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EVERY STEP  作者: awa
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SCENE 65 * JENNIE * With Jack

 DVDを六本借り、ランチ・ブレッド・カフェで昼食を買ったあと、午後一時頃、ジェニーはジャックと一緒に彼の家へと戻った。DVDは今日と明日でぜんぶ観られなくても、来週の平日でも週末でも、また家に来てくれればいいと彼が言ってくれて。

 それからは、彼女たちは充実すぎる時間を過ごした。話をしながらサンドウィッチを食べ、一本目のDVDを観て、話をして、またDVDを観て──夜の七時前に二本目のDVDが終わり、デリバリーサービスで夕食を注文、届いた食事を食べ終わると、あと片づけをした。気づけば夜の八時になっていた。

 「時間過ぎるの、早すぎ」

 部屋に戻るなりジャックが言った。ジェニーも彼のあとに続いて部屋に入り、ドアを閉める。

 「ほんとにね」彼があまり、音楽を聴かないことは知っている。「渡したいものがあるの」

 ジャックも振り返って彼女に微笑んだ。

 「うん。僕もある」

 「なに?」

 「君は?」

 聴かないというのは、わかっているけれど。「CD」

 彼はきょとんとしたものの、すぐに笑った。

 「じゃあ同時に出そうか」

 「ええ」

 ジェニーはクローゼットの前に置いていたバッグからCDを取り出した。やはりCDというのは、失敗だったかもしれない。けれど──。

 そんなふうに悶々と悩んでいる彼女の隣にジャックがしゃがむ。

 「そのまえにひとつ、あやまらなきゃいけないことがある」

 バッグの中でCDを見つめたまま考え事をしていたので、彼女は彼が隣にきたことに気づかなかった。驚いた。

 「なに?」

 「怒らない?」

 「怒らないと、思うけど──」怒るというのは、あまりしない。

 「ちょっと待って」

 そう言って立ち上がると、ジャックはクローゼットのいちばん端の部分を開け、中からなにかを──大きめのコルクボードを取り出した。それを片手にクローゼットの扉を閉め、再びジェニーの隣に腰をおろした。コルクボードを床に寝かせる。

 そのコルクボードには写真が飾られていた。去年ジャックやライアン、レナたちと行った夏祭りの時の写真たちだ。それだけではなかった。一枚だが、ジェニーの中学時代の写真もある。マイキーがはじめて作った灰色のあの靴を、彼女がはじめて履いた時、彼の店の前で撮った写真だ。

 「これ──」

 「うん。ごめん。あの靴を売ってもらった時、無理言って夏祭りの時の写真と交換してもらったんだ。普段は隠してるから誰も知らないんだけど。ほんとごめん」

 ジェニーはまったく気づいていなかった。自分で言うのもなんだが、この写真はマイキーのお気に入りだ。彼は半年ペースでコルクボードの写真を入れ替えるけれど、この写真だけはいつも飾ってくれている。というかこの写真、マイキーの店に今も飾ってある気がする。この写真のネガは彼が持っているはずなので、もしかするとまた現像したのかもしれない。交換したというのなら、もしかすると夏祭り時の写真もマイキーの店のコルクボードに飾ってあったのかもしれないが、そこにはまったく気づかなかった。

 「──怒った?」

 ジャックの声ではっとして、彼女は顔を上げた。

 「まさか。なんていうか、恥ずかしいけど、嬉しい。すごく」まさか持っていてくれるとは思わなかった。

 彼が安堵の表情を浮かべる。「じゃあ次、CDかけようか」

 「でも──」

 「ん?」

 「──ごめんなさい。あなたが歌を聴かないことはわかってるんだけど──」

 「趣味がないだけだから。聴けないわけじゃないし、キライなわけでもない」彼女の手からCDをとって立ち上がり、彼は手を差し出した。「手を」

 ジャックは、やさしい。「はい」

 彼の手をとって立ち上がると、彼女は三人掛けソファの前に腰をおろした。彼はコンポでCDを再生する準備にとりかかる。

 この曲は、昨日今日見つけたものではない。ジェニーが中学の頃に知った曲だ。いつかこんなふうに思える相手に出会えるのを、待っていた気もする。

 高校入試の時、ジャックを見つけた日に、家に帰ってから聴いた曲でもある。やはりあの時にはもう、すでに彼に惹かれていたのかもしれない。

 はっきり好きだと気づいてからも、恋人がいるという噂に、この曲を聴きながら泣いたこともある。きっとこれは両想いの歌で、自分が聴くのはおかしいと思い、半年以上は聴いていなかった。

 ジャックと恋人になってから、何度かは、想いを伝えられる言葉を持った曲を探した。けれど自分の好きな曲調で、自分のこの気持ちをそのまま表現してくれるような曲は、これ以外に見つけられなかった。

