24. 記憶?
「キェァァァ!!!!」
水路を脇に望んだ石畳の通路を、人型のネズミが突っ込んでくる。
3匹。いずれも私と同じくらいの背丈。
手にはスパナ、ハンマー、手斧──おそらくどこかで拾った武器だ。
「――閃光の魔法!」
背後から白光が襲い、ネズミ人間たちの視界を奪う。
一瞬遅れて悲鳴が上がり、ネズミ人間たちが足を止めた。
その隙を、私は見逃さない。
閃光を背にして低く滑り込み、先頭の個体の懐へ。
顔をかばって上がった腕──その腋下へブレードを斬り上げるように滑り込ませる。
「ギャッ!?」
悲鳴を上げ、体勢を崩すネズミ人間。
しかしそれには構わず、私はその脇を抜けてさらに奥の固体、スパナを振り上げているネズミ人間に向かう。
(先頭が影になったか)
振り下ろされるスパナ。
私は〈認識阻害〉で自分の幻影をその場に残すと、それを囮に背後に回り込んだ。
「──ッ!」
ショートソードを腰だめに突っ込み、背後から背中を突き刺す。
「ギュァ!?」
悲鳴。
しかし喚いたところでもう遅い。
体重を乗せて押し倒されたネズミ人間が紫色の煙となって弾けた。
「投石の魔法!」
直後、横で鈍い破裂音。
振り向くと、ハンマー持ちの頭部が弾け飛び、同じように煙へと崩れていくのが見えた。
マーリンの魔法だ。
残り1匹。
「ヂュゥ……」
腋を裂かれた個体が、赤い瞳でこちらを睨む。
傷口はすでに蠢き、肉が盛り上がり始めていた。
(……やっぱり来るか)
私の方にくればマーリンは私を巻き込むのを恐れて魔法が使えない。
それがわかる程度には知能が高いのだろう。
ネズミ人間はだらりと手斧を垂らし――次の瞬間、低く縫うように突っ込んできた。
関節の角度を無視した軌道。
腕を鞭のようにしならせ、斧を叩きつけてくる。
――魔物特有の、再生前提の動き。
これまでこの地下水道で何度か見てきたが……まぁ、腕の長さを無視しないという前提があるのなら、避けるのは容易だった。
「ギャ!?」
振り下ろされる手斧が、中空で急停止する。
慣性だけが腕に残り、手斧からすっぽ抜けた。
二重振り子の要領で宙に投げ出されるネズミ人間。
私は逃げ場をなくしたそれに向けて、〈金属操作〉で奪い取った手斧を投げ返した。
「ヂュァ……ッ!?」
──風船が割れるような、鈍い破裂音。
首から上が弾け、紫の煙が広がる。
遅れて、魔石が石畳に転がった。
「ふぅ……」
私は軽く息を吐きながら気配を探る。
もう近くにはいないようだ。
私はショートソードを鞘に納めると、カンテラを持って駆けてくるマーリンを見やった。
私が前に出て、マーリンが援護する。
何度かここで試して、自然と出来上がった連携である。
この地下水道では、とりあえずそれが一番効率がいい。
『ステータスレベルが5に上がりました』
私は視界左下の告知をちらりと見ると、石畳に落ちた魔石を拾い上げた。
「なかなか様になってきたな」
マーリンが残りの2つの魔石と、スパナとハンマーを受け渡しながらつぶやいた。
「そうだね。
今くらいの相手なら、かなり余裕かも。
マーリンは魔力の方大丈夫?」
「問題ないぞ。
閃光と投石、2つしか使ってないからな。
このペースならあと1日は使い続けてもいい……と言いたいところだが」
マーリンが肩をすくめる。
その理由は、私も簡単に予想がついた。
「誘拐犯か」
「連戦できるかって言うと疑問だな。
何せ、仕組みはわからんが転移の魔法が使えるほどの魔法使いだぜ?
