08 棚ぼたの功績
「多重魔法陣展開。並列起動……」
「おま……何を……!?」
「何をもクソもねえ! 神罰を喰らいやがれ!」
百人からいる室内。盗賊なんぞ火属性魔法で焦げ肉にしてやりたいくらいだが、やはり人相の確認が必要なんだ。
ここは風属性の上級魔法を全方位に撃ち放つだけ。
「エアリアルインパクトォォッ!!」
俺を取り囲むような多重魔法陣から風の刃が無数に撃ち出されていく。
ある者は腕を斬り裂かれ、またある者は足を切断され。胴体すら真っ二つになった者も多数。怒りに任せて撃ち放った魔法は阿鼻叫喚の地獄絵図を完成させていた。
「実に心地良い。俺以外の絶叫は福音にしか聞こえん」
ミンチというには粗挽きすぎるが、とりあえず一掃できた感じだ。
さあ、お姫様を救出して、スラムを後にしようか。さりとて、奥の部屋へと繋がる扉はロックされているらしい。
「こしゃくな。だが、超天才の俺には無駄なことだ!」
俺の身体強化スキルは並じゃない。
英雄級という神級にも等しい力を発揮するスキル。鍵くらい余裕で破壊できるっての。
扉をぶっ壊し、俺は奥にあった部屋へと踏み入る。
「何人攫ってるんだよ……?」
少女ばかり二十人ほどが閉じ込められていた。
全員が強制奴隷なのか、隷属の首輪が取り付けられていたんだ。
グリフィス王国は奴隷を認めていないというのに、これだけの人数を入国させていたのか。
「俺は盗賊じゃない。というより君たちを救出しに来た。怖がらなくていいぞ」
身なりは人それぞれであったが、一際目立つ格好の少女を発見する。彼女こそが帝国より攫われた姫君に違いない。
「貴方様は帝国のお方でしょうか?」
耳打ちするようにして聞く。一般人も多いはずだし、少しばかり濁しながら。
「貴方様は?」
「俺はアルフレッド。王宮に仕える者です。ご安心を」
「アルフレッド様ですか。ワタクシはティアナと申します。ここはグリフィス王国なのですか?」
やはり彼女こそが帝国の姫君。ティアナ皇女殿下に他ならない。
「皇女殿下ですよね? ここはグリフィス王国です。貴方様を攫った盗賊団の手配書が届いておりましたので、救出に参りました」
「王国が動いてくれたのですか! 救出していただき、ありがとうございます」
とても丁寧なカーテシーだった。
ウチのドSな姫様にも見習って欲しいくらいの所作だ。可愛らしさはウチの姫様に分があるかもだけど。
「王城にご案内します。殲滅したと思いますが、残党がいては問題ですので」
とりあえず、全員を王城に連れて行くしかないか。
彼女たちは奴隷の首輪を装着させられているし、解除しないことには悪用されるだけだ。
小部屋を出ると凄惨な光景が広がっている。俺自身が原因だけど、パズル的にバラバラとなった盗賊たちの姿は流石にグロい。
「これをアルフレッド様がお一人で!?」
「俺は少しばかり腕が立ちますので」
「勇敢であり、お強いのですね?」
まあそれほどでも。
もっと褒めていただいても構いませんよ?
何なら俺が追放されたとき、帝国には受け皿になっていただきたい。
「走りましょう。お目汚しとなりますから」
言って俺はティアナ皇女の手を握る。転けたりしないようにと。
「あわわ! よろしくお願い致しますわ!」
少女たちを連れて、俺は平民街を通り、王城の正門を潜る。
鉢金を注文することも忘れ、転がり込んだ功績の報告を急ぐのだった。
◇ ◇ ◇
授業を終えたわたくしは自室で本を読んでいました。
静かで穏やかな時間を過ごしていたのですけれど、
「殿下、大変です!」
ノックもなくエマが飛び込んできます。
淑女らしからぬ行動には眉を顰めるしかありませんね。
「どうしたの? 騒々しい……」
「いやそれが、アルフレッド様がお戻りになったのです!」
「アルフレッド先生なら街へ行っただけだと思うのだけど?」
要領を得ない話です。アルフレッド先生はわたくしとペアルック的なナイフを発注するためドワン親方様のところへ向かったはず。
王城で寝泊まりしている先生がお戻りになったとして何の問題もございませんのに。
「違うのです! アルフレッド様はお一人で大盗賊団を殲滅して、帝国の皇女殿下を救出して戻られたのですよ!」
「えええー!?」
ほんの数時間前ですよ!?
わたくし、先生にキスをして、彼は照れ隠しのように授業を終えたばかり。
どうして大盗賊団の殲滅に向かわれてしまったの!?
「本当なの?」
「もう大騒ぎですよ! 近頃、問題となっていた神出鬼没な盗賊団を殲滅されたのですから!」
あり得ないわ。
先生は勇敢であり、強者でもあるけれど、たった二時間でそのようなことをなさるなんて。
「流石に先生でも、いきなり単身で乗り込むとは思えませんわ」
「事実です。我が国は帝国から疑惑の目を向けられていたのです。恐らく大臣補佐業務中に見られたのでしょう。グリフィス王国が盗賊に命じて皇女殿下を攫ったという書簡を。愛国心の強いアルフレッド様ならば、酷くお心を痛まれていたはず……」
「そんなことがあったのですか……」
わたくしには届いていないお話でした。
しかし、先生が行き当たりばったりで、大規模な盗賊団に戦いを挑むかしら?
「そういえば……」
不意に思い出す。
つい先ほどのこと。わたくしがキスをしたあと、先生は仰っていたの。
『姫様、俺は覚悟した方がいいのですかね?』
あの言葉に全てが凝縮されている。
先生はわたくしとの身分差を埋めるため、功績を欲していたんだ。
お一人で大盗賊団を殲滅したという功績を得て、わたくしに相応しい身分を手に入れようと。
(わたくしのキスが先生を追い込んでしまったのね……)
今思えば失態でしたわ。わたくしはどれだけ罪深い存在なのでしょうか。
恐らく先生は死地に赴く覚悟だったはず。
『ぜぇぜぇ……。大盗賊団さえ殲滅できたら俺は姫様と……』
先生はわたくしへの想いだけで、何とかその生を繋いだことでしょう。何人もの盗賊たちを薙ぎ払ったはず。息も絶え絶えに、頭領との決戦を迎えたのだと思われます。
『クッ、俺はまだ死ねない。姫様をこの腕に抱くまでは!!』
ああ、キュンときますの!
滅茶苦茶にキュンキュンしますの!
『ラブラブバスタァァ!!』
最後は必殺のラブ剣技で盗賊団の頭領を斬り裂く。
愛の力は巨悪にも勝る。勝利の瞬間に先生はポツリと漏らすのよ。
『姫様への想いがなければ危なかった。姫様を愛していたので助かった』
素晴らしいですわ! 百点ですの!
やはり先生はわたくしの王子様ですわね。
(まあでも、反省しなければいけません)
先生がわたくしの気持ちに応えようと張り切ってしまうことまで考えていなかったのです。わたくしの想いが先生に無茶を強いてしまったみたい。
「エマ、先生はどこに?」
「謁見の間で報告中です。騎士団は総出でアルフレッド様が話すアジトの捜索に向かったところですね」
無事に戻られたようで何より。
わたくしに黙って危ないことをするなんて許せません。ですが、少しばかり気持ちが温かくなりましたの。
「わたくしも謁見の間に向かいます」
こうしてはいられないわ。先生に感謝と祝福の言葉を述べなくては。
先生の熱く滾る想いは、わたくしに届いておりましてよ?
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