素早い対応
素早い対応
日が傾いて、夕闇が広がる。
「今日、動いてくれたらいいんだけどねぇー」
一番星が輝く瑠璃色に染まった空を見あげて龍成は呟いていた。
「ちょ、……それは……」
夜は目に見えて怯えを含む目で龍成を見て声を上げている。
「冗談、冗談」
夜の様子に龍成は手を横に振り笑っている。
「……なんか、様子が……」
山の様子を眺めていた緑は警戒の色を浮かべて周囲を見ていた。
遠くの人工の光がポツポツと消えていく。
「えっ?!」
緑と夜はふたりで声をあげていた。
真っ直ぐにこちらに闇が近づいてきたのを感じ緑は身構えて、夜は涙目で向かってくる大きな気配に震えていた。
「どうしましょう!?」
夜だけが大騒ぎをしている。
「少しは落ち着け!」
月は慌てふためく夜に叱咤を飛ばしていた。
緑色の双眸が光っている。
緑や夜たちを視界に入れた瞬間、熊の咆哮が遠くから響いたと同時に真っ直ぐに人工の光を喰らいながら突撃してくる。
熊の咆哮を聞いた始と広樹は恐怖で動けずにいるのを月は気づいて 「夜、人間たちの守護だ!」棒で防御の体制を取りながら声を出す。
「はい!」
夜の返事を聞きつつ月は突撃してきた熊の体当たりを受け止めた瞬間に灑は月の陰から熊の口に毒を投げ込んでいた。
「……おま、……持ってきてたんだな」
毒を投げ込んだ灑に対して月は思わず突っ込んでいる中、熊は腕を振り上げ、月に振り下ろそうとしている瞬間、灑は懐から縄を取り出し振り上げられていた腕を絡め取り、熊の背後に着地して踏み留まるために灑はふんばっている。
「……戦術は多い方が、いいんだろうが」
灑は熊と予定外の力比べ状態になっている。
「灑、耐えろ!」
「たえてるよ!」
月の言葉に汗を流しながら力が拮抗している縄を離すまいと灑は熊を睨んでいた。
一瞬。
熊の力が消え後ろに灑が体制を崩した瞬間、灑を月に向けて振り抜いていた。
「げほっ……ごほっ……、痛ってぇ」
背中を叩きつけられた衝撃で握りしめていた縄を取り落とした事も気づいていたが、月と衝突した灑は咳き込みつつ立ち上がった。
「早くのけ」
守ろうとしていた月が灑と木の間に居るのを気づいて慌てて灑はボロボロになっている月を見た。
「すっげぇー力だ」
灑は未だに動かない熊を見て呟いていた。
「緑が、術で……縛り付けているようだ」
熊の足を太い木の根が絡みついている事に気づいた月。
「よいしょっと」
緑は周囲の樹木を操りながら、夜と始たちを守護しているようだ。
「龍成ーどお?」
「まだ、発動しても喰われるのがオチだな」
丸太の小屋の傍で熊の余力を測りながらランタンの発動のタイミングを測っている。
「ならもう少し、樹木で熊さんの余力を削ってみようかしら?」
緑色のオーラを立ち上らせながら周囲の樹木と言わず草を操つり熊を檻に閉じ込めていた。
「効くか分かんないけども……」
木の根が槍の様に熊を囲んでいる檻に向かって刺し貫いて行く。
包み込んだ樹木の間から黒い体液が吹き出し、ゆっくりと樹木を伝い地面に流れ落ちていく。
「効いたか……?」
灑は呟いてまじまじと遠巻きに眺めていた。
「どうでしょう」
緑の不安そうな声と木の檻から樹木を破壊して、喰らう音が響いている。
「……ギリギリまで、発動し続けるけど、無理そうだったら術解いちゃうけど、あんたたちは、動ける?」
緑は月と灑を見て声をかけている。
「まあ、やるだけ動いてみるけどね」
灑は大きなため息を着いてうなづいていた。
「ここで止めなければ大変なことになるだろう」
月もうなづいている。
話している中で木々の檻を千々に引きちぎり樹木を喰らいながら佇んでいる熊に緑は「うへぇ」という顔をしている。
「……まじか?」
灑は熊を見て緑は頬をポリポリと掻きつつ困った表情。
月は棒を構えて、夜は始と広樹の前に立って構えて熊に全集中している。
「……熊の満腹の感じは、もうちょいなんだけど発動させてみるか。……空き容量は増やしたらしいしね」
龍成はランタンを構えて熊に対して掲げようとした時、「ねぇ」と始は龍成に声をかけていた。
「喰ってる最中、ほかの別のものは喰えないよね?」
始の言葉に龍成は「そうだねぇって、……何を、するつもりだ?」と低く問うていた。
「……丸呑みがいいけど、状況が状況だし、無理だよね」
始は覚悟を決めた顔をして熊に対して走っていった。
「おい、まて!!!」
龍成は今回初めて焦った声を上げて止めようと何も持ってない手を伸ばしたが間に合わなかった。
「始?!」
突然、熊に走り出した始に広樹は声を上げて追いかけようとしている広樹を夜が引き止め、始もつかまえようとして夜は手を伸ばすも、始はするりと伸ばされた手を避けて熊の前に躍り出ていた。
月も夜と広樹の声に反応して、地面を蹴ったが始を引き止めるのは、間に合わず月の目の前で始の肉が千切れ骨の砕ける音と鮮血が舞っていた。
「……覚悟は受け取った」
龍成はランタンを発動させて始の血肉を喰らっている熊に封印の力を放っていた。
始と熊はランタンの力によって引き離されるように駆け寄ってきた月の足元に放り投げられた形で倒れ込んでいた。
以前のランタンの蔦ではなく凶悪な茨の蔓へと姿を変えて、熊へと無数の蔦を伸ばしていく、ランタンに龍成は唖然とランタンを眺めていた。
「……凶悪な封印になってんじゃねーか」
龍成はデザイン変更だけではなくランタンの捕獲機能までもパワーアップしているのを驚いている最中、熊はランタンの中に吸い込まれて言ったのである。
月は片腕を失っている始を急いで夜の元に抱えて来ていた。
「止血をしろ!人間は少しの出血でも命をおとすぞ!!」
龍成は脂汗を流しながら痛みに耐えている始を抱える月に怒鳴る。
「止血ってどうしたら?!」
夜は焦り、オロオロと周囲を見ていた。
「あー、もうこれ使え」
焦る夜を見ている龍成は着ていた上着を脱いで始の止血に提供をしていた。
「急いで病院へ連れていけ!連絡はしておく」
「夜、連絡より格段に早いから龍成を連れて急げっ!影移動!」
龍成と月の同時に放たれた言葉に夜は壊れた人形のようにこくこくと首を縦に振り月の指示通り急いで龍成と始を抱えて病院へと向かう。
「始、大丈夫ですよね?!」
広樹は月を見あげている広樹に月は重々しく頷くしか出来なかった。




