SCENE 05 * JACK * Boys Talk
ライアンの言葉に、ジャックはかたまった。バレンタイン。母さんたち。旅行。
「なに、旅行って」ギャヴィンが訊いた。
ライアンが答える。「クリスとエレン、バレンタインが結婚記念日だから、毎年旅行すんの。二日か三日かけてあちらこちら。昔はそんなんでよく、ジャックがうちにあずけられてた。っていうか、オレの親が預かるとか言いだしてのことだけど。オレが料理できるようになってからは、オレがこいつん家行ったりもしてたけど。家政夫的」
ジャックはすっかり忘れていた。毎年のことなので、近年は両親ももう、数日前まで言わない。
「へえ、いいじゃん」とギャヴィン。「変な意味じゃなくて、とりあえず呼んでみれば? それだけでもかなり進歩。いや、俺らよりも先を行き過ぎてるだけのような気もするけど。高校生カップルにしては出来すぎだし」
──家に、呼ぶ。
「というか」顔を上げてジャックがライアンに言う。「お前こそ、もうすぐレナの誕生日だし。そっちこそどうするわけ?」
「え、いつ?」ギャヴィンが訊いた。
「二月十一日。ジェニーが言ってた。今日はそのプレゼント候補を探しに行ってんだって」
「へー。──なんか聞いたことのある数字だな」
ソファの上、ライアンはまた仰向けになった。
「ピクニックの日。オレが倒したゾンビの数」
ジャックには意味がわからなかったが、なにかを思い出したらしく、ギャヴィンはけらけらと笑った。
「そうだ! ゾンビの数だ! 二百十一!」
よくわからないが、ピクニックの日、ライアンは朝までゲームをしていたと言っていた。
ライアンが言う。「誕生日っつったって、平日だし。バレンタインは日曜だけど。せいぜいどっかで肉まんとアイス食うくらいしか──」
いつまで肉まんとアイスを食べるのだとつっこみそうになったが、冬が終わるまでかとジャックは思いなおした。「好きって言えばいい」
「ああ──今さらな、気がする」
「あれ、認めたんじゃね? 今」ギャヴィンがジャックに言う。「好きって。今さらだけど好きって。レナが大好きって。愛してるって」
ジャックの口元がゆるむ。「認めた」
そして思った。どの程度の気持ちがあれば言っていいものなのかわからないが、ジェニーになら、愛してると言える気がする。
だがライアンは呆れた。「愛って。アホか。知るか。だいたいオレ、女の誕生日を祝うとかそんなタイプじゃねえし。なんか今までイベントどうこう言ってきたけど、考えたらそんなタイプじゃねえし」
やっと気づいたらしい。
ギャヴィンが言う。「んじゃライアンは、レナに愛してるって言う。ジャックはジェニーを家に誘う。バレンタインに。っていうか、そのまえの土曜日か。ライアンはレナの誕生日か」
勝手に進められう話に、ジャックはぽかんとした。「なんの話?」
「だから、そろそろ一歩前進しようって話。俺はマリー、ひとまず抱きしめてみる。あとできたら、もうちょっと意味ありげなキス。バレンタインまでに」
意味を理解したので彼は慌てた。「ちょっと待て。程度が違いすぎるだろ。親のいない日に家に誘うって、なんかこっち、いちばんレベル高い」
しかしギャヴィンは笑った。
「だってお前らは俺らより二ヶ月、長くつきあってるわけだし。自分で言ったんじゃん、我慢してるって。家に誘って来るってことは、ジェニーだってそれなりの覚悟、決めてくるよ。たまにすっとぼけてるとこあるから、もしかしたら鈍いかもしれないけど。そういう状況になりかけたら、さすがにわかるだろ。嫌がるのを無理やりどうにかしろとは言わない。むしろそれしたらヒく。けど、家に誘うったって、昼間の話だし。ただ遊ぶだけって可能性もある。泊まるかどうかは、ふたりが自分たちで決めなよ」
ジャックは唖然とした。これだから経験者は困る。
左肘をテーブルについて手にあごを乗せ、ギャヴィンは遠い目をした。
「あー。今頃マリーたち、なにしてんだろ」
その言葉ですぐ、ジャックもジェニーのことを考えた。なにをしているのだろう。会いたい。このアホ共の会話を忘れ去りたい。ジェニーに癒されたい。
「雑貨屋まわって、あれ可愛いこれ可愛いって騒いでるとか」ふと、女の子同士でいる時の顔というのもあるのかな、という疑問が浮かんだ。
ギャヴィンが笑う。「意外と俺らの愚痴言ってるかもよ。特にレナ」
「今だに好きって言ってもらえない、みたいな?」それはさすがのレナにも、少々きついような気がする。
「そ。誕生日すら誘ってもらえない、みたいな」
「ああ。誕生日は一緒にいたほうがいいと思うけど。こっちなんか自分がグズグズしてたせいで、一緒にいられなかったし」これだけは本当に、一生の後悔として残りそうな気がする。
ギャヴィンはまたも遠い目をした。
「マリーも誕生日、七月だもんな。しかも俺の三日前。それまでのイベントって言ったら、もうバレンタインとホワイトデーくらいしか残ってないわけで」
ジェニー色に染まっていたジャックの脳内が、またもバレンタインという一大イベントのことでいっぱいになった。
「っていうか」
ギャヴィンがライアンを見やったので、ジャックも続くように彼へと視線をうつした。二人の声が揃う。
「寝たフリするな!」