28 バスでの出来事
「そういえばどこに行くんだ?私は何も知らないんだが」
朔が今更すぎる質問をする。
宿泊学習の前準備の学活等も大抵寝ていたので、今まであまり気にしていなかったのだ。
「えー!朔ちゃんしおり見なよ〜」
「逆になんで行き先知らないの?マジウケるわ」
千歳に言われた通りしおりを見てみる。
表紙にはでかでかとした『親睦を深めよう!〜富士五湖周辺二泊三日宿泊学習〜』と言う字と、恐らく生徒が描いたであろうイラストが載っていた。
「富士五湖?」
「そう。富士五湖は、山梨県の富士北麓にある河口湖、山中湖、西湖、精進湖、本栖湖の総称なんだよ」
朔はふーんという気の抜けた返事をする。
あまり他県には詳しくない朔なので、富士山周辺に何があるのかも詳しくない。
「じゃあ今から行くのは静岡?山梨?」
確か富士山は山梨と静岡の両方にあるはずだと思い出す。
維月が朔の横髪を耳に掛けて呆れたように言う。
「はぁ……、今から行くのは山梨だ。……寝れるうちに寝ておけよ」
「そうだな。わかった」
(いつの間に眠たいのバレていたんだ?気づかれていないと思ったんだけどな)
維月は朔の事をよく見ているんだと実感させられる。そこまでわかりやすいとは思っていないのだが実際は違うのかもしれない。
「えー朔ちゃん寝ちゃうの?」
「千歳、わがまま言うなよ。俺もおんなじ気持ちなんだからな」
「2人とも……。気持ちは俺もわかるけど朔ちゃんの体調優先でしょ」
不満げな千歳と煌を凪が宥めてくれるので、2人は凪に任せて朔は眠りにつく事にする。
走るバスの振動が心地良い。
「朔、ついたら起こすな」
「……んーいつ、き………」
維月に声をかけられた時にはもう朔の意識は途絶えかけていた。すぐに眠れるのは友人が近くにいて安心できているからかもしれない。
***
「ありゃりゃ、朔ちゃんもう寝ちゃった?」
煌が朔の座席の後ろから朔の寝顔を覗き込む。
熟睡している朔は少しの物音ではまったく反応しない。それほどまでにこの状況で安心しているのだとわかった維月は嬉しくなる。
維月はそっと朔の長い髪を梳くように撫でる。
サラサラとした指通りのいい髪は窓からの朝日を浴びてキラキラと輝いている。
朔が目を閉じていると、先日の事を思い出してしまう。
朔が彼女自信の生い立ちを話してくれた日。朔は話したら維月が離れていくとでも思ったのだろう。
しかし、実際は真逆だ。維月は必死に強く生きる朔を愛おしく思い、さらに執着してしまっていた。
(朔……、絶対に離さない。もう二度とあんな想いはさせない)
維月はもっと朔に触れたいがここはバスの中なのでやめておいた。これ以上触れたら止められる自信が無いので仕方がない。
維月は名残り惜しいがそっと朔の髪を手放した。




