29 白雪姫
「――ろ。朔、起きろ」
「あれー、朔ちゃん熟睡中?かっわいいねぇ」
「お姫様は王子様のキスで起きるんだよね〜。朔ちゃん俺がキスで起こしてあげようか?」
「ははっ煌。それなら俺が起こすよ」
(…………ん………)
ぼんやりと騒がしい声が聞こえる。まだ眠たい朔は目を開けないで瞑っておく。
煌と凪の言葉に維月が「は?ふざけるなよ」と言ってキレている。
「朔ちゃーん、起きる時間だよ。キスをお望みかな?」
しかし、煌はまったく気にせずに朔に言ってくる。眠っている全女子にこのような事を言っているのだろうか。
「誰が、誰に、何をするって?」
流石に聞き捨てならないので目を開ける。
すると、煌は笑顔を引き攣らせている。凪はまったく気にせずいつもの無駄にキラキラした笑顔だ。
「朔ちゃん、僕何もしてないよ?」
「ああ、それは知っている。私が聞いているのは煌と凪だ」
無罪を主張してくる千歳に適当な声掛けをしておき、煌と凪を睨みつける。
(本当に、こいつらは何でこんなにもロクでもないことを思いつくんだか)
煌は言い訳がましく朔に話す。焦っているためか饒舌になっている。
「いや、朔ちゃん冗談だって!だいたい維月も朔ちゃんとキスしたいでしょ、言っていないだけで」
「…………」
「そこは否定しろ、維月!そもそも思っても実行するな!」
煌の言葉に口をつぐんで目を逸らす維月とほら見ろと言わんばかりの表情の煌に喝を入れる。
そんな様子を楽しそうに凪と千歳が見ている。
「お前らも煌を止めろ。……凪、そういえばお前も便乗しようとしていたよな」
朔は思い出して思わず半眼になるが、凪には効いていないようだ。
「あはは、朔ちゃん何のこと?」
(胡散臭さがものすごい)
笑顔で凪は言い切る。
朔にはその笑顔がいつも以上に黒く感じれた。
「はぁ…。で、何で私を起こしたんだ?着いたのか?」
朔はこれ以上追求することをやめて話題を変える。
バスが出発した頃よりも太陽が高い位置にあることから随分と時間が経った事がわかる。
「ああ。朔、降りるぞ」
維月が声をかけてくれる。
先程の沈黙はどういう事なのか問いただしたいが、やはりこのグループで1番信用できる。
「わかった」
朔は小さく伸びをしてバスの座席から立つ。
クラスメイトが降りようと列をつくっているところだった。
班の女子メンバーや夜の事など憂鬱な事は多いが、その分楽しみな事も多い。
(これから二泊三日か……)
朔は珍しく学校行事に乗り気だった。




