10話 わけを知った人々
私はその場に降り立って、思わず声が出ないよう口元を押さえた。
1人を5、6人で囲み暴行を加えている。それも何十か所でだ。
暴行を加えられている少数が、集まることもできないように、引きずって離れていく姿も見える。
王城の庭はこんなにも狭かっただろうか。
いや、そんなことは今はどうでもいい。
私は2度と後悔はしたくない。得た知識をフルに利用してでも、この国を救うと決めたのだから。
一番近くにいた集団の、圧し掛かられ殴られていた男性を見る。
まだ彼にしっかりとした意識があるのを確認すると、上に乗りあげている人物に腰の剣で一気に切りつけた。
魔力を押し込めれば、大して傷もできていなくても、カクンと力が抜け白目を剥いて倒れた。
「す、すまない。助かった」
息は切れていても、意識はしっかりとしているようだ。
「あなたは魔力のある人かしら」
「……少しだが」
「じゃあ、これに魔力を纏わせて、戦ってほしい」
剣のような剣でないものを急に渡されて、彼は戸惑ったみたいだった。
「狂ってしまった人たちには、普通の武器では対応できないのよ」
ミュラルティの『狂った』という言葉に苦笑いを浮かべ、かえって納得の顔になった。
「それにこの人数だもの。自分の身は自分で守ってもらわないと」
彼がその言葉に、ようやく息を整えて顔を上げると、目の前の人物がまだ少女と言ってもいいぐらいの若さであることに驚きを見せた。
自分を救い出した存在は、頼りない細い身体をわずかに震わしているようにも見える。
先ほどの一太刀を目で確認していた彼は、変わった形の剣もすんなりと受け入れ、護るように少女の前に立ち塞がった。
今は1人でも戦力が欲しい。
こんなことなら、彼らに手伝ってもらった方がよかったんだろうけど。
あの時は犠牲になるのは自分だけでいいと思ったのだ。まさか、ここがこんな風になっているだなんて思わなかった。救わなければならない命が、他にもあることなど考えもしなかったのだ。
やっぱり、私は先の見通しが甘いんだわ。
ふ、と自嘲して、そんな暇なんてないことに気づいた。
まだここには、暴力に、狂気に屈していない人達がいる。
ぐるりと周囲を見渡した彼が走り出した方に、手を繋がれたままの私は必死でついて行き参戦した。
そこでもう1人の救出に成功すると
「同じ武器があるならば、彼にも渡してくれ。なければ俺のを」
と荒い息の中から絞り出すのを聞き取り、慌てて剣を取り出した。
聞けばなるほど、彼はこの国の兵の1人だったようだ。
魔力値がそこそこあるためか、剣を彼に渡した方がいいと判断されたのに相応しく、直ぐに2つの集団が無効化された。
「俺もまだ戦える。剣があるなら何本か分けてくれ」
「ええ、わかったわ」
段々と増える味方に、萎えそうだった気力が息を吹き返し始めた。
誰の力も借りずに、なるべく少ない犠牲でやれることをやろう。
そう決意してきたのに、見たこともない状況に私は怯んだ。
それでも、ここにはまだ諦めていない人がこんなにもいるのだ。
自分1人では何も成すことなどできないけれど、今ここに私は、1人じゃない。
確りしなさい、ミュラルティ!!
助けを借りて、多くを救うのよ。
それができるのは私しかいないのに、止まってなんかいてどうするのよ!
まずはこの広場をなんとかしよう。
それから、城の中を片付けなければならない。
「私はミュラルティ。先王の娘です。彼らを正気に戻す特別な剣はまだあります。偉大なる王の血を引く皆さんは女王の洗脳に係ることがありません。どうか……どうかこの国の人々を救うため、その力を貸してください」
広場の人々は、ミュラルティの言葉で初めて何が起ころうとしているのかを知った。
理不尽に虐げられ処刑されていた理由を知った。
何故周りの人々が狂っていったのかを知ったのだ。