望みと願い
鬼城の館は昔からの桜の寺院があった場所で建物を増築させたり、建て替えたりとしながらいまだに存在感を残していた。
ただ、桜の寺院が誇っていた万年桜-1年間ずっと狂い咲いていた桜-は戦国の世での事件がきっかけで朽ちてしまっていた。
今まで様子を見ていたが、朽ちている桜の根元から新たな芽が出ることも無く、歴代の代表が頭を悩ませていた代物でもある。
その為、新しい樹木を植樹し、桜の代わりの神木にする案も浮かんでいたがうまく話がまとまる事がなくそのままになって今に至るのである。
「……お館様、戻りました」
梅子から鬼城の翁と呼ばれていた老人は屋敷の奥の奥にある広い部屋の前に跪き部屋の中の青年に声をかけていた。
「……情報何かあったかな?」
お館様の少し明るい声が翁の耳に入っていた。
「いえ、それは、いまだに掴めておりません」
翁は首を振り答えていると、部屋の中の雰囲気は重苦しい物へと変化していった。
ゆっくりと襖を開いて不機嫌な雰囲気を醸し出しているのに笑顔の青年が出てきて翁を見下ろす。
「いつになったら会えると思う?」
悪意のない笑顔の表情でありながら中に不機嫌だと言う感情を押し殺してある青年。
「鬼灯の一族、……全滅させたら出てくるんじゃない?」
“やってみようか?”と言いそうな声に翁はギョッと顔を青くして青年を見上げる。
「……冗談だよ」と言う青年の言葉にほっと翁は安堵の息を吐く。
「流石に、夢華の子孫に手を出すことはないよ」
“困ったことに、夢華の一族なら家族殺しになっちゃうし”と蓮は呟いていた。
「雪太郎の生まれ変わりが見つけるより先に天華様を手にれないと面倒なことしなきゃだし」
黒い髪を掻き上げながら黄土色の瞳を翁を向けていっていた。
「……雪太郎が、先に出会った場合はどうしたら……?」
翁は噴き出す汗をそのままに問いかける。
「……もう一度生まれ変わってもらうしかないんじゃないかな?」
それ以上蓮の姿を見ていられなくなり、翁は“わかりました”とうなづくしか無かった。
ゆっくりと奥にあった蓮の部屋から離れて自分のテリトリーに戻ると息詰まっていた状態から解放されたかのように息を吐く。
翁は鬼城の人間なのだが、鬼城の中に居場所を見つけられずにいた。
翁はため息をついてどこまでも澄み渡っている空を見上げる。
「……夢茨様、煉華様の想いを守りたいだけだったんだが、この組織はあまりに……」
翁は呟く。
管理がしやすい力の弱い小鬼を捕まえたと楽しそうに話す若者がいた。
先日、小鬼を捕まえたといっていた若者が翌日には使い物にならなかったから処分したとまるで物を処分したと言うような軽く笑いながら言うのを聞いていた。
-処分-
それは、見逃した生命を使えないから鬼狩りとして命を刈り取ると言うことである。
翁は目を伏せて心の中で耳を塞ぎながら若者たちの話を聞き流していたのだ。
それは、これからも目を伏せ耳を塞ぎながらいくのだろうと思ってしまった。
できれば2人の孫たちだけは、と心の中で祈るしか無かった。
捕まえられて弱った鬼たちは、年若い実戦が少ない鬼狩りたちに生命を刈り取られることだろう。
カサっと近くの茂みから小さな猫が飛び出してきた。
威嚇を続けて翁を睨む猫の姿、随分痛めつけられたボロボロの姿をしている。
「小鬼……か」
威嚇を続けている猫の小鬼を抱えようとしたが、まだ反抗の元気がある小鬼から噛まれ引っ掻かれて手が血塗れになっているが翁は気にせずに数匹の猫の小鬼を館から出していた。
「早くいくといい」
鬼狩りの館の外に出れたことに戸惑っている猫の小鬼たちに翁は声をかけていた。
「逃げ場所がなくて考えているならば、月の森へお行き。あの森ならば人間は立ち入れない」
翁は月の森の方を指さして“もう捕まるんじゃないぞ”と声をかけて館へと入っていく。
小鬼は屋敷に入っていく翁の背中に向けて申し訳なさそうに目礼をして一緒に逃してもらった子達と月の森へと走り出していた。