魔力量が比べもんにならねぇよ」
一応、ショップ画面からは魔力回復用のポーションを購入してある。
だがそれも何本もってわけじゃないし、戦闘中に飲む暇があるかと聞かれるとかなり疑問がある。
相手がどんな魔法を使ってくるかさっぱりわからない限りは、あまり隙を見せるべきじゃない。
(もしかすると、私の〈金属操作〉みたいに空間を操れるスキル持ちかもしれないしな……)
もし仮にそうなら、魔法なんかより圧倒的に魔力効率は高くなる。
現在の私の〈金属操作〉の消費MPは20秒で1点。
同様のスキルを持っているなら、相手もそれなりの消費効率としてみるべきだ。
「そういえば、ギルドで何か言いかけてたよね?」
地下水道の攻略を再開してしばらくだった。
脇の水道から飛び出してきたスライムから魔石を回収しながら、ふと思い出したことを尋ねてみた。
「何のことだ?」
「ほら、上位種のレイスじゃなければ最悪……って」
「あぁ、あれか」
あの時はタイミング悪く、受付嬢がメイドさんが帰ってきたって言いに来たせいで聞きそびれたわけだが、今なら邪魔も入らない。
私はマーリンが何か言いづらそうに視線を落とすのを覗き込みながら、答えを待った。
「最悪だって思ったのは、レイスの上位種、ゲシュペンストの可能性なんだよ」
「ゲシュペンスト?」
聞いたことのない名前に、私は首を傾げた。
たぶん、この世界特有の魔物か何かなのだろうか?
「ところで、ご主人様は幽霊って魔物がどうして幽霊って呼ばれるか知ってるか?」
突然の話題転換に、私は首を横に振る。
「幽霊には人の記憶を読む能力があってな。
その人が今一番合いたい死人の幻覚を見せるんだよ。
それで油断したところを襲って魔力を吸い取って殺しに来るのさ。
上位種のレイスになるとこの見せられる幻覚が、その人が一番怖いものに変わるんだが……」
「……もしかして、嫌な記憶を植え付ける能力になる、とか?」
幽霊もレイスも、記憶を読んで幻を見せに来ていた。
記憶を読んで幻を見せることで危害を加えるというのなら、更にこれが進化するとなると、もしかすると偽の記憶を植え付けたりすることもあるんじゃないだろうか、と考えたのである。
「その通り。
しかもそれが、現実にあったことなのか植え付けられた過去のことなのか、被害を受けた本人には確認するすべがないんだ。
俺も、父上に昔、説法の一環で伝え聞いたくらいだから、おとぎ話だとは思うんだが……」
苦笑いを浮かべながら後頭部を掻くマーリン。
「被害者の供述を聞いてると、どうしてもそれっぽいなぁ、って思ってさ。
暗闇の中に連れ込まれて何度も殺される記憶を植え付けられた話とか、実は前世が暴君で、暗闇に引きずり込まれて暗殺されたっていう記憶を植え付けられたっていう話とかさ。
まあ、だとすると転移とはあまり関係がなさそうだし、あんまり気にしないでくれ」
「……いや、参考になったよ」
彼の言葉に、私は引きつった笑みを返す。
(前世の記憶を植え付けられる……か)
急に他人事じゃなくなった感覚に、私は背中をぶるりと震わせた。
もし、私の持っているこの前世の記憶が偽物なんだとしたら、なんて思うと笑えない。
そんなはずはない。
なんて、いったい誰が証明できようか。
今の私を知っているのは、この世界にいるのは、冒険者ギルドのアイザックとか受付嬢の人、同じ冒険者仲間のジュンとか、あとは目の前にいるこの少年、マーリンくらいだ。
でもそれが、それすらも作られた記憶だったら?
私は、一体何を信じればいいのだろうか……。
「ご主人様?」
「……いや、何でもないよ」
私はつとめて平静を装いながら笑みを浮かべると、再び地下水道の探索を再開することにした。
『スキル〈恐怖耐性〉のレベルが3に上がりました』
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.5
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.1
〈無謀な挑戦者〉Lv.1
〈導師見習い〉Lv.1
〈追跡者〉Lv.1
〈暗がりに潜む者〉Lv.1
HP:50/50
MP:50/50
SP:80/80
筋力:22
活力:6
速度:6
知能:6
感覚:12
残りステータスポイント:0
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.4
└〈偃月殺法〉Lv.1
〈体術〉Lv.1
└〈空気投げ〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛〉Lv.1
└〈隷属の首輪〉Lv.1
〈契約の呪詛〉Lv.1
〈制限の呪詛〉Lv.1
〈洗脳〉Lv.1
〈幻惑〉Lv.1
〈認識阻害〉Lv.3
〈夢の檻〉Lv.1
〈金縛り〉Lv.1
〈蝕む痣〉Lv.1
〈服従の呪詛〉Lv.1
〈魔法〉Lv.1
└〈術式理解I〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈跳躍〉Lv.1
〈咆哮〉Lv.1
〈疾走〉Lv.1
〈パルクール〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.2
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.1
〈負傷耐性〉Lv.2
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.3
〈不意打ち耐性〉Lv.1
〈閃光耐性〉Lv.2
〈麻痺耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.2
└〈名推理〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
〈遠見〉Lv.1
〈暗視〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.1
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.1
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.2
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:4
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読んでいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!




