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EVERY STEP  作者: awa
36/68

SCENE 35 * JACK * With Jennie

 暗くなりはじめた薄紫色の空の下、ひと気のない図書館の敷地内、隅にあるイチョウの木の下、芝生に座って、ジャックはジェニーといろいろな話をしていた。右側一メートルほどのところには等間隔で木が植えられていて、その向こうにはフェンス、そしてランチ・ブレッド・カフェの建つ通りがある。走る車の音や歩道を行き交う人たちの声は聞こえるものの、完全に自分たちの世界の中に入り込んでいるかのようだった。なにも気にならない。寒さすらも気にならない。

 ふたりは、今までしたことのない座りかたをしていた。ジェニーはジャックの脚のあいだに腰をおろし、背を彼にあずけている。キスのあと、もっと近づきたいと欲張って、それを彼女に見抜かれた。それでも、同じことを考えたと言って、ジェニーはそこに座った。。いつもしているのとは違う、新鮮な感覚が彼らを包んでいる。

 話しているあいだも神層の鼓動が速く大きく、ジャックは、それがジェニーにばれていしまうのではないかと思っていた。

 そしてまた、彼の携帯電話が鳴った。出たくなかった。彼女のおなかの上でつないでいる手を離したくない。

 「電話。今度は誰だと思う?」彼は彼女に訊いた。

 「次はギャヴィンかな」

 「僕もそんな気がする」携帯電話を出して開いた。「当たり」再びスピーカーフォンになるよう、通話ボタンを押した。

 このあいだのことを気にしているのか、ギャヴィンの第一声はとてもしおらしいものだった。「あ、ジャック? ごめん、デートの邪魔して」

 容赦はない。「うん。すごく邪魔」

 ジェニーが苦笑う。「邪魔じゃないわ、大丈夫」

 「あ、ジェニーにも聞こえてる? もらったピアス、今つけたよ。マリーがつけてるのに気づいて。そっちが説明する? それともこっちの勘を言う?」

 「どっちでも」とジャック。早く切れ。「質問があるなら答えるけど」

 「んじゃ、この表に入ってるのはなに? なんか意味ある?」

 「なんだっけ」彼はジェニーに訊いた。

 彼女が左耳に髪をかける。彼と揃いの黒いピアスがあるのがジャックにも見えた。彼女がギャヴィンに答える。

 「どこかの国の文字らしくて、意味は“誠実”。なんだけど、読みかたはわからない。ごめんね。あと、嘘ついてごめんなさい」

 「ああ、いや、いいよ。こういう嬉しい嘘ならいくらでも。あ、ちょっと待って。マリーがお礼言いたいって」

 ジェニーと顔を見合わせ、ジャックは笑った。彼に対するこの嘘は、実は少し悩んだ。ギャヴィンが嘘が嫌いだということは、ジャックもわかっている。

 「もしもし、ジェニー? あ、ジャックも?」電話越しにマリーが言った。「ピアス、ありがとう。すごく嬉しい」

 「いいの。ごめんね、嘘ついて」とジェニー。

 「ううん、すごく嬉しかったから。今日気づいてよかった。って、気づいたのはギャヴィンなんだけど。塞ごうと思ってたらしいの。間一髪よ」

 「ほんとに? よかった。ライアンとレナとね、私たちも色違いのピアスをしてるの。入ってる言葉は違うんだけど」

 「ほんと? 嬉しい。また明日、見せてね」

 「うん。ちゃんと見せる。ちゃんと話す。ほんとにごめんね」

 ジャックの中にまた、罪悪感が浮かんだ。

 「いいって。じゃあギャヴィンに代わるね」

 うん、もう切ろうって。

 ギャヴィンが戻る。「ジェニー、これ以上話すとジャックが怒るから、もう切る。また明日学校で。ありがと」

 よくわかっている。と思ったところで、ジャックは思い出した。

 「うん、またね」

 通話を終え、ジャックは携帯電話をコートのポケットに戻した。

 「そういえば明日、一緒に帰れない。ごめん」

 「うん? あ、そっか。わかった」

 どちらも大事だ。本音は一緒に帰りたい。だが一緒に帰ると、絶対に直帰などできない。配達は夕方指定で頼んでいる。母親のエレンが帰ってくるまえに、どうしても直接受け取りたい。

 ジャックはまた、ジェニーのおなかの上で彼女と手指を絡めた。

 「──土曜、どうしよっか。ずっと家にいるか、外でデートしてからうちに行くか」

 彼女の顔が見えないということは、自分の顔も見られないということだ。こういう話をするには、この体勢のほうが話しやすいような、と彼は実感した。

 「ん──どっちがいい?」

 「──本音、言っていい?」

 「うん」

 「誰にも邪魔されたくないから、ずっと家のほうがいいんだけど。もちろん、どこに行くのでもいい。いちばんは、君と一緒にいることだから」

 もっと本音を言えば、携帯電話の電源も切ってしまいたい。玄関にはチェーンをかけ、固定電話のコードも引っこ抜いてしまいたい。家にいることが外からわからないよう、部屋のカーテンをすべて閉め──ると、さすがに怪しいか。

 ジェニーが答える。「──うん。私も、家にいたい。食事は買いに? 出るんだろうけど、それ以外は」

 「宅配があるよ。そしたら、家を出なくてもいい」

 「あ、そうね。それか、先になにか買っておくか。昼食と夕食。そうしたら、大丈夫」

 「じゃあそうしようか。ついでにレンタルショップに行って、DVD借りる?」

 「いいわね。何本か借りて、観て話して観て話して、みたいに」

 「うん」一緒いられるのなら、なんでもいい。

 「学年末試験の勉強をするって手も──」

 彼は即答する。「うん、絶対やだ」

 彼女は笑った。「本を読む時間も必要よね? あなたが借りたのもあるし」

 「ああ──でも、普段しないことしないと、もったない気が」いや、変な意味ではなく。

 「あら。あなたが本を借りたのだってはじめてよ。普段しないこと」

 そのとおりだった。「でもやだ。君が読むなら読むけど、映画はこうして観られても、本はこれだと読めない」いや、変な意味ではなく。

 「そうだけど、読めないことはないんじゃない? 私の脚の上に本を広げて、ふたりで同時に──」

 「君と僕じゃ、読むスピードが違う。君が二ページ目で感動してる時に、こっちがハラハラすることになる。しかも君の表情が見えない。それはだめ」

 「それもそうね。にらめっこができない」

 「そういうこと」

 ジャックはジェニーの髪に、頬を寄せた。

 この体勢、好きだけど、幸せだけど、キスができない。欲張れない。

 「離れられなくなりそう」

 「──うん。離れたくない」

 ジェニーはいつも、同じ気持ちでいてくれる。

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