十二月(1-2)
十二月(1)
クリスマス・イブの夕方。
私は、マリアに生徒会室に呼び出された。
「私、アーサー様に振られてしまいました」
マリアは、悲しそうに微笑んだ。
そっか……。
やっぱりダメだったか。
私とマリアは頑張った。
でも、ディアナ嬢とアーサー様の絆には勝てなかった。
私たちが頑張ったように、ディアナ嬢も頑張ったに違いない。
失恋した女の子に何を言ったら良いのだろうか。
気持ちを切り替えて、別の男を探そう!
ゲームじゃあるまいし、そんなことが言えるはずが無い。
私は、『魔眼を使わない私だけの魔法』なんて言って、調子に乗っていただけだった。
私は、マリアになんと言ってあげたら良いかわからない。
そんな都合の良い攻略方法は知らなかった。
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十二月(2)
今日は、王立魔法学園の記念パーティーだ。
私は、ランスロット様と一緒に出席することになった。
でも、マリアはパートナーが見つからず一人だった。
可哀想だが、私にできることは何も無い。
……本当にそうだろうか。
私は、魔眼の魔女だ。
親友と言っても差し支えのないマリアのために、私ができることがあるはずだ。
私ができることは――。
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そうだ。
アーサー様と話しをしてみよう。
何か逆転の手がかりが得られるかもしれない。
記念パーティーが始まるまで、残された時間は少ない。
前世の乙女ゲームをやりこんだ記憶を頼りに、アーサー様を探した。
ひと気の無い廊下を歩いていると、前方から第三王子のアーサー様と第二王子のロイド様の声が聞こえた。
「アーサー、上級生のあいだで噂になっていたぞ」
「何がですか?ロイド兄さん」
アーサー様とロイド様は兄弟だ。
でも、あまり仲は良くない。
「お前がディアナ嬢を捨てて、マリア嬢と婚約するんじゃないかってな」
「そんな馬鹿な。マリア嬢とは仲の良い、ただのクラスメイトです」
アーサー様の少しムッとしたような声が聞こえた。
「そうか、残念だな。お前がマリア嬢と結婚してくれれば、我が国は安泰なのにな」
どう言う事ですの?
人払いの結界が設置されているようだが、魔女ならこの程度の結界など問題無い。
もう少し近づいて聞いてみましょう。
「マリア嬢の弟ユーリは、危険な奴だ。国内最強の魔法剣士のくせに、農地改革や新商品を開発する実業家でもある」
ユーリ君……。
改めて聞くと、ラノベ主人公そのものよね。
「我が国としては、彼と血縁関係を結んででも繋ぎ止めておきたい。だが、彼には複数の恋人がいるようだ」
なるほど。
それでマリアとアーサー様を結婚させて、ユーリ君を国に逆らえないようにしたいのね。
「兄さん。そんな事ができるはずが無い。父が国王が許すはずが無い」
それはそうよね。
ディアナ嬢は、長年王家を支え続けた公爵家の令嬢だ。
いわばアーサー様とディアナ嬢は国が決めた婚約者同士。
一方、アーサー様とマリアの結婚には、困難が多い。
乙女ゲームのエンディングでは、二人手を繋いでどこか遠くの国に旅立つうしろ姿で終わる。
おそらく、この国にいる限り、アーサー様とマリアは幸せにはなれない。
アーサー様は、そういう現実を見据えてディアナ嬢を選んだのだろう。
でも、ロイド様は、こう言った。
「父に対する遠慮は必要ない。もう根回しは済んでいる。あとはお前の気持ち次第だ」
「なっ、本気ですか?ロイド兄さん!」
へーそうなんだ。
ゲームでは陰険眼鏡と呼ばれていたロイド様だったけど、本当に策士だったのね。
アーサー様とマリアの結婚を国の上層部が望んでいる。
これは素晴らしい情報だわ。
「誰だ、そこにいるのは!」
あっ、まずい。ロイド様に見つかってしまった。
「君は……グインネヴィア嬢。兄さん、彼女は僕のクラスメイトです」
「人払いの結界を張ったはずだが。貴様どうやって入ってきた?」
結界?
あれが?
「あんな低級な結界、まったく効果がありませんわ」
そう言って、意味深に笑ってやった。
「王族が使用する結界が低級だと!」
ロイド様の魔力が高まるのを感じる。
短縮魔術を、右手の指輪から代理詠唱しているのね。
私には、魔力の流れが見えている。
「待ってくれ兄さん。グインネヴィア嬢。今の話は聞かなかったことにしてくれ!」
「どけ、アーサー!」
私は、このゲームをやりこんだ膨大な経験がある。
ロイド様の行動など手に取るようにわかる。
ロイド様が短縮魔術を詠唱した。
『私はあの敵を拘束する。スパイダーウェブ』
私は、祈祷と呪いの魔術を得意とする支援系魔術師だ。
『インタラプト・カウンタースペル』
割り込みを宣言して、短縮魔術を対抗呪文で打ち消した。
「短縮呪文を打ち消した……だと?」
ロイド様が驚愕していた。
行動を読まれたうえ、魔術で魔眼の魔女に対抗できるはずが無い。
「何が目的なんだ?グインネヴィア嬢」
アーサー様は冷静ね。
聖剣キャリバーンを呼ばれたら、私に勝ち目は無かったわ。
「お願いがありますアーサー様。マリア嬢と一緒に記念パーティーに出てもらえませんか?」
「済まないが、それはできない」
即答だった。
ディアナ嬢との約束を守るつもりなのね。
かっこいいわアーサー様。
アーサー様の隣で、ロイド様の魔力が高まるのを感じる。
隙を見て、もう一度短縮呪文を詠唱する気ね?
もう、つき合っていられないわ。
『ロイド様、少しの間お眠りなさい』
私は、『魔眼:人心操作』を発動した。
ロイド様は、魔眼の効果に抵抗できずに眠った。
「グインネヴィア嬢、君は魔眼の魔女だったのか!?」
ここまで隠しておいたのに、本当に残念だわ。
『アーサー様、お願い。マリアを幸せにしてあげて下さい』
私は、『魔眼:人心操作』を発動した。
アーサー様は、魔眼の効果に抵抗できずに倒れた。
これで良かったんだ。
こんなチャンスは無い。
マリアは、アーサー様と結ばれて、この国で幸福に暮らせるんだ。
だが、そのときマリアの声が聞こえた。
「グインネヴィア。あなたは、今何をしたの?」
振り返ると、マリアが蒼白な顔で立っていた。
「安心してマリア。私はアーサー様とちょっと話しをしただけよ」
マリアは、アーサー様に駆け寄った。
「私は全部見ていました。あなた魔女ね」
それが何か?
「アーサー様を元に戻してください!」
「何を言っているの?これは、あなたのためなのよ?」
「こんなの間違っている。わからないの?」
マリア。あなたは、何を怒っているの?
「私は、あなたを告発します」
どうして、わかってもらえないのかしら?
それに、発動した魔眼は元に戻せない。
もう後戻りはできないわ。
『マリア、お願い。私を信じて』
私は、『魔眼:人心操作』を発動した。
マリアは、魔眼の効果に抵抗できずに倒れた。
ちょっと強引だったけど、これで良かったんだ。
今まで封印していた魔眼の力まで使ったんだもの。
きっと、上手くいくわ。




