第五章③
「どうして……。どうしてアルトラーディはそんなに優しいの……。どうしてこんなわたしを受け入れてくれるの?」
わたしがそう言うと、アルトラーディは何でもないことの様に言うのよ。
「それは、俺がギネヴィアを愛しているからだ。ギネヴィアを好きで、愛しているから、ギネヴィアの全てを受け止めたいんだ」
「わたしは、アルトラーディよりもすごく年上で……」
「年なんて関係ない」
「アルトラーディが忌避色を持って生まれた原因かもしれない」
「そのお陰でギネヴィアと出会えて結婚もできた」
「わたしはずるいの」
「俺だってずるいよ。ギネヴィアがずるいというなら、俺は極悪だな」
「もう! 茶化さないで!」
「茶化してない。本心だよ。ギネヴィアに好かれたいがために勉強も剣術指南も真面目に受けた。ギネヴィアに褒められたくて、笑顔が見たくて。そんな邪な動機で俺は全てに努力したんだ」
「いいえ。すべてはアルトラーディの頑張りよ。動機が何であれ、アルトラーディが頑張って努力した結果よ」
「なら、俺が本当に思っていたことを話すよ」
「え?」
「本当はうまくできたらご褒美にキスしたかった。剣術指南もギネヴィアの剣術着姿が見たかったから頑張れた。いつも二人きりで指導してもらったのは、独り占めしたかったのもあるが、シャツが汗で張り付いて、いつもは見えない体のラインを堪能していた。なんだかんだ理由を付けて、夜に夜着姿のギネヴィアを見に行っていた。あわよくば風呂上がりのギネヴィアを見られた日にはギネヴィアで―――」
「!!!!! ま……まって……なななな、何を言って!!!?」
「こんな俺にギネヴィアはがっかりした? 嫌いになった?」
捨てられた子犬の様な表情でそんなことを言われても……。
それでも、アルトラーディから知らされた本心にわたしは……。
正直に言うと驚きが三割、嬉しさが五割、育て方を間違ったかもしれないという思いが二割だった。
でも、アルトラーディが言っていたことは、全てわたしを姉や母親代わりだとは思っておらず、一人の女性として独占欲だったり、よ…………欲情していたりっていうことで……。
自覚したとたん顔が熱くて仕方なかった。
きっとわたしの顔と言わず、全身が赤くなっていたと思うわ。
それでも、ここで顔を背けることはしたくなかった。
だって、顔を赤くさせながらここまで言ってくれたアルトラーディにたいして卑怯なことはしたくなかった。
だから……。
「わたしも……。わたしも、本当はアルトラーディのことを愛していたわ。でも、本当の年齢とか、貴方の忌避色の原因かもしれないということ、勝手にした約束だけど、それを守れなかったこと……。自分勝手な理由を付けて、アルトラーディを見ようとしなかった……。そんなわたしでいいの?」
「初めから言っている。俺は、ギネヴィアだけだと。ギネヴィアだけを愛していると」
「アルトラーディ……」
「ギネヴィア……。愛している。俺の妻になってくれないか?」
情熱的に潤んだ真紅の瞳に見つめられて、そう告げられたわたしは……。
「はい……。はい! わたしをアルトラーディの妻にしてください!! 一緒にわたしの背負っている物を半分持ってください。わたしもアルトラーディの荷物を半分持つわ」
「ああ! お互いに荷物を分け合って、そして空いているもう片方の手で手を繋ごう。一生手を繋いで共に生きていこう。ギネヴィア愛している」
「はい。もう離しません」
「俺だって、離さないから覚悟してくれよ?」
「ふふ。わたしだって絶対に離さないわ」
そう言って見つめ合ったわたしとアルトラーディは、抱きしめ合い、唇同士を触れ合わせていた。
サラン村でキスをされたときは、ただ驚いてしまって……。
キスがこんなに甘くて気持ちがいいものだって知らなかった……。
触れ合った場所からお互いに溶け合ってしまいそうだと思うほど、心地よかったの。
だけど……。若い男性であるアルトラーディの欲についてわたしはちゃんと理解できていなかったのよ……。
キスだけで終われるはずがないって……。




