鬼灯当主代理 鬼灯 梅子。
天華は玄関先を掃除しようと向かった瞬間に玄関向こうに人影に気づいた。
ガラっ――
結界が生きているはずの森の館の玄関の戸がゆっくりと開かれて現れた老婆と天華2人の目があった。
老婆の皺に埋もれていた細い目がゆっくりと見開かれて行くのをゆっくりとみえた。
「あ……あなた……貴女様は……」
老婆はゆっくりとよろよろと歩み寄ってきている。
「……天華と言います」
「ああ……月様の仰っておられた方ですね」
天華は戸惑いながらも自己紹介をした瞬間に彼女は涙を流していた。
「雪太郎著の書物でもあなた様のお話を拝読させていただいておりました」
(一体どんなこと書いたの……あの子)
天華を見つめて感動を続けている老婆を前に雪太郎に脳内で突っ込みを入れている天華である。
「……私、鬼灯当主代理、鬼灯梅子と申します」
天華の前で座ろうとしていたため、全力で止めて深々礼をした梅子を見て疲れた顔をしている天華。
「天華さまー」
天華の側に来た夜は梅子を見て止まる。
梅子と天華を見比べて夜は次の対処に頭を両手で抱えて考えている。
悩んでいる夜を放置することなく天華は「夜。こちら鬼灯梅子さん」と紹介をしていた。
「あなた様のは夜様ですね。お会いできて光栄です」
皺だらけの手を差し出してきたので夜は握手をした。
梅子は皺だらけの顔をより一層皺くちゃにして笑う。
「ん?……鬼灯……?」
夜は首を傾げる。
「雪太郎の子孫?」
「いいえ、私は夢華の子孫です」
夜の言葉に梅子は首を横に振る。
「そう……夢華の…………?」
夜は目を見開く。
「つ……月ぃーーーー」
夜は在らん限りの大声で叫ぶ。
天華と老婆は両耳を塞いで大声を回避する。
「……何だ……」
月は「五月蝿い」と青筋を立てながら夜と天華達のいるところに歩いてきていた。
「月!煉華さまの!」
「知っている」
夜の取り乱しに月はため息を吐いて月は梅子をみた。
「すまんな。うるさかっただろう」
「……いいえ、先に聞いておりましたので対応できました。月様お久しぶりでございます」
月と梅子の2人は何とも旧知の中のような雰囲気で話始めていた。
「お知り合い?」
「まぁ、そんなとこだ」
夜の言葉に月は言葉少なめにうなづきながら「……」ポンポンと梅子の頭を撫でていた。
「月様、私はもう子供ではありませんよ」
「そうか……そうだったな……」
梅子の苦情に月は無表情に手を下ろしてうなづいた。
梅子が幼い頃に姿を隠して見守っていた時に月が見つかりそれからの仲である。
言葉少ないながらも鬼灯梅子という人間に近しい者たちを月は付かず離れず守っていたのである。
思い出を語らずに月は梅子を見て「……梅子少々この場所借りるぞ」と言葉少なめに言うのを梅子は笑う。
「……何をおっしゃいます。この土地の持ち主は天華様でございましょう。天華様なればいつでもお気軽にご使用ください」
梅子は月に対して言う。
「感謝する」
月は梅子に目礼をしていた。
「……最大限の感謝を」
天華も梅子に深く一礼をしていた。
夜も慌てて天華に倣って一礼をしていた。
「ところで、梅子……鬼灯の他の子たちは?」
「……血が薄れるにつれて結界に阻まれ、入れなくなる者たちが多くなり随分経ちまして、何代か前の鬼灯の当主が近くの土地を購入をし。館を立て月の森を守っておりました」
梅子は鍵を取り出す。
「私もこの鍵がないとこの場所には……」
鍵の色が変わっていたがそれでもまだ存在している鍵。
「……“鍵”じゃなくて、天華様の髪を組紐を作って身につけていたら結界通り抜けれるようにと雪太郎に預けたんだけど……」
夜は首を傾げる。
「……そのようにしていただいていたのですね……」
梅子は悩む。
「鍵の紐ももうボロボロ……」
天華は梅子のにある鍵を両手で包み込んで力を込める。
「……鍵自体に力を埋め込んでみました。……当分はこれで対応しましょう」
天華はうなづいた。
「家族は今何人ですか?」
「私と……結華の2人です」
梅子は天華に言う。
「ひとまず、二つ準備しておきます」
天華は梅子に伝えていた。
「感謝いたします」
梅子は礼をした。
「今日はご挨拶だったのでまた来ますね」
梅子は旧鬼灯の館から出て行くのを天華は見送っていた。
森の結界は鬼狩りから半鬼を護るために張ったため、鬼の血が薄れたら締め出されるようになっていた。
時を重ねる毎に鬼灯のものは森の中へは入れなくなっていった為、森の外で近くの土地を購入し、家を作りそこに移り住んだのだろう。
梅子の話を聞いて「……私ちゃんと届けましたよ!」と夜は慌てたように天華に言う。
「お前の天華様至上主義は知ってるから、疑ってはない安心しろ」
月は夜に言う。
「雪太郎の時まではあったはず……あの子も私と同じくらい天華様のこと大事に思ってたはずです」
夜は月と天華を見た。
「まぁ、何かあったかもしれないな」
月は悩みながら呟いていた。
「……そうかもしれませんね」
天華もうなづいている。
数代前にとある鬼灯の分家が雪太郎の保管していた天華の髪と雪太郎の遺髪を使ってしまったことを刻の流れによって失われた事実には当分、行き当たりそうにはない。