07 絶命あそばせ
まさか就任早々に死刑宣告を受けるなんて。
今も思い出す。プレイヤーとしては溜飲を下げる台詞だが、俺にとっては悪魔の囁きなんだ。
『絶命あそばせ?──』
憎き教育係の生首が断頭台から転がり落ちる様子はプレイヤーとして達成感を得られるスチルに違いないが、残念ながら俺はその当人なんだ。
(現状はどれだけ好感度が下がっているんだ?)
とりあえず、友好的に努めたつもりだけど、相性が悪いという根本的な問題を俺たちは抱えていたらしい。
「姫様、俺は(断頭台を)覚悟した方がいいのですかね?」
「お願い致します。わたくしはそれを望んでおりますから」
ニコリと微笑む姫様に背筋が凍る。
やはり俺の頭部が断頭台から転がり落ちる瞬間をご所望されているようだ。
「姫様、どうしても変えられない未来って、あるのかもしれませんね……」
「先生は努力されておりますし、道を切り開く力がおありだと考えますの。たとえ障害があったとして、乗り越えられる力があると」
俺を焚き付けて、姫様はどうしようというのだ?
もしかして、純粋に死んで欲しいとは考えていないのか?
俺が強大な流れに逆らって、生き延びる様子を見たいとか?
「姫様は俺がそれを成すことをお望みなのですね?」
「できると思いましたので、そう申しております。わたくし、これでも人を見る目を養っておりますの。それだけは自信がございます」
やれやれ。どうやら俺は茶番に付き合うしかないようだ。姫様を楽しませ、生かしてもいいと考え直してもらうしか。
「ご期待に応えられるよう頑張ります」
「そうしてください。わたくしはもうその未来しか見ておりませんから」
意外と好感度が残っているのかな?
姫様は無理難題を申しつけたようで、俺が窮地を脱する様子を見たいという。
(序盤の断頭台はダニエルが失血死した場合だ)
公爵家の嫡男を刺殺した罪を教育係に丸投げ。バッドエンドの中に救いを与えるかのように、憎き教育係は断頭台にかけられる。
(ダニエルを鍛えるにしても、習得したスキルが厄介だな)
簡単に死なない肉体をダニエルが得られても、急所を狙った攻撃は防ぎようがない。
既に爆破スキルといっても過言ではない姫様の投擲は俺が生き残る上で最大の障壁となっていたんだ。
「姫様、俺が差し上げたナイフを返してもらってもよろしいですか?」
「はい? このナイフですか?」
ナイフさえ取り上げてしまえば、脅威は軽減する。姫様のスキルにドワン親方のナイフがプラスされてはならないのだ。
「嫌ですわ」
ですよねぇ。
姫様は俺が血まみれになりながら生に縋る姿を望まれているのだし。加えて一度手にした得物を手放すなど考えられない。
「アルフレッド先生も製作依頼されてはどうでしょう? ペペペ、ペアルック的に……」
「まあ、そうですね。俺も発注してみます」
姫様がナイフを返さないというのなら、俺は額を守る鉢金でも発注しようか。
ドワン親方の依頼料は安くないけれど、姫様の投擲に対処するには親方の防具が必須だと思うし。
「本日の授業は有意義でしたわ。スキルも発現しましたし、やはり先生を師事して良かったと存じます」
「魔力についても考えておきますので、どうぞご期待ください」
攻撃的な魔法じゃなく、牧歌的なやつしか教えないからな?
それでなくても、ダニエルは最弱の状態で現れるはずなのだから。
さてと、俺は執務へと向かう前にドワン親方と会っておかねばならない。
王城を後にし、鉢金を発注するため貴族街を抜けて平民エリアへ。一日に二度も下民たちの顔を見ることになるとは考えもしていなかったのだけど。
「アルフレッド様、こんにちは!」
「ああ、こんにちは」
「アルフレッド様、ご視察ですかい?」
「まあ、そんなところだ」
気安く話しかけるんじゃない。
俺は侯爵家の嫡男だというのに、連日の炊き出しのせいで住民たちは距離感を間違っているようだ。
大勢に声をかけられつつも、俺はドワン親方の工房にやって来た。
「橋の向こう側はスラムか……」
ドワン親方はドワーフ。人族以外の住民は平民街でも端の方に住んでいる。また平民街の先にはスラム街が拡がっていたんだ。
「視察してみようか」
ただの興味本位だった。
スラム街など王都の汚点だという認識。どうしてか俺は吸い込まれるようにして足を踏み入れていたんだ。
「スラムなど必要ないと考えるが……」
行き場を無くした人たちのために、王家が用意したというエリアだ。
騎士団が関与しない唯一のエリアであり、それだけに無法地帯と化していた。
「兄ちゃん、待ちな! 有り金を全て寄越せよ」
やれやれ。早速、悪漢の登場か。
よりによって神に比肩する才能を持つ俺に喧嘩を売るなんて、愚民にもほどがある。
「誰に口をきいているんだ? ここは切り捨て御免のスラム街だろ?」
「オレたちは大盗賊団[黒光り]。名前くらい聞いたことがあるだろう?」
そういや帝国からゴキブリ的な盗賊団が王国に流れ込んでいるという報告書を見たな。こいつらがそうなのだとしたら、俺は倒しておくべきだ。
(気まぐれで来たというのに、何という幸運なんだ!)
