SCENE 25 * RENA * With Reo
「姉ちゃん、姉ちゃんてば!」
大げさに身体を揺すられながら、レナはやっと重い目を開けた。うるさい。
声の主は弟のレオだった。自分に背を向けている彼女の腕を掴み、寝起きの悪い姉を諦めずに起こしている。
「起きろって。今日がなんの日だかわかってんの?」
それにしてもうるさい。「わかったから、起きたから」
レナが答えたとたん、手が離れた。
「ああ。おはよ。で、誕生日おめでと」
彼女は仰向けになった。まだうまく頭が働かないが、そこにいるのが生意気ながらも可愛い弟だということはわかる。
「ありがと。今何時?」
「約束どおり五時半。姉ちゃんなかなか起きないから、もう四十分になりそうな気がするけど」
この時間に起こされることはわかっていたものの、なぜ彼がそんなに元気なのか、レナには謎だった。ベッドの上、どうにか身体を起こす。窓の外はまだ暗い。そして寒い。
レオはすぐ、ソファの背にあった灰色のカーディガンを彼女に差し出した。彼女はあくびをしながらそれを受け取り、羽織る。
「プレゼント、届いてたやつはもう中に入れた。リビングに置いてある」レオが言った。
二月十一日、木曜日。今日はレナの十七歳の誕生日だ。毎年、親戚や地元の友人たちはこの日の朝いちばんに届くよう、プレゼントを手配してくれる。といっても厳密には、方法が少し変わっていたりする。何人かは夜中のうちに自ら玄関先にプレゼントを置きにきたり、もしくは宅配会社が朝方届けにきてくれたりだ。
そしてレオは小学四年生の頃から、レナの誕生日当日、家族の誰よりも早く起き、そのプレゼントを家に運び入れる。寒いし、眠いだろうに。その代わり、彼女は五月五日のレオの誕生日に、それをする。
「残念な報告、いる?」レオが訊いた。
「ライアンからプレゼントが届いてない、とか?」
「え、うそ、なんでわかるの?」
「あいつがそんな素敵サプライズ、するわけないじゃない。」シーツをよけると、彼女は目をこすりながら、床に足をおろした。「そんなロマンチストじゃないし」知らないが、似合わない。
「いや、ライアンは意外とロマンチストだよ」
レナはぽかんとした。「なにかあるの?」
「教えない。言ったら怒られるから」
なぜレオのほうがライアンと仲がいいのかと、またその疑問が浮かんだ。意味がわからない。
レオは十五センチ角ほど、薄い水色の包装紙で包まれた箱を彼女に差し出した。それには濃いブルーのリボンがついている
「はい。プレゼント」
なんだかんだで毎年の誕生日当日、レナが一番にもらうのは彼からのプレゼントだ。生意気だが、可愛くてやさしい弟。口元をゆるめて受け取った。
「ありがと。開けていい?」
「うん。ライアンからもらえるかもしれないプレゼントをいちばんに開けなくていいなら」
彼女はむっとした。これが生意気な部分だ。この部分はあまり好きではない。
リボンに手をかけた。「あんた、ライアンみたいになってる」
だがレオは笑った。「それ、褒め言葉だよ。なりたい。超なりたい。ライアンは俺の理想の男像そのものだもん。ハンサムでおもしろくてモテてそっけなくて意地悪でやさしくて、女の子をメロメロにすんの」
心の底から呆れた。「お願いだから、あんなのにならないでよ。すごく疲れるんだから」
気持ちを上げ下げさせられるのは、本当に疲れる。レオがライアンのようになってしまうのだとすれば、これからどれだけ被害者が増えるのだということになる。
彼は彼女の前にしゃがみ、にんまりとした。
「でも好きなんじゃん。姉ちゃん見てればわかる」
「バカ」
レナは包装紙をとり、白い箱の蓋を開けた。時計だ。昔ながらの目覚まし時計、といったベルが上部にふたつついていて、薄いブルーの本体にシルバーの文字盤と針。とても可愛い。
「姉ちゃん一昨日、また目覚まし時計壊したから。しかも投げて。これ壊したら本気で泣くからな」と、レオ。
眠かったのだからしかたない。「気づいたら投げてた。でも、これは絶対に投げない。約束する」
時計を持ったまま、箱のことなんて考えずに床に膝をつき、レナはレオを抱きしめた。
「レオ、大好き。ありがとう」
彼の前でなら、彼女は素直だ。
「マジで? ライアンとどっちが好き?」
「レオのほうがいい子。あんたのことは、ジェニーと同じくらい好き」
「ライアンが泣くな。ほら、時間ないから、プレゼント開けようよ。ジェニーからのも届いてたよ」
ライアンは泣いたりしない。「うん」




