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婚約者に近づくなと言われました。  作者: 長井よる


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2/3

中編

 次の日のこと。


「あら? ローラン子爵とグレース様じゃないですか。ごきげんよう」


 オリバーと共に王宮内にいたグレースの前に、カトリーナが現れた。カトリーナは輝かしいばかりのプラチナブロンドの髪をなびかせ、グレース達を視界に入れると口元に弧を描く。


 オリバーとグレースが挨拶をすると、カトリーナは猫のような目を細め、


「聞きましたわ。最近、王太子殿下に(そで)にされているって」


 と、せせら笑うように言った。


「……殿下にもご事情があるようなので」


「まあ、それってどんなご事情なのかしら?」


 カトリーナは口元に手を当て、クスクスと笑う。


「……あ、グレース様も殿下のお誕生日パーティーにはいらっしゃるのかしら?」


「……そのつもりですが」


 婚約者の誕生日パーティ―に出るのは当然だろう。その馬鹿にするかのような質問にオリバーは眉をひそめた。カトリーナは、何が楽しいのか更に笑みを深める。


「そう。……ああ、聞いてくださる? この前読んだロマンス小説にね。真実の愛に気付いた王子様がパーティーで婚約者に婚約破棄を付き付けるって話がありましたわ」


「はあ」


「……グレース様もそうならないと良いですわね?」


 カトリーナはグレースに顔を近づけると、至近距離でそんなことを言った。


「ミッチェル侯爵令嬢、いくら何でもお言葉が過ぎますぞ……!」


 あまりの言葉にオリバーが抗議する。カトリーナはパッとグレースから顔を離すと、


「冗談ですわ」

 

 と言った。


「では、ごきげんよう」


 カトリーナは踵を返し、その場を去っていく。





「まったく……なんて方だ」


 オリバーがため息を吐く。


「お兄様……カトリーナ様の付けていた首飾り、見ました?」


「首飾り? いいや、見てないが……どうかしたか?」


「……いえ、なんでもありません」


(あの首飾り、あまりこの国では見ないデザインね。外国……東国のものかしら? ……それに……)


 グレースは考える。

 最近セオドアとカトリーナが仲良さそうにしているらしいこと、カトリーナが今までグレースの前でだけだった嫌味を兄の前でも言ったこと、そしてあの首飾り……。


 グレースは今までカトリーナのことを気に留めたことはなかったが。


(少し、調べてみよう)


 そう思った。




♢♢♢♢♢


 遂に訪れたセオドアの誕生日パーティーの当日。

 王太子が成人を迎えるというこの記念すべき日に国中の貴族達が集まる。


 王太子の婚約者であるグレースが、セオドアではなく兄のローラン子爵にエスコートされ入場したことに、周囲の貴族達はどよめいた。

 しかし、『グレースが最近何か不手際を起こし王太子殿下から距離をとられている』、という噂がまことしやかに流れていたので、さもありなんと納得している者もいた。


 肝心のセオドアは、誰か別の女性をエスコートすることもなく、一人で会場に入場しており、そのことにも貴族達の注目を集めている。

 この日に合わせ帰国していた国王も、王の席でその様子を(いぶか)しげに見つめていた。



 貴族達がセオドアに成人のお祝いをするため、列を作る。


 グレースは、婚約者の誕生日なのだからお祝いの挨拶くらいしても罰は当たらないだろう、とも考えた。しかし、セオドアの側に近づいてはいけない期限は本日までだ。

 自分から話しかけに行くのはまずいかもしれないと思い、オリバーだけ挨拶の列に並ぶよう促し、グレース自身は少し離れたところでセオドアの様子を窺った。


 セオドアの側に、まるで婚約者のように立っているのはカトリーナだ。

 カトリーナはたまに甘えるようにセオドアに話しかけ、セオドアもそれに応えている。


(カトリーナ様ったら……婚約者きどりかしら? ……というか殿下、やっぱりつかれてるわね……)


 セオドアは先週グレースが見たときより、顔色が悪いを通り越して真っ白になっており、その綺麗な瞳もよどんでいる。グレースは心配でたまらなかった。


 他の貴族達はというと、そんなセオドアの様子に気付いてその体調を気遣う者や、影で「憂いのあるお姿も色気があって素敵!」と騒ぐ令嬢達もいた。


 オリバーの番がきたので、


「殿下、十八歳のお誕生日、おめでとうございます。一層のご健康とご多幸を、心よりお祈り申し上げます」


 そうオリバーは(あらかじ)め用意していた挨拶を唱えた。


(全然健康じゃなさそうだけど……) 


 とこっそり思っているオリバーに、セオドアは何か他を探すように視線を揺らしながら、


「祝いの言葉感謝する、ローラン子爵」


 と答える。


「グレースならあっちの、端のほうにおりますよ」


 オリバーはグレースがいる場所に視線をやって教えるが、セオドアはそれには何も答えなかった。



 挨拶を終えたオリバーはグレースの元に戻るなり、


「殿下、ますます体調悪化しているな……」


 とぼやいた。


「ええ、つかれてますわね……」


 二人は深刻な顔をする。


 しばらく雑談していると、貴族達からの挨拶を全て(さば)き終わったらしいセオドアが、グレースとオリバーの前に立った。


「え、あ、殿下……?」


 近づくなと言ったのに、向こうからこちらに近づいてきた。

 グレースは動揺しながらも頭を下げた。


「で、殿下、お誕生日おめでとうございます……」


「……。ああ、ありがとう。グレース……」


「…………」


「…………」


 周りの貴族達の視線がセオドアとグレースに集まる。

 そして、にやにやとした表情を浮かべたカトリーナがセオドアのすぐ近くにいるのが気になったが、グレースは意を決して口を開いた。


「……今日でお側に近づいてはいけない期限は終了ですわよね。明日からまた元通りでよろしいですか?」


 グレースが微笑むと、セオドアはさっと俯いた。


「……くれ」


「え?」


「……婚約破棄、してくれ」


 そう、セオドアは絞り出すように言った。


「……何故でしょうか?」


 視界の端で、カトリーナが笑いを必死に抑えている様子が映る。

 セオドアの声は小さかったが、それでも近くにいた貴族達には聞こえたらしい。その発言は会場内に次々伝達され、それは国王の元にも届いた。

 国王は血相を変え、王の席から立つと、こちらへと近寄ってくるのが見えた。


 グレースの隣にいるオリバーはこの展開に絶句し、黙り込んでいる。


「理由を教えていただかないと了承できません」


 冷静に、グレースはセオドアの瞳を見つめそう言った。


次で完結です。


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