけたブログの画面を見せる。

そこには一緒に役者を目指し、演技を勉強していた友達が火事で亡くなったと悲しみを綴る内容の文章があった。さかのぼって読んでいくと、公演準備中の様子や衣装を着て笑っている姿もあった。




                  ◆◆◆


「菅野健太くんとお母さん、どうぞこちらへ。」


受付の女性に促され親子が診察室に入っていく。


「こんにちは、どうぞこちらに座ってください。健太くんは今何歳なの?」


男の子はそっと、指を四本立てて差し出す。

やさしい笑顔で語りかける女性、心と夢のメンタルクリニック吉祥寺の院長にして精神科医と臨床心理士の資格を持つ小山麻美医師だ。

医師とはいえ相談に来る患者さんが緊張しないよう白衣は着ていない。

クリニックの内装もパステル調の柔らかい色合いの壁紙に子ども用にふわふわのぬいぐるみ、待合室にはオルゴール調の音楽が静かに流れている。

いつものように患者さんの話を小山先生が聞いていく。

私は必要があれば患者さんの夢に潜入し、治療に役立てる情報の収集や患者さん本人の記憶を探す。


_エリさん、やっぱり潜ってみたほうがいいみたい。


私のPCに小山先生からのメッセージ、夢に潜入する必要があるということだ。


_わかりました。すぐ準備します。


そう返信すると私は席を後にした。


                    ◇◇◇


事件調査二日目。

オレとピナは高校生ということを利用して日本芸術文化大学に見学に来ている。

演技研究科だけでなく、美術系や音楽系、外国語学科もある大きな大学だ。


「二人は演技研究科志望なんだよね、個々の授業の見学は難しいけど学生が作ってる劇団がいくつかあるからね。そこの活動なら見学できるし、先輩の話も聞けると思うよ。」


そう言って事務の人はオレたちを劇団の稽古場に案内してくれた。ついでに学校案内や資料も。

演劇の稽古場、どんなところかと思えば体育館のような床に、壁面は鏡、というなんだか慣れないと落ち着かない感じだ。

そこで男女あわせて20名くらいがストレッチをしたり、発声練習をしている。

さて、どう情報を集めるかだな。


「すいませーん、あの!よろしければ見学をさせて頂きたいんですけど。」


ピナが大声で全体に声をかける。

思い切りがいいというか、どんどん突き進んでいく感じはこういう時いいんだな。たぶん。


「二人とも高校生?演技研究科志望なの?」


肩にかけたタオルで汗をぬぐいながら一人の女性が話しかけてくれた。

よかったとりあえずとっかかりは出来たな。


「はい。あの以前の文化祭の公演で中村加奈さんの美津江が好きで。」


ふっと、女性の顔が曇る。それはそうだろう、火事で亡くなっている同級生のことを突然出されたのだから。

おいピナ、何狙いの会話なんだ?しかも美津江って誰?

「父と暮らせば、だよね。公演見に来てくれてたんだ。でもね、中村さん先月亡くなってるの、火事で。」

「知ってます。でもだからこそ中村さんが実際どんな場所で演技を勉強してたのか知りたくて、私も受験して受かって入りたいと思ったんです。」


そう持っていくのか。ピナは中村さんのファンになりきり親近感を持たせ、彼女の周囲に不審人物がいなかったか探ろうということらしい。


「中村さんもこの劇団で公演一緒にやってたんだよ。ちょっと我の強いとこはあったけど。自宅で発声練習してたら苦情がきた!なんて言ってる時もあったしね。でも可愛かったし、清楚系の役も真逆な役も上手かったしね。なんか熱烈な男子ファンもいたんだよ。」

「熱烈なファン、ですか。」

「うん、全部の公演見に来て出待ちみたいに出てくるまで待っててさ。まあ、あれはちょっとストーカーちっくだったかな。でも危害加えてくるとかはなかったからあんまり気にしてなかったけど。」


それが一体誰なのかまでは劇団員の人たちも知らないとのことだった。



                   ◆ ◆ ◆


日本の刑法は犯罪者に甘く、被害者や被害家族には冷たい。

そう思うのは私だけではないはずだ。

本来なら正当防衛でもない限り、殺人を犯した者は罪を償うべく死ぬべきなのに。

犯罪を疑われる者の夢に潜入し真相を暴き、そして必要なら私が裁く。

傷ついたひとの心癒すための潜入と、裁くための潜入。

それが私の本当の仕事だ。

まさか、患者さんの夢から犯罪者が見つかるとは思わなかったが見過ごさずに済んだ悪だ。



>>潜入日時:05/25 00:06

>>依頼者:User

>>目的:自殺への動機づけ

>>具現化したアイテム:筆記用具、中村加奈さんの写真、オーディオセット、スピーカー


>>同期完了 潜入しています...

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