わざわざ殲滅しようと動くのは面倒だが、向こうから現れるのならその限りではない。
女神フローリス様、此度もありがとうございます。市井を荒らす盗賊団の殲滅ともなれば、俺の評価はうなぎ登りとなるはずです。
あれよあれよという間に、俺は三十人ばかりの盗賊に囲まれていた。
だけど、たったこれだけじゃないだろう?
俺には大盗賊団の殲滅という功績が必要なんだ。チンケな盗賊団なら相手をする必要はなくなるっての。
「アジトはどこだ? 着いて行ってやろう」
「はん? 自ら捕まり、身代金を要求してくれるのか?」
「まあ、そんなところだ。早く案内しろ」
一網打尽にしてやるぜ。超天才を襲った愚かさを思い知るがいい。
俺は手枷を取り付けられ、盗賊団のアジトへと連行されている。スラム街に大規模な地下室があるなんて思いもしなかったな。
「なかなかの拠点じゃないか? 帝国から逃げてきたばかりだろうに」
「お前、なぜそれを知っている!?」
報告書にあった通りだ。確か帝国から国際手配書まで届いていたはず。
「何を盗んだ? 参考程度に聞いておこうか。大盗賊団の仕事ぶりを」
「お前がそれを知る必要はない!」
帝国が躍起になって彼らを追う理由を俺は知っている。
第四皇女殿下が攫われたんだ。
見目麗しいと評判の姫君。裏で王国が手を引いているとかいう難癖を付けられている。
「まあ、言えないか? 何しろ皇女殿下を攫ったのだからな」
「どうしてそれを!?」
バカは扱いやすくて良い。とても素晴らしいよ。
しかも俺が大暴れしたとして問題のないスラム街に逃げ込むなんて。貴様たちには女神様の加護がなかったのだろうな。
「奥の部屋か……?」
「黙れ! それ以上喋ると命はないぞ!?」
姫殿下がいる場所さえ分かれば問題ない。貴様たちは地獄でその罪を反省したまえ。
まさに僥倖。俺は棚ぼたの功績を得られるだけでなく、帝国にも恩を売れるんだ。
『美しきプリンセス。超天才の俺が助けに来ましたよ?』
『まあ、素敵! ワタクシ、恋してしまいましたの!』
『困ります! 俺は別に下心で助けたわけでは……』
『褒美はワタクシです! 好きにしてくださいまし!』
『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』
なんてなぁぁ!?
帝国の姫君と繋がるのはメリットしかない。美しいと評判だし、亡命先として帝国は最適なのだから。
ならば害虫駆除は任せたまえ。超天才の名において殲滅してみせましょう。
いきり立つ俺は感情を吐き出すようにして、盗賊団に向けて話を始めた。
「職業柄、俺は流血に慣れてしまっているが、本心では血とか見たくない」
[※職業は教育係ですよね!?」
手枷ぐらいで俺をどうにかできると思うなよ?
俺には身体能力を大幅に増強する強化スキルがあるのだから。
「俺はな、我が教え子ほど残忍ではないし、生ある全てに牙を剥く度胸もないんだ」
[※教え子は純真なお姫様ですよね!?」
女神様に導かれし俺は神の代弁者にも等しい。盗賊風情がそんな俺を拉致し、身代金を要求だって?
ジョークとして最も笑えないやつだ。
「金を稼ぐのは簡単じゃない。盗賊とかイージーに生きてんじゃねえよ。俺なんか脳みそが破裂しかねない職場にいるんだぞ?」
[※お姫様の教育係ですよね!?」
貴様たちにも知ってもらおうか。
身体中を斬り刻まれ、血を撒き散らし、脳が爆ぜる恐怖ってやつを。
『わたくし、肉団子を作ろうと思いますの! に く だ ん ご です!』
『まだお食事には早い時間ですが?』
『別に食べるわけではありませんわ』
『姫様、ななな、何を!?』
『ブロック肉にしてから、粗挽きミンチにしてあげますぅ!』
『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』
オチは同じだが、気にしないでくれたまえ。
自身の切り身がミンチにされる様子は地獄すら生温く感じるものなのだ。
「俺よりも楽に生きるとか許せん! 次期施政者様がご所望されるままに挽肉と成り果てるがいい!」
[※望んでいませんけど!?」
言って俺は身体強化スキル(英雄級)を発動し、手枷を破壊する。更には右手を掲げて、呪文の詠唱に入っていた。
「肉団子となり、その罪を詫びろォォッ!!」
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