 彼はリモコンを持って彼女のところに戻り、彼女の隣に腰をおろした。

 「いい?」

 好き。「まえに、座っていい?」二本目のDVDは、そうやって観た。

 微笑む。「うん」

 自分から言いだしたのに、やはり彼の顔をちゃんとは見られず、ジェニーはまた無言で彼の前に座った。背中が引き寄せられる。

 せつない。好きすぎて、せつない。

 ジャックがリモコンの再生ボタンを押すと、音楽が流れた。



  過ぎて行く時間の中

  過ぎて行く日々の中

  あなたは突然現れ

  私の一部になった

  私が捨てようとしていた断片を

  あなたは拾い上げ

  より一層輝かせて

  そして私に差し出してくれた


  一歩踏み出すとき

  扉を開くとき

  壮大な景色を見るとき

  あなたと一緒にいたい


  歌をうたうとき

  なにかを学ぶとき

  美しい夢をみるとき

  あなたと一緒にいたい


  人で溢れる街の中

  閉ざされた空間の中

  ふたりをつなぐ手のぬくもりが

  だいじょうぶだよと教えてくれる

  もしも時間を止められるのなら

  もしもあなたさえかまわないのなら

  決してあなたを行かせたりはしない

  どんな時も


  私の人生のすべてを賭ける価値がある

  私が絶対に諦めたくなもの

  歩を進めるときにあなたにここにいてほしい

  あなたは私が必要とするすべて


  一歩踏み出すとき

  扉を開くとき

  壮大な景色を見るとき

  あなたと一緒にいたい


  歌をうたうとき

  なにかを学ぶとき

  美しい夢をみるとき

  あなたと一緒にいたい



 曲が終わると、ジャックはなにも言わずにリモコンの停止ボタンを押した。静寂を取り戻した部屋の中、彼が彼女に頬を寄せる。

 「──いい曲」

 いい曲でもあり、せつない曲でもあり、けれど、大好きな曲。「うん」

 「じゃあ次、こっち」

 「はい」

 「ちょっと待って。こっち見ないように」

 「うん?」

 手を離すと、彼はうしろでなにかをしはじめた。ジェニーはそれが気になってしかたがなかった。

 「髪、あげてくれる?」

 そう言われ、ジェニーは身体を起こして両手で髪をまとめ、左手で上にあげた。

 「こう?」

 「そう。ちょっと待って。目閉じて」

 「はい」

 彼女の曲げた左腕と首のあいだをすり抜けて彼の腕がとおり、また戻った。彼女の首に冷たいものがあたる。

 「──できた」ジャックが言った。

 髪をおろし、ジェニーは自分の首元を見た。細いゴールドのチェーンの先に、小さな一対の天使の羽がついている。思わず泣きそうになった。

 「──可愛い。すごく可愛い」

 また彼女の背中が引き寄せられる。けれどジャックは手をつなぐのではなく、彼女の首元に両腕をまわした。うしろから彼女を抱きしめる。

 「買ったものじゃないんだけど。実は去年の夏祭りの時、輪投げで取った。君が迷子になって、けっきょく渡せなかったんだけど」

 迷子というのは、ひさしぶりに言われた言葉だった。思わず苦笑いながらも、彼女は両手で彼の腕に触れた。

 「もう言われないと思ってたのに」

 「言いたいけど言いたくない。ものすごくバカなことしてたから。」

 高校の同級生十人で行った、去年の夏休みの、リトル・パイン・アイランドの夏祭り──ジェニーはレナたちとはぐれてしまったのだが、ジャックが見つけてくれた。二度も抱きしめられ、心配してくれていたのだとわかっていたものの、やはりあれも、“もしかして”と思ってしまった理由のひとつでもあった。

 「私は、嬉しかった」恋愛感情がなかったとしても、とても嬉しかった。「ありがとう」

 「──うん」彼はつぶやくように答えた。「この体勢、好きだけど、キスができない」

 キスがしたいのは、彼女も同じだ。「そっち、向いていい?」

 「うん」

 腕がほどかれ、ジェニーはジャックのほうに向きなおった。そしてお互いの頬に触れ、ふたりはキスをした。

 どうしようもないくらいに、心臓がドキドキしている。触れたい。もっと近づきたい。これ以上のキスがしたい。それが、彼女の本音だった。

 唇が離れ、ジャックが彼女を見つめる。

 「──もうちょっと、なんていうか──違う、キスがしたい」

 やはり彼も、同じことを。「私も、したい」

 両手でお互いの頬に触れ、はじめて、映画のようなキスをした。

 このキスが意味することを、ジェニーは自分なりに、わかっているつもりでいる。

 自分には経験がなく、本や映画にはときどき、そんなシーンが出てくるものの、自分はたいてい目を逸らす。本ならほとんどを読み飛ばしてしまう。なんとなくでしかわからない、未知の領域だ。すごく痛いという話を友達から聞いていて、ずっと、怖くてしかたないと思っていた。

 けれど今は、怖くない。ジャックとなら、怖くない。怖い気持ちよりも、もっと彼に近づきたいという気持ちのほうが、彼に触れたいという気持ちのほうが、彼を好きな気持ちのほうが勝っている。

 痛くてもかまわない。もっと彼に近づけるのなら、もっと彼に触れられるなら、すごくすごく好きだと伝えられるのなら、なにも怖くない。

 何度かの深いキスのあと、唇が離れると、どちらともなく、ふたりは額を合わせて目を閉じた。

 ジャックが静かに口を開く。「──ジェニー。僕らはまだ高校生だし、早すぎるってのはわかってる。でも──」

 ふたりが感じていることは、いつも同じだ。

 「私も、わかってる」ジェニーは、まだ自分の頬に残っている彼の手に触れた。「だけど私も、気持ちは同じ」好きすぎて、せつない。「──シャワー、借りてもいい?」

 「──うん」